24.航空開発に取り組もう
大正13年(1924年)3月 東京
関東大震災で大きな被害を受けた日本だったが、力強く復興に励んでいた。
東京都内は壊れた建物を撤去すると同時に、道路や鉄道、区画割りなどを、より発展性のある方向に作り変えている。
これによって首都圏は、史実よりも優れた輸送能力や、連絡性を獲得するだろう。
また倒壊、焼失した住宅街の土地は国が買い上げ、順次、国営の集団住宅が建てられている。
おかげで土地が効率的に使えると同時に、収容能力も上がっていた。
いずれは世界に誇れる大都市に、なるのではなかろうか。
これらの資金の多くは国債で賄っていたが、全国から集まる寄付金も馬鹿にできなかった。
これに関しては、我らが載舟商会の貢献も大きい。
なにしろ載舟商会は、第1次大戦の間に、莫大な資産を築いていた。
それらを慈善事業に拠出してきたのだが、今回も非常に大きな額を国に寄付した。
その額なんと、1千万円である。
現代価値に直すと、数百億円にもなろうか。
そんな額を、いち商会が寄付したのだ。
たとえそれが皇室がらみの商会といえど、他の商会や財閥も無視はできない。
結局、様々な団体や個人から、復興資金の寄付が相次いだ。
幸いにも日本は、諮問委員会の呼びかけによって、大戦終結による落ちこみを抑えられていた。
おかげで結構な額の寄付金が集まり、それが国内に投資されていく。
それは復興事業だけに留まらず、製鉄、造船、港湾、発電設備の増強や、化学、電気、石油、自動車などの事業振興にも投じられた。
このまま進めば、日本はより強靭な国家に生まれ変わるだろう。
そんな国内の活況の陰で、俺にも大きな転機が訪れていた。
「呉鎮守府から参りました、大島大佐です。航空については素人ですので、よろしくご指導のほど、お願いいたします」
「うむ、貴官は欧州大戦を生き残った強者だ。その経験と知識には、期待しているよ」
「はっ、精一杯、努めたく思います」
すでに大佐に昇進していた俺は、軍艦を降りて地上勤務になった。
そんな俺の新たな職場は、陸軍航空本部である。
これは大戦中の航空機の急発展を受け、陸軍内に設けられた組織である。
もちろん海軍でもやりたがったのだが、別々に研究開発するとムダが多い。
そこで当面は陸軍組織だけとし、海軍関係者はそこへ出向する形を取ったわけだ。
そして今後は、俺もそこに深く関わっていくことになる。
ちなみに国内でも航空機産業は盛り上がりつつあり、すでにいくつもの企業が誕生していた。
1917年 中島飛行機
三菱航空機
1918年 川崎航空機
日立航空機
1920年 愛知航空機
川西飛行機
1924年 立川飛行機
現状ではまだまだ海外から技術を学んでいる状態だが、太平洋戦争までに大きく成長するのは、周知のとおりである。
そして今後は俺も、アメリカに負けない航空機を作るため、これらにテコ入れしていくのだ。
本部長へのあいさつを済ませた後は、海軍の同僚たちに紹介される。
「塚原中佐であります」
「大西大尉であります」
「大島だ。以後、よろしく頼む」
とりあえず紹介されたのは、塚原二四三中佐と、大西瀧治郎大尉だった。
彼らは史実でも、航空畑の軍人として知られており、今世でも陸軍航空本部に出向していた。
俺も今後は航空畑で生きていくつもりなので、長い付き合いになるだろう。
「さっそくで申し訳ないが、現状の海軍航空の現状について、教えてもらえるかな」
「はっ、それでは小官が説明させていただきます」
身の回りの整理が終わると、大西大尉を捕まえて説明を頼んだ。
大尉は嫌な顔もせず、海軍航空の現状を教えてくれる。
それによると、海軍はすでに空母 鳳翔を完成させ、艦上機の運用を始めていた。
それは10式艦上戦闘機や13式艦上攻撃機などであるが、基本的に海外の技術に頼った複葉機であり、その性能もまだ低かった。
今世の俺は軍務に忙しかったため、あまりエンジンにテコ入れができていないという事情もある。
おかげで航空機が飛躍するには、ほど遠い状況なのだ。
「ふむ、我が国の航空技術は、まだまだ自立には程遠い、といったところか」
「はい、現状ではそう言わざるを得ませんね。しかし各地の帝大で、航空学科が設立されつつありますから、今後は伸びると思いますよ」
前世でもやったように、航空技術へのテコ入れはやっていた。
史実で1920年に設立された、東京帝国大学の航空学科は5年ほど前倒しされてるし、他の帝大への導入も促している。
当然、載舟商会から寄付金が出され、史実より格段に豊かな予算で、研究が進められているのだ。
さらにエンジン関係の研究室にも寄付は及んでいるので、いずれは日本の航空技術も、世界に通用するようになるだろう。
「なるほど。それは心強いな。ところで大尉は、今後の航空機はどうなると考えている?」
「え、今後、ですか?……そうですね。前の大戦でも航空機は、偵察や爆撃に活躍したと聞きます。今後、性能が上がれば、さらに活躍の場は広がるでしょう」
「うん、私もそう考えている。その速度はどんどん速くなり、航続距離も大きく伸びるだろう。いずれは戦艦すら沈める爆弾や、魚雷も積めるようになるだろうな」
「戦艦をですか? さすがにそれは難しいんじゃ……」
大西大尉が疑問の声を上げると、横で聞いていた塚原中佐も加わってきた。
「大佐は本気でそんなことが、できると思っているのですか?」
「ああ、大真面目だよ。たしかに戦艦は海に浮かぶ城だが、絶対に沈まないものではない。何十機もの航空機から爆撃や雷撃を受ければ、いずれは沈むだろう」
「う~ん、それはそうかもしれませんが、戦艦の主砲を上回る攻撃ってのは、ちょっと想像できませんね」
「フフフ、まあ、今はそうかもしれん。しかし技術は確実に進歩しているんだ。我々は常にそれを学び、新たな戦術を考えるべきだろう」
「はい、そうですね」
あまり納得してない雰囲気で、中佐と大尉がうなずいている。
まあ、未来の知識のない彼らに、完全な納得を求めるのも酷であろう。
そう思いながら、俺は大西大尉にリクエストをした。
「それから航空機の製造現場を見てみたいから、いくつか企業を案内してもらえないか? 大尉」
「ええ、構いませんよ。中島飛行機と三菱航空でいいですかね?」
「ああ、それで頼むよ」
「了解です」
さて、今後はバリバリと、航空開発を進めたいものだな。




