表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/68

18.第1次大戦に参戦しよう

大正3年(1914年)8月4日 東京


 6月28日にボスニアのサラエボで、オーストリア・ハンガリー帝国の皇太子夫妻が、セルビア人青年に射殺された。

 俗に言う、”サラエボ事件”である。

 これを受けてオーストリアは、セルビア政府の責任を追求した。


 それどころか、ドイツの支持を得たオーストリアは、セルビアに宣戦を布告してしまうのだ。

 これに対し、セルビアを支持するロシアが総動員令で応じると、ドイツがロシアとフランスに宣戦。

 第1次世界大戦の幕が、とうとう開いてしまった。


 この事態を受けて俺たちは、また都内の料亭に集まっていた。

 出席者は松方さん、山縣さん、閑院宮殿下、東郷さんに加え、俺と川島だ。


「やはり史実のようになってしまったな」

「ええ、今日中にはイギリスも、ドイツに宣戦布告するでしょう」

「わざわざ永世中立のベルギーに侵攻するなど、なんと愚かな」


 山縣さんが呆れるように、ドイツはベルギーに侵攻してしまった。

 しかしベルギーは永世中立国として各国から承認されており、その中立を破るような蛮行は、イギリスも座視できない。

 そのため史実でもイギリスの参戦を招き、結局はドイツ敗戦の要因となってしまう。


 もしもドイツ帝国が、シュリーフェン・プランを多面的に検証できていれば、第1次大戦の中身は大きく違ったであろう。

 安易にオーストリアを支持したことといい、シュリーフェン・プランといい、この時のドイツはいろいろと残念な国だった。


「さて、日本はどう対応するべきか?」

「うむ、皆も知ってのとおり、陸海軍の両方に派遣要請がくる」

「多少は応じるにしても、どこまで出すか、ですな」

「しょせんは遠い欧州の話ですからなぁ」


 山縣さん、松方さん、東郷さん、閑院宮殿下が、悩ましげな顔をしている。

 俺と川島は黙っていたら、松方さんに問われる。


「大島くんは以前から、大規模な部隊を派遣すべきだと言っていたね。しかし遠い欧州で、日本国民が血を流す意味があるのかね? たしか、相当に激しい戦いになるはずだ」

「はい、1千万人以上が命を落とすという、ひどい状況に陥ります。ご存知のように日本は、欧州への陸軍派遣は断り、小規模な艦隊の派遣のみにとどめました。おかげで日本は大した被害もなく、美味しいところだけをかっさらったように見えますね」

「うむ、私はそれでもいいと思うがね」


 そう言われて俺は、首を横に振る。


「いえ、それではまずいと思います。私は3つの理由により、大規模派兵を提案します。それはまず第一に、日本が列強の一角として、血を流す覚悟と能力があることを示すためです。第二に、最先端の装備や戦術を含んだ、戦訓を得るためです。そして最後に、多くの日本人に欧州の空気を感じさせることで、その意識を変革できると思うからです」

「う~む……そう言われると、それなりに利点はあるように思えるな。しかしはたして、多くの命を懸けるのが正しいかどうか……」


 すると閑院宮殿下と東郷さんが、俺を支持してくれた。


「国家間の総力戦をじかに体験する機会は、貴重ではないでしょうか。日本はそれを怠ったために、歪んでしまったように思います」

「うむ、海軍もそれを実感しなかったために、艦隊決戦主義から抜けることができなかった。後々のことを考えれば、本格参戦する意味は大きいでしょう」


 山縣さんや松方さんと違って、殿下と東郷さんは30年代以降の帝国軍を知っている。

 その観点から見たうえで、大規模派兵を支持してくれたのだ。

 それを聞いた山縣さんも、賛成に傾いた。


「ふむ、経験は金で買えんということか。そうすると問題はいつ、どれだけ出すかだが、大島くんはどう考える?」

「やはり17年の4月にアメリカが参戦しますから、その前が望ましいでしょう。英仏もより高く、恩に着てくれると思います」

「なるほど。そうすると15年中に編成して、16年に欧州へ投入するぐらいか。派兵規模はどうだ?」

「史実では3個師団とか言われますが、その程度で存在感は示せないでしょう。最低でも10個師団は送るべきかと」

「むう……10個師団か」


 山縣さんと松方さんが、揃って渋い顔をする。

 特に財政に明るい松方さんが、反対を表明した。


「それはちょっと、過大ではないかね? それではまた、借金が膨らんでしまうぞ」

「その辺は呼んだ国に、ある程度もってもらいましょう。残りは列強として認められるための、必要経費として割り切るべきです。それに我が国は、史実よりも製鉄や造船を強化しています。なので大戦中の輸出で、それなりに取り返せるはずです」

「ふむ……たしかにそれなら、なんとかなるか」


 続いて俺は東郷さんに提案する。


「海軍は金剛型戦艦を、16年の5月までに差し向けましょう。ユトランド沖海戦に参加するんです」

「うむ、英独海軍の、一大決戦だな。最低でも金剛型を2隻以上、送るとしよう」

「ええ、小官も出征します」

「む、大丈夫か? 日本にとって君らは、貴重な存在なのだが」

「もちろん危険はありますが、実戦経験のない軍人の言葉では、聞いてもらえないでしょう。それに我々には、神のような存在が味方についていますから」


 そう言って肩をすくめると、東郷さんも渋々うなずく。


「むう……やむを得んか。ただし、むやみに危険に突っこむのではないぞ」

「はっ、承知いたしました」


 こうして日本からの大規模派兵と、俺たちの出征が決まった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


大正4年(1915年)6月 東京


 その後、史実どおりにイギリスが対独参戦し、本格的な世界大戦が始まった。

 そしてやはり塹壕戦ざんごうせんに突入し、西部戦線は膠着こうちゃくする。

 この時点で連合軍の各国からは、日本への派兵要請が相次いだ。


 そこでとりあえずドイツに宣戦布告し、山東省や南洋諸島のドイツ権益の接収には動いたものの、欧州派兵については言葉を濁した。

 ”欧州ははるかに遠く、日本には兵を派遣するほどの国力がない”、と言って。

 代わりにインド洋やアメリカ西海岸に艦隊を派遣し、通商路の保護に協力した。


 しかし欧州ではその間にも、信じられないぐらいに人が死に、状況はどんどん切迫していった。

 結局、せっぱ詰まった英仏から、大幅な経費と物資の供与を交換条件に、派兵を切望される。

 これに対し、遠い欧州で帝国軍が血を流す必要はないと、あくまで反対する声もあった。


 しかし松方さんと山縣さんの根回しによって、5元老と陛下の意志は、欧州へ派兵すべしという意見でまとまっていた。

 これを受けて、内閣と議会も派兵に動き、正式に大規模派兵が決定する。


 その内容は、陸軍は10個師団、海軍は巡洋戦艦2隻、巡洋艦3隻、駆逐艦24隻という、大部隊だった。

 史実で巡洋艦と駆逐艦を数隻ずつ出したのとは、大違いである。


 もっとも、10個師団20万人という数字は、日本としては大兵力ではあるものの、それほど凄い数字でもない。

 なにしろ大戦全体では、7千万人が動員されたのだから。

 それでも日露戦争の経験を持つ、近代的な軍隊の加勢は、それなりに歓迎された。


 そして何よりも喜ばれたのは、世界最強クラスの巡洋戦艦2隻を含む艦隊の派遣だ。

 なにしろ金剛と比叡は、14インチ砲を8門も持ち、27ノット以上を叩きだす強兵だ。

 さらにはUボートの脅威も知れ渡ってきたところへ、新鋭駆逐艦が24隻も投入される。


【樺型駆逐艦 主要諸元】

全長・全幅:85 x 7.3m

基準排水量:700トン

出力   :1万馬力

最大速力 :30ノット

機関   :ロ号艦本式缶x4基

      直立4気筒3段レシプロ3基、3軸

主要兵装 :40口径12センチ単装砲1門

      40口径8センチ単装砲4門

      45センチ連装魚雷発射管2基


 この樺型かばかた駆逐艦は、戦前から設計に入り、量産の準備も進めていた。

 おかげで史実の倍以上の樺型を早期に建造し、欧州へ送りこむことが可能になったのだ。


 その仕様は史実に近いものの、排水量を100トンほど増やし、居住性を向上させている。

 さらに開発されたばかりの水中聴音器を装備しており、対潜能力を高めていた。


 そして俺はこの駆逐艦 ”かえで”の艦長として、出征するのだ。


「艦長、出港準備、完了いたしました」

「了解。それでは出港しようか、先任」

「はっ。出港~!」


 はたして俺たちは、無事に帰ってこれるのだろうか。

駆逐艦や潜水艦には副長がいないため、次席指揮官を”先任(将校)”と呼びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志モノの新作を始めました。

逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~

孫権の兄 孫策が逆行転生して、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
[一言] さぁ、更に面白くなってきました!!
[良い点] 駆逐艦の艦長視点で描かれる戦いに期待です☆
[気になる点] 最近話題になるスペイン風邪の対策が気になりますな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ