表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/68

1.またまた明治に逆戻り

明治38年(1905年)5月末 日本海


――ドーン、ドーン、ドーン!!!


 耳をつんざくような轟音に、俺は意識を取り戻した。

 周囲には硝煙しょうえんが立ちこめ、多くの人間がうごめいている。

 その中の1人が、話しかけてきた。


「候補生どの! 大丈夫ですか? 動けますか?!」

「ぐっ、ここは、どこだ?」

「記憶が飛んでいるのですか? ここは戦艦三笠の後部甲板です。本艦は敵弾の直撃を受け、一時的に混乱しております」

「そ、そうか。俺はなんとかなるから、他の人を助けてやってくれ」

「はっ、それでは失礼します」


 そう言って走りさる水兵を見ながら、俺は状況の把握に努める。

 いまだに混乱しているが、彼と話している間に、自身の状況が分かってきた。

 たしか俺は、前世で大往生してから、また過去へ飛ばされたのだ。


 正確には、明治の軍人に転生したらしい。

 俺を明治にタイムスリップさせた高位存在が、そう言っていたからだ。

 それもヤツが言っていたように、赤ん坊時代を経験することなく、18歳の体で記憶を取り戻した形である。


 この体はごていねいにも、前世と同じ大島祐一おおしま ゆういちという名前を持ち、18年間、生きてきた。

 そして海軍兵学校を繰り上げ卒業し、少尉候補生として日本海海戦に従軍しているのが、今の状況だ。

 ちなみに海兵年次は32期で、同期には山本五十六やまもと いそろく堀悌吉ほり ていきちなんかがいる。


 それはさておき、現在、我が軍は戦闘の真っ最中であり、俺の体はダメージを受けていた。

 幸いにも大きなケガはないものの、体中が痛くて動けない。

 しかし俺は士官候補生として、動かねばならない。


 俺はなんとか立ち上がると、状況を確認した。


「状況を教えてくれ」

「はっ、我が分隊は後部砲塔の損傷につき、復旧作業を続行中です。しかし状況は混乱しており、人手も足りておりません」

「了解した。作業を続けてくれ。俺は人手について、ちょっと交渉してくる」

「はっ、お願いいたします」


 俺は自分がやるべきことを考えてから、動きだす。

 まずは上司のところへ行って、応援を要請した。

 もちろん艦内はどこも大忙しで、人手に余裕はないが、それでも水兵を2人ほど借りることができた。


 増援を連れて戻ると、俺は持ち場の補修やら、ケガ人の手当てに奔走する。

 候補生のままでは、何をやったらいいかも分からなかったと思うが、幸いにも中身は100歳超のジジイだ。

 今までに蓄えた知識を総動員して、なんとか仕事を片づけていく。


 やがて一段落した頃には、海戦の方も終わりつつあった。


「ふう、なんとか生き残れたようだな」

「はっ、候補生どのもお疲れさまでした」

「俺は大したことしてないさ」

「そんなことはありません。とても候補生とは思えないほどの、落ち着いた指揮ぶりでした」

「ハハハ、ありがとさん。兵曹もよくやってくれたな」

「光栄であります」


 そんなやり取りをするぐらいには、余裕が生まれていた。

 しかし今はまだ、海戦が終わっただけなのだ。

 この先の日本を勝利へ導くため、俺は考えを巡らせていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


明治38年(1905年)6月 佐世保


 日本海海戦で勝利した連合艦隊は、いろいろと後始末をしてから日本へ戻ってきていた。

 そして俺は佐世保に上陸すると、お目当ての人物を探し出す。


「よう、久しぶりだな、慎二」

「おう、祐一じゃねえか。その様子だと、お前も思い出したんだな」

「ああ、戦闘の真っ最中で、びっくりしたよ」

「ハハハ、そいつは災難だったな」


 親しげに話しているのは後島慎二ごとう しんじ

 大学時代からの親友であり、前世で一緒に日本を勝利に導いた同志だ。

 彼も高位存在に転生させられ、俺と同様に海軍の少尉候補生となっていた。

 しかし後島は俺よりも早く死んだ分、先に記憶を取り戻していたらしい。


「他の奴らの居場所、分かるか?」

「おう、調べてあるぜ。実は他の3人は、陸軍にいるんだ。まだ士官学校だけどな」

「ふ~ん、海軍と陸軍に分けたのか。まあ、海軍ばかりじゃ偏るってことだろうな」

「そういうことだと思う。例の存在Xそんざいエックスが、適当に振り分けたんじゃないかな」

「ん? 存在エックスって?」

「俺たちをこんな茶番に巻きこんだ、あいつだよ」

「ああ、あの高位存在か」

「そう。でも高位存在とか呼ぶのも腹立つだろ? それで”存在エックス”って、呼ぶことにしたんだ」

「それはいい。可能であれば、殴ってやりたいようなヤツだからな」

「だろ~」


 例の高位存在のことは、存在エックスと呼ぶようにしたらしい。

 いかにも怪しそうで、あいつにピッタリだ。

 そんな話をしているうちに、後島が不安そうな顔で訊ねる。


「なあ、存在エックスの言ってた協力者って、誰か分かるか?」

「ああ、それならちょっと、心当たりがある。こんな物が、ポケットに入ってたんだ」


 そう言って俺は、ポケットから紙を取り出して広げた。

 それには筆書きで、いくつかの名前と一緒に、妙な言葉が書いてあった。


松方正義まつかた まさよし

閑院宮載仁かんいんのみや ことひと

山縣有朋やまがた ありとも

伏見宮博恭ふしみのみや ひろやす

東郷平八郎とうごう へいはちろう

平賀譲ひらが ゆずる


”未来の夢”


 それを眺めながら、俺たちは頭をひねる。


「どの人も、元老や陸海軍の重要人物だよな。この人たちが、協力者なんじゃないかと思うんだ。だけどこの”未来の夢”って言葉が、分からなくてな」

「う~ん、ひょっとしてキーワードとか、合言葉みたいなもんじゃねえ?」

「あ~、それはありそうだな。この人たちの前で言えば、通じるとかか」

「ああ、そんな感じだと思う」


 そんな話をすることで、俺たちがやるべきことが見えてきた。

 素直に存在エックスに従うのも業腹ごうはらだが、なんとかしないと日本は悲惨な目に遭うのだ。


「まったく、なんでこんなことになったんだか。だけどまあ、もう一度勝てっていうなら、やってやろうじゃねえか!」

「おう、もう一度、歴史改変だ~」


 こうして状況を確認した俺たちは、最も身近にいる協力者候補に、突撃することにした。

 なんとか東郷大将に面会の予約を取り付けてから、後島と共に会いにいったのだ。


「大島少尉候補生であります。本日はお時間をいただき、誠にありがたくあります」

「後島少尉候補生であります。お見知りいただければ幸いであります」


 目いっぱい緊張しながらあいさつをすると、提督が不機嫌そうに答えた。


「……重要な話があるからと聞き、なんとか時間を作った。手短にしてくれ」

「ありがとうございます。それでは率直にお聞きしますが、提督は”未来の夢”について、心当たりがありますでしょうか?」

「ッ! 未来の、夢だと? なぜそれを知っている?」


 例の言葉を出した途端に、東郷提督の顔が驚愕にゆがむ。

 ああ、これはやっぱり、当たりみたいだな。

本日の更新はここまでです。

以降は毎朝7時に投稿していく予定。

もし応援いただけるようなら、ブクマや評価の方をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志モノの新作を始めました。

逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~

孫権の兄 孫策が逆行転生して、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
[良い点] 幼女を送り込みそうだなと思いましたw
[一言] スタート地点が違えど同じ時期に転生したのなら中盤辺りからは前世と同じ内容になっていくだろうからそこまでの過程を今回は書いていくのかな?それともこれはこれで変わっていくのか・・・今後が楽しみで…
[良い点] 毎朝7時配信なこと。 [気になる点] 今後の展開。 エンジニアでやり直しな軍人視点? [一言] ループ2回目ですねー 目指せルプなな(ループ7回目)?笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ