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未来から吹いた風2 《軍人転生編》  作者: 青雲あゆむ
第3章 昭和編

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33.航空機を開発しよう

昭和12年(1937年)4月 海軍追浜飛行場


 1937年になると、軍縮条約の拘束期間も解け、海軍は本格的な艦艇の増強に入っていた。

 同時に陸軍も師団数を増やしており、13個師団から15個へと変わっている。

 さらに20個師団まで、段階的に増やす予定だそうだ。


 これは表向き、相変わらず不安定な中華民国への備え、として説明されている。

 しかし本音としては、西太平洋で軍備を増強しつつある、アメリカへの備えなのだ。

 重要な外交相手であるイギリスとオランダには、その旨を説明して、ある程度の理解を得ている。


 そしてすでに中将となり、航空本部長に就任している俺の下で、航空機の刷新も進んでいた。


「お~、なかなか速いな」

「ああ、機動性も悪くないぞ」


 今、後島と俺が視察しているのは、制式化されたばかりの97式艦上戦闘機だった。


【97式 艦上戦闘機】

長さx幅:9.1x11m

自重  :1.9トン

エンジン:三菱 金星 空冷複列星型14気筒(32.3L)

出力  :1130馬力

最大速度:時速565キロ

航続距離:増槽つき2200km

武装  :12.7ミリ機銃x4

乗員  :1名


 前世でも実現したように、その外観は史実の零戦によく似たものだ。

 ただしエンジンは三菱の金星を採用しているので、史実よりもややずんぐりしている。

 当然ながら、航続距離や格闘戦能力は控えめにし、その分、速度や急降下性能、生産性に優れる機体だ。

 零戦の弱点と言われたロール性能も、ちゃんと改善してある。


 武装は12.7ミリ機銃を4丁とし、装弾数は史実よりも多めである。

 また金星エンジンは、史実の栄エンジンよりも排気量が4.5リットル大きく、信頼性も高いため、まだまだパワーアップの余地を残していた。

 今後の熟成により、欧米の戦闘機にも負けない性能を披露してくれるだろう。


 この他に艦上攻撃機、艦上爆撃機も戦力化されているが、その裏で画期的な機体の開発も進んでいた。


「こっちは攻撃機とは思えない速さだな」

「ああ、あれが実用化すれば、出先で雷撃も爆撃も柔軟に対応できるようになる」


 97艦戦の後に披露されたのは、12試 艦上攻撃機だった。

 それはまだ試作機であるものの、艦爆と艦攻を兼ねた万能機であり、史実では”流星”と呼ばれた機体である。


【12試 艦上攻撃機】

長さx幅:11.5x14.4m

自重  :3.7トン

エンジン:中島 誉 空冷複列星型18気筒(41.6L)

出力  :2200馬力

最大速度:毎時580キロ

航続距離:1852km

武装  :12.7ミリ機銃x2

     800kg魚雷もしくは800kg爆弾x1

乗員  :2名


 それはひとつの機体で、水平爆撃と急降下爆撃、そして雷撃までをもこなす多用途機だ。

 爆撃機と攻撃機が兼用なので、出先でそれぞれの比率を、柔軟に変更できるのが強みとなる。


 戦後になるが、同様の機体はアメリカでもAMモーラー、ADスカイレーダーとして実用化されている。

 あいにく史実の日本では開発が遅れ、とうとう艦上攻撃機として使われることはなかった。

 (終戦間際に陸上爆撃機として少数が運用)


 開発が遅れた原因は、海軍から重量過大として、開発を差し戻されたことにある。

 当時の海軍には、爆装で5トンを超える流星を撃ち出す能力は無く、着艦制動装置にも難を抱えていたからだ。

 当然、製造者の愛知航空機は、軽量化に取り組んだのだが、やがて情勢の変化でそれも後回しにされてしまう。


 しかし仮に設計のやり直しがなくても、流星が活躍する可能性はなかっただろう。

 なぜなら流星は、悲劇のエンジン”誉”を採用していたのだから。

 事実上、開発に失敗していた誉エンジンの安定供給など、到底のぞめるものではない。


 その主な原因は、誉エンジンをほとんどの機体に採用してしまった、海軍航空技術廠にあるだろう。

 (空技廠とは海軍の航空機について、設計や実験・審査などをする組織)


 もちろん高性能エンジンを量産する実力もないのに、提案してしまった中島飛行機も悪い。

 しかし空技廠は中島飛行機に対し


”最も高級な材料、燃料、潤滑油を使って、高性能を出したまえ。必要なら純金を使ってもかまわん”


 とまで言ったのだ。

 アメリカと戦争になれば、そんなことはできないことぐらい、容易に想像がついたというのに。 

 その想像力の欠如と無責任さには、目を覆いたくなるほどである。


 ちなみに液冷エンジンを積む艦上爆撃機 ”彗星”でも、空技廠は似たような失敗をやらかしている。

 これは愛知航空機に、ダイムラーのV12水冷エンジンを、アツタエンジンとしてライセンス生産させようとした。

 しかしその結果は、”現場で整備は不可能”と言わしめるほどの、欠陥エンジンの出来上がりだった。


 当時の日本の工業力では、水冷エンジンを安定して供給・維持するのは困難だったのだ。

 しかしそれを理解できない空技廠の独善的な開発姿勢が、終始、足を引っ張ったという。

 結局、水冷エンジンが手に入らないので、彗星は空冷の金星エンジンに換装して飛ぶことになった。

 誉とアツタの失敗談を見る限り、空技廠という組織には大きな問題があったのだろう。


 一方、この世界では早期から中島飛行機にテコ入れをし、品質保証の精神を叩きこんできた。

 おかげでエンジンの信頼性も三菱に迫るものとなり、今回の試作に至っている。

 排気量は史実より5.8リットル増しているので、性能的にも余裕がある。

 機体とエンジンの設計を中島飛行機に任せることにより、性能も上々の見込みである。


 そんな試作”流星”の飛行を見物していると、例の人が話しかけてきた。


「お邪魔しますよ、大島本部長。うちの試作機の出来はどうですか?」

「これはどうも、中島社長。なかなか良い出来のようですね。これなら安心して、御社に任せられそうだ」

「フハハッ、それは嬉しいですな。戦闘機は三菱さんに持っていかれたので、攻撃機はぜひ取りたいのです。今後もよろしくご指導を、お願いしますよ」

「もちろんです。こちらこそご協力をお願いします」


 俺がていねいに対応すると、中島知久平は満足そうに去っていく。

 彼が言うように、戦闘機は三菱が受注したので、流星への意気込みは強そうだ。

 おそらく当面は戦闘機の三菱、攻撃機の中島といった感じで、住み分けていくことになるだろう。


 他には川崎が、液冷エンジンを使った迎撃戦闘機に強みを発揮しているし、川西も飛行艇で成功している。

 その他の愛知、立川、日立などの航空機メーカーは、偵察機や爆撃機などを、会社が潰れない程度に振り分けている。

 そしていざという時には、他社のOEM生産をやってもらう予定だ。


 まだ道なかばではあるが、日本の航空業界は着々と成長していた。

誉の開発について、”必要なら純金を使ってもかまわん”と言ったのが、空技廠トップの和田操少将(のち中将)です。

この人は航空本部技術部長、空技廠長、航空本部長を歴任した、海軍航空のエリートでした。

元々、誉については海軍内でも、”すばらしい”といって惚れこむ人と、”実現不可能”と否定する人で2分されていたんです。

そこにこの和田少将が空技廠長に赴任してきて、”やれ~!”って号令かけたもんだから、誉は失敗できないプロジェクトになっちゃいます。

その後、試作エンジンが良好な結果を出したため、海軍新型機のほとんどに採用されることに。

しかしその結果は、今まで書いてきたとおりの大失敗。

誉の試作だけならまだしも、それをよく見極めもせずに大量採用してしまったのが、致命的なミスですね。

後知恵ですが、頭おかしいレベルです。

大事な時に、残念な人を開発トップに据えてしまったのかなあ、と。

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[一言] 本文中で5人がイジるのはいいけど、欄外で作者が実在人物を腐すのは流石にいただけない。 それは作品上のネタではなくただのディスです。 個人的なお気持ちはWEB上ではなくお手元のメモ用紙に。
[一言] 誉エンジンを設計した、中川良一技師は、日本敗戦後、日産自動車の技術担当専務として、日産自動車の技術陣のトップト成りました。主な仕事としては、プリンスR360に積まれたGR8エンジンの開発(こ…
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