幕間: 4人の戦い
俺の名は後島 慎二。
元は21世紀に生きる、しがない製鉄マンだった。
そんな俺が何の因果か、明治へタイムスリップして、太平洋戦争を勝利に導いたんだ。
その後、80歳まで生きて、これでお役ご免かと思ったら、さにあらず。
今度は明治の軍人に転生して、またアメリカに勝てって言うんだぜ。
おのれ、存在エックス。
しかし軍艦オタの俺としては、明治への転生はそれほど悪くなかったりする。
上手くすれば、自分好みの戦艦とか造れるかもしれないからな。
とはいえ、そんな影響力を持つには、まずは海軍で出世しなければならない。
幸いにも記憶を取り戻した時点で、俺は海軍兵学校を卒業していた。
しかも卒業席次は10番以内という、優秀なものだ。
これなら将官になるのも、夢じゃないだろう。
がんばるぞ~。
「艦長、爆雷投下後に油と浮遊物が確認されました。敵潜の撃沈ないし損傷は確実です」
「おおっ、よくやったな。警戒態勢を取りつつ、配置に復帰するぞ」
「了解です。今回は運が良かったですね」
「ああ、本当だ」
あ~、よかった。
もうちょっとで雷撃されるとこだったんだよな。
幸いにも、正三が作ってくれた聴音機で先に見つけて、事なきを得られたんだ。
しかもイギリスから供与された爆雷が、今回は役に立った。
それまでは体当たりか砲撃くらいしかなかったからな。
ちなみに爆雷を自前で開発して持ちこむ案も、ないではなかった。
しかし日本は実戦もしてないのに、爆雷まで持ってたら不自然だろうってことで、見送られた。
今はまだ、あまり目立ちたくないからな。
それにしても、俺もユトランド沖海戦に行きたかったな~。
あいにくとローテーションの関係で、こっちは護衛任務だ。
第1次大戦で最大の海戦を、じかに見たかったのに。
くっそ、祐一に会ったら、細かく聞き出してやる。
そして日本の軍艦の改善点を、提案してやるんだ。
巡洋戦艦の水平防御の弱さとか、射撃管制の欠陥とかな。
そしたら俺の評価も上がって、好きな仕事に関われるからな。
まあ、この護衛任務だって、そう捨てたもんじゃない。
実際にUボートを撃沈したようだからな。
早く日本に帰って、理想の戦艦を造れるようになりたいな~。
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僕の名前は中島 正三。
元は21世紀に生きていた、電気技術者だ。
前世では明治にタイムスリップして、日本を太平洋戦争で勝たせることができた。
それなのに今度は、明治に転生して、また同じことをしろっていうんだよ。
しかも今度は軍人だ。
前世では軍属とはいえ、いち技術者としていられたのに。
軍人になったからには人を殺し、部下にも同じ指示をしなければいけない。
ああ、嫌だ、嫌だ。
だけど僕たちが頑張らないと、300万人以上の日本人が死ぬんだ。
そんなことを避けるためにと、僕も覚悟を決めた。
なんとしても生き残って、日本を勝利に導いてやるんだ。
「隊長! 前線から砲撃要請きました!」
「了解した。予備射撃から順次、威力射撃へ移行する。射撃開始!」
「はっ」
うわ、とうとう欧州に来ちゃったよ。
さすがに歩兵は危険すぎるんで、砲兵中隊に回されてるけどね。
だけど最前線では、すごい数の死傷者が出てるみたい。
うう、本当に嫌だな。
だけど弱音なんか吐いてられない。
戦場の現実ってやつを学んで、今後の戦争に活かしてやる。
いつかは最強の戦車、作ってみたいなぁ。
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俺の名は佐島 四郎。
現代からタイムスリップしてきた、元化学屋や。
前世では明治時代から歴史改変をして、日本の勝利に貢献した。
ほんでそのまま大往生するかと思てたら、またまた明治に行けときた。
しかも今度は軍人に転生やて。
敵わんわ、まったく。
せやけど、また新しい人生を生きるのも、そう悪くないかもな。
ま、前向きにいきますか。
今世では日本の銃砲を、バリバリに強化したろうやないか。
やってきました、第1次大戦。
派手にドンパチやっとりますわ~。
俺は砲兵中隊を指揮するから、ちょっとは安全やけど、油断はでけへんで。
なにしろ最前線では、アホほど人が死んどるさかいな。
こっちも少しでも犠牲を減らすよう、大忙しや。
おっと、またまた前線から射撃要請や。
ほんま、忙しいで。
ほんでもこれも貴重な経験や。
日本に帰ったら、しっかり戦訓に反映させんとな。
そのために少しでも多く、戦功を稼がなあかん。
お仕事、お仕事~。
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俺の名は川島 健吾。
21世紀でバリバリ仕事をしていた、元商社マンだ。
前世では明治に飛ばされて、アメリカとの戦争に勝つことができた。
最初は面倒だと思ったが、やってみれば案外、おもしろいものだった。
元々、スパイ映画が大好きで、諜報活動には興味があったからな。
そしていろいろとやり終えて、とうとう大往生かと思ったら、そうは問屋がおろさない。
なんと今度は明治の軍人になって、再び日本を勝利に導けときた。
くそっ、存在エックスめ。
しかし悪いことばかりでもない。
若い体に蘇って、また好きなことに打ちこめるのだ。
それに気の置けない仲間たちとなら、なんとかなると思えた。
そうこうするうちに、第1次大戦が始まり、俺も欧州へと出征する。
俺は師団付きの参謀として、情報収集に努めていた。
「敵の動きはどうなっている?」
「はっ、敵の前線は停滞していますが、後方に動きがあるとの情報が入りました。状況から判断するに、戦線を整理するために、一時後退する可能性が高いと思われます」
「むう……その情報、裏付けは取れているのか?」
「はっ、イギリス軍でも、同様の兆候を捉えている模様です」
「そうか、さすがは川島少佐だな。至急、作戦を立案しよう」
幸いにも、戦前に仕込んでおいた諜報網が役立っている。
さらにイギリスとの連携も図っているので、我が軍の被害は抑えられていた。
とはいえ、実際の戦場はひどいものだ。
絶対にこの経験は日本へ持って帰って、改善に役立ててやる。
そのためにも、今を生き残らなきゃな。




