28.帝国軍の状況
昭和6年(1931年)5月 日本
アメリカでは刻々と不況が悪化する中、日本経済はすでに上昇基調に戻っていた。
ここでちょっと、現在の帝国軍の状況を見てみよう。
まず陸軍だが、日露戦争後に軍縮を実施し、平時は13個師団体制を維持している。
さらなる軍縮も検討されたのだが、第1次大戦で列強の一角として認知された以上、さすがにこれ以上減らすのはまずいとなった。
これでも史実の21個(1915~1925年)よりはだいぶ少ないし、大きく成長した日本経済にとってはさほど負担でもない。
そんな陸軍の主要仮想敵は、やはりソ連軍である。
幸いにも清国と正統ロシア大公国が間に入ってるので、直に国境を接することはないが、やはり脅威であるのには違いない。
それに清国と正統ロシアは国力が低いので、人口が1億を超えるソ連の侵攻を受ければ、ひとたまりもないであろう。
そこで日本は清国、正統ロシア、そして韓国と同盟を結び、防衛体制を整えている。
一般に”極東同盟”と呼ばれる関係だ。
そんな同盟各国の人口規模は、だいたいこんな感じである。
清国 :3000万人
正統ロシア大公国:1000万人
大韓帝国 :1700万人
大日本帝国 :6500万人
人口規模や経済力、そして工業化度からして、最も頼りにされるのは日本だ。
今世でも宥和政策を取っているおかげで、その関係も良好だ。
それでも油断は禁物なのだが、共通の敵を持っているというのは大きい。
そのため陸軍は、主に清と正統ロシアへの技術供与や物資援助により、大陸側の守りを強化している。
さらにいざという時、いかに迅速に戦力を大陸へ輸送するかを研究し、その装備やインフラ整備にも熱心だ。
もちろんそれだけでなく、太平洋側の島嶼防衛にも、心を砕いていた。
ただしあいにくとワシントン条約で、南洋諸島の要塞化は禁止されている。
そのためあくまで計画のみだが、統治下にある島を調査・測量し、いざという時に迅速に要塞化できるよう手配していた。
そのために工兵隊を訓練し、多数の建機を導入することも、怠っていない。
当然、陸軍全体の機械化も、徐々に進めている。
今世ではあまり自動車産業にテコ入れできていないが、それでも史実よりは格段に性能や信頼性は高い。
そんなトラックやバイクなどを、徐々に馬と入れ替えている状況だ。
おかげで各師団の機械化率は、着実に上昇しており、今後はジープのような高機動車も開発予定である。
その他に銃砲についても、佐島が新規装備の開発を主導し、更新を進めている。
おかげで今世の陸軍も、確実に強くなっているのは間違いない。
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次に海軍の状況を見てみよう。
海軍は日露戦争後、大胆な戦艦の建造キャンセルを実施した。
その対象は1905年以降に造られる予定だった8隻に加え、扶桑、山城、伊勢、日向、天城、赤城、高雄、愛宕という、8隻の超弩級戦艦である。
それでも日本は、金剛型を4隻、長門型を4隻(長門、陸奥、土佐、加賀)造っているので、列強もその戦力を侮れない。
ていうか、今世の長門型は41センチ砲を採用したせいで、明らかに米英から警戒されているだろう。
その後、ワシントン軍縮条約が結ばれて、主力艦と空母の建造に枷が掛けられた。
およそ15年にもおよぶ、ネイバル・ホリデイ(海軍休日)の始まりである。
しかしそうなったらなったで、条約に縛られない巡洋艦や駆逐艦の開発・建造に、各国は邁進した。
当然、日本もいろいろ造った。
史実における、1930年時点の就役艦艇数を見てみよう。
戦艦 :10隻
空母 :3隻(2隻)
重巡洋艦:8隻(8隻)
軽巡洋艦:22隻(1隻)
駆逐艦 :54隻(43隻)
潜水艦 :23隻(22隻)
合計 :120隻(76隻)
カッコ内は、ワシントン条約後に建造された艦である。
重巡や駆逐艦、潜水艦の多くが、条約後に造られているのが分かるだろう。
それがこの世界ではこうなった。
戦艦 :10隻
空母 :2隻(1隻)
重巡洋艦:4隻(4隻)
軽巡洋艦:20隻(4隻)
駆逐艦 :50隻(40隻)
潜水艦 :15隻(14隻)
護衛艦 :20隻(20隻)
合計 :121隻(83隻)
合計は似たようなものだが、正規の軍艦は少なめで、護衛艦艇を増やしている。
これは前世でもやったように、海軍内に海上護衛総司令部を設置した影響である。
第1次大戦の戦訓から、いざという時に海上輸送路を守る部隊が必要だと説いたのが、実を結んだ形だ。
その道は決して楽ではなかったが、東郷元帥や伏見宮殿下の後押しで、1920年に実現した。
それから同司令部は、海上護衛に有効な装備を研究し、その強化に努めてきた。
今はまだ少ないが、いざという時には一気に増強できるよう、準備を重ねている。
その他の艦艇もボチボチ建造してきたが、史実より控えめにしている。
本当に必要になるのはまだまだ先なのだから、試験的な艦を造って、ノウハウ蓄積を優先してるからだ。
しかも攻撃力や速度など、分かりやすい性能だけでなく、量産性や生存性、居住性の向上にも努めている。
日本もずいぶんと、変わったものである。
そんな中、日本が特に力を入れて開発しているのは、やはり空母である。
まず1922年に就役した鳳翔は、史実よりも排水量を5千トンほど増し、搭載機数を20機も増やした。
おかげで前世よりも戦力として頼りになりそうなので、今後も改装で性能を高めたいと思っている。
さらに1928年に就役した空母が、”蒼龍”である。
【蒼龍】
全長x全幅:251.4x33.4m
基準排水量:2万トン
出力 :12万馬力
最大速力 :32.5ノット
機関 :ロ号艦本式ボイラーx8基
艦本式タービンx4基、4軸
搭載機数 :80機
主要兵装 :38口径12.7センチ高角砲x8基
25ミリ連装機銃x14基
こちらの排水量はほぼ史実どおりだが、搭載機数は80機もある。
これは前世でもやったように、アメリカのヨークタウン級空母を参考にしたおかげだ。
それはアメリカ空母らしく、生産性に配慮しており、格納庫は開放型だ。
開放型の格納庫ってのは、航空機には優しくないが、火災にめっぽう強い。
危険なガソリンを扱う空母にとっては、有効な構造だと思う。
ただし機体が荒天で壊れたりするので、なんとか運用でカバーできるよう、試行錯誤は必要だが。
機関についてはシフト配置を採用し、生存性を高めている。
さらには舷側エレベーターも採用していて、航空機の入れ替えも容易だ。
そして機体を露天繋止することによって、搭載機数を多めに保つ。
この蒼龍の使い勝手を検証してから、準同型艦の”飛龍”も建造中だ。
さらには拡大発展型の、エセックス級に相当する空母の建造にも、取り掛かっている。
これが量産できるようになれば、アメリカにも十分に対抗できるだろう。
本当はアメリカと戦争なんて、したくないのだ。
しかし前世の経験から見ても、おそらくそれは避けられないだろう。
ならば俺たちは、粛々と準備を進めるのみだ。




