第六話 有利の弟子に
お久しぶりの更新です。テストが無事に終わり、更新も少しはかどるかなと思いきや、色々ありまして週末のみの更新となりそうです。
週に一回か二回の更新ですが、楽しんでくださるとうれしいです。
多分明日も更新します。
「おじさん」
「驚いた。和紗ちゃんから話しかけてくるとはね。どうしたのかな?」
「……陰陽師のこと霊力のこと霊符のことお兄ちゃんから聞いた。おじさんからも教えてほしいの。和紗、陰陽師になりたい」
「おやおや。どうしてか理由を聞いてもいいかな?」
「和紗ね、お兄ちゃんがいたの。お兄ちゃんの顔も名前も、声も覚えてないの。でも生きてるかもしれないと思って探したくて、陰陽師を目指す。ダメ、かな?」
「いいと思うよ。でもどうしてお兄さんのことを生きているって考えたのかな?」
「今まで忘れていたけど和紗、お兄ちゃんの遺体見てない。パパやママのは見たのにお兄ちゃんのは見てない。お葬式もしたのにおかしいよね?」
「たしかにそうかもしれないね。でもそれだけで……」
「和紗、陰陽師になりたい。理由は後付け。お兄ちゃんのことなんてどうでもいいかもしれない。和紗は、陰陽師になりたいの!」
有利は数日家を空けていただけなのにこれだけ心情が変化した和紗に違和感を覚えた。瑞世に和紗を部屋に戻させ、急いで彰斗の部屋を訪ねた。障子を勢いよく開けたことにより彰斗は集中力が切れ、書いていた霊符は音を立てて破れた。
「師匠⁉ 何すんだよ!」
「彰斗。お前和紗に何を言った⁉ 何を説明したんだ!」
「はあ? 俺は普通に陰陽師と妖怪の因縁の物語を読んで、霊符やら見妖の才、霊力、そんでツクモ武器の名前ことだけ教えただけだっつーの。何そんなに慌ててんだよ。和紗に何かあったのか?」
「自分から、陰陽師になりたいと言ってきた」
「いいじゃねぇか。もう師匠の弟子だしなんだし」
「……ここ数日、和樹はここへ来たか? 私が家を空けている間に」
「別に来てねぇけど? てか兄弟子は今重要任務中だろ? ここに来る余裕なんてあの怪物的な奴でも流石にねぇだろ」
「たしかにそうだね。取り乱して悪かったね」
「和紗はさ〝家族〟がほしいんじゃねぇの? 陰陽師になりたいって言った時の理由もそういうのじゃね?」
「……」
「図星かよ。陰陽師になれれば本当の家族じゃなくてもここにいられる。和紗はそう考えてるんじゃねぇの?」
「たしかに、そうかもしれないね。彼女は肉親の存在を知らないからね」
「ったく。それぐらい気づいてやれよ師匠。初めての女弟子だろ」
「悪いね。もう一度和紗と話をしてくるよ」
「呼び方と口調、忘れんなよ。そのまんまで行くと確実に怖がられるだけだぞ」
「分かっているさ」
大事なところで抜けていて、察しの悪い師匠に彰斗は呆れながら見送った。
有利は大股で和紗の部屋へと向かう。
道中、不機嫌そうな表情を浮かべた雪代に睨まれた。心の開くのが遅く、信用しずらい彼女がここまで信用できたのは無垢な少女というのもあるが、心の奥深くにある優しく人を思う心が彼女を動かし、彼女の信頼を取った。表情のなかった雪代に表情が浮かんでいることに有利は満足し、雪代の頭を撫でた。雪代は有利のその行為に驚きながらも、素直に受け入れた。
「……和紗ちゃんは部屋にはいないよ。庭にいる」
「そうか。ありがとう」
雪代より和紗の居場所を聞き、有利は急いで庭へと引き返した。
庭にある池。鯉などが泳いでおり、有馬もよく蹲りそこで池の中を見ている場所。そこに同じような背中を見せ、池を眺めている和紗がいた。有利のことに気づくと気まずそうに俯いた。
「和紗ちゃん。おじさんと話をしよう」
「でも……」
「大丈夫。おじさんは君が陰陽師になることを認めているよ。君の師匠であることを、君が弟子であることを認めているよ」
有利がそう言うと和紗はぽろぽろと涙を流した。その涙は子供らしくなく、達観したように眉間に皺を寄せ、涙を堪えるように泣いていた。
親が死んで一か月ほど。和紗はずっと〝家族〟の姿を探していた。どこにもおらず、最終的に死んだ兄の死さえも否定するほどに自分のことを追い詰め、追い込んでいた。和紗のそれに有利は気づくことができなかった。自分のことを責めた。自分が連れてきたのに気づけない。保護者失格であり、和紗の家族になる資格はない。だけど和紗が家族になることを望んでいる。有利、雪代、彰斗、それに有馬。有馬のことは有利にとってどうかは分からないが、きっと家族として見ているだろう。有利はそれに初めて気づき、和紗のことを見た。
少し大人びた子供が今はただ、親の帰りを待つ子供に見える。ただ純粋に、家族を待つだけの子に……。
「和紗。ごめんな。気づけなくてごめんな」
懺悔のつもりないし、これで自分を許すつもりはない。ただ和紗に言葉を与えたかった。自分は君のことを見ていたつもりだった。ただ、それだけを。
有利は着ていた羽織りを脱ぎ、和紗に着せた。熱の籠ったそれを着た和紗は暖かそうに頬を染めた。そして涙を強く拭い、有利の目をじっと見つめた。
「おじちゃん……ううん、師匠。私は陰陽師になります」
「ああ。君は今から賀茂有利の三番弟子、賀茂和紗だ。精進するように」
「はい!」
四月二十四日。親の月命日。
倉橋和紗から賀茂和紗となった和紗は今日、新たに一歩を踏み出したのだった。
「これが……ツクモ武器」
「そうだよ。ツクモ神の宿った特別な武器。ただ基本的にはこの武器は使わないよ。今は鑑賞用や護身用になっているからね」
和紗が有利の三番弟子となり二日目。
有利は本格的に和紗に陰陽師としての在り方や妖怪の祓い方について教えを始めた。幼いから任務に同行することはできない。だがやれることは沢山ある。有利はそう思い、和紗に問うと教えてほしいと即答された。そんな和紗に有利は了承し、陰陽師のことについて説明を始めた。
大方のことは彰斗より聞いているので霊力の使い方や式術や霊神術そして妖術や妖怪のことについての説明を始めた。説明の中盤、これから術のことについて説明しようとしている時、和紗は彰斗より聞いていたツクモ武器について気になったのでそのことを有利に言うと蔵にツクモ武器がある、ということなので見せてもらうことになったのだ。
有利の蔵にあるツクモ武器の名は「石切丸」。かつて賀茂家当主が使用していたが没年したことによりツクモ武器へと変化し、今では賀茂家嫡流が受け継いでいるという。白く美しい鞘と刀身。幼い和紗でさえも分かる〝圧倒的美しさ〟だった。蔵には沢山の武器が眠っている。だがどの武器も叶うことのできない美しさ。和紗は石切丸を一目見れただけでも満足していたのに有利はあろうことは「触れてみる?」と言い出したのだ。
勿論和紗は遠慮した。だが一度触れてみたいという好奇心に勝つことができず重いので有利と共に柄を握った。
「わあ!」
「美しいだろう?」
「うん。白くて綺麗……」
有利は刀身を戻し、和紗と共に蔵を出た。倉庫を出ると外には倉庫の壁に体を預け、目を瞑り立っている有馬がいた。有馬がここにいることに違和感を覚えた二人。有利が代表して有馬を起こすことにした。
体を揺さぶり、声をかけるが有馬が起きない。それどころか体勢を崩し有利に倒れ込んできたのだ。
「仕方ない。和紗ちゃんは先に私の部屋へ戻っていてくれるかな?」
「分かった」
有利は有馬を抱え、有馬の部屋へ向かった。部屋の近くへ行けば有馬付の式神、純代が焦ったように有馬のことを探していた。有馬のことを純代に引き渡すと安心したように息を吐いた。いつもとは違う純代に有利は訳を聞くことにした。
「なぜそこまで焦っていた?」
「実は賀茂家から次期当主候補の第二試験を行うとの連絡が……坊ちゃまをお呼びしようと思っていましたが眠っていらしたのでしたら納得です。気配を感じませんでしたので」
「ここまで成長したいたか……それで試験開始はいつだ?」
「二日後でございます」
「随分急なことだな。私の耳には入っていないぞ?」
「秘密裏に第二試験を行うようでして……有利様の耳にも入っていらしたかと思っていましたが入っていないのでしたら妙ですね」
「この試験は何かの罠かもしれないな。華子を出そう。共に連れていけ」
「承知いたしました」
不穏は空気が漂う第二試験。有利は有馬のことを気にかけながら有利は自分の部屋へと向かった。そんな有利のことを三角系の形をした式が監視するように見ていた。