表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
和紗は見習い陰陽師  作者: 田中ソラ
第一章 陰陽師になる決意
2/12

第二話 兄弟子

評価や感想、待ってます!

次の更新は……今週中にいけるかな?

「ここが……」

「私の屋敷だよ。そして今日から和紗ちゃんの家となるんだよ」


 日本家屋の屋敷が目の前に広がっており、家の角が見えないほどまでに大きく、和紗にとって初めてみる大きさだった。遊園地や水族館など大きな建物を見たことがない和紗にとっては有利の家に興奮せずにはいられなかった。そんな和紗の反応を見て有利は満足げに微笑み、和紗の手を引きぼうっと立っている門番に喝を入れながら屋敷へ入った。


 屋敷の敷地に入ると大きな屋敷が近くなる。玄関口には一人の女性が立っており、和紗の姿を見て目を丸めた。


「おかえりなさいませ旦那様。あら? そちらは?」

「拾ってきた。名は和紗。部屋は二十四。世話係は雪代ゆきよに任命する」

「承知いたしました。和紗様。わたくしは瑞世みずせと申します。こちらへどうぞ」

「うん……」


 和紗は瑞世に手を引かれながら廊下を歩いた。中は人声がせず、静かであった。縁側を歩いているとそこから手入れされている庭が見えた。そこには着物を着た少年が座り込み、池を眺めていた。


 少年のことを見るために和紗の足が止まった。そのことに気づいた瑞世は和紗を抱き上げ、庭に下りた。


「わっ⁉」

「和紗様。あのお方は賀茂有馬かもありま様と言って旦那様の御子息なのですよ」

「息子、ってこと?」

「そうでございます。お話しますか?」

「……ううん」

「ではこのまま歩いてお部屋まで行きましょう。屋敷内を通っては遠回りになります」


 和紗は瑞世に抱えられたまま地を歩く。少し後ろに目をやった時、有馬がこちらを向き睨んでいるのが見えた。


 そこから数分後。やっと部屋に到着したそうなので瑞世が縁側に和紗を立たせた。障子を開けるように言われたので和紗は障子を開くとそこにはメイド服のような服装をした女性が待ちわびたように立っていた。和紗のことを確認した途端、勢いよく抱き着いた。


「キャー! 可愛い女の子!」

「雪代。旦那様より貴方が和紗様の世話係になりました。しっかりお世話するのよ」

「分かってま~す」


 緩やかに返事をした雪代に瑞世は呆れながら障子を開け、部屋を出て行った。和紗は今だ雪代に抱き着かれたまま。苦しくなってきたところで、解放された和紗はゆっくりと部屋の中を見渡した。


「改めまして。和紗様の御世話係を任命いたしました雪代です。以後お見知りおきを」

「う、うん」

「普段は全然堅苦しくしないからね~私、堅苦しいのは嫌いなの。ね、和紗ちゃん!」

「そ、そうなんだ」

「私のことは雪代って呼んでね! 和紗ちゃんの着物を取って来るから待っていて~」


 雪代は和紗に手を振り、障子を開け部屋を出た。和紗は雪代がいなくなった事を確認し、畳へ座り込んだ。不安だったのだ。自分のことを拾ってくれた恩人の息子にあのような視線を向けられ、知らない人ばかり。自分は見妖の才というものが封印されていて霊力が溢れて出ている。それにより有利に見つからなければ知らぬ間に妖怪により死んでいたかもしれない。その事実が恐ろしく、和紗は膝を抱えた。


 そんな和紗の様子を有利は見妖の才がなければ見えないように細工された式神しきかみ越しに見ていた。そんな有利の隣には眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに座る赤髪の少年の姿があった。


「和紗ちゃんのことどう思う? 彰斗あきと

「此奴の霊力は酷く弱ってる。元々ないのが更にな。精神と共に壊れるのもこれじゃ時間の問題だな。にしても此奴のこと兄弟子に頼まなかったのか? こういうのは大の得意だろアイツ。任務で忙しいにしても……」

「和樹にはこの件と関係のある別件で動いてもらっているからこのことは彰斗にしか頼めない。分かったかな?」

「ちぇ。せっかく有馬と遊ぶつもりだったのによ~」

「悪いね」

「ていうか、師匠は女の弟子も取るんだな。意外かも」

「基本的に庶民の男子を中心に教えをしてきたからね。でも弟子となれば別だろう。彰斗は嫌かい? 妹弟子は」

「……別に。嫌ってわけじゃねぇよ」

「そうかい。そうであればいい」


 彰斗は照れを隠すように乱暴に障子を開け部屋を出た。そんな彰斗の様子に有利は微笑ましそうに見ていた。そんな有利はすぐに表情を変え、傍に控えていた式神に命令を下した。式は音を立てずに消え、命令を遂行するためにとある地へと向かった。




「ったく。なんで俺が妹弟子の面倒なんか……」


 ぶつぶつと師匠有利へ向かい文句を言っている彰斗の前に有馬が姿を現した。着物の裾は汚れており、額には汗が滲んでいる。彰斗の姿を見た途端、大声で叫び始めた。


「彰斗! 今までどこ行ったんだ。探したじゃないか!」

「あ~わりぃ。師匠に呼び出されて師匠のとこ行ってた」

「父上のところに……?」

「今日来た妹弟子の面倒を見ろってさ。邪魔くさいだけど別に嫌なわけじゃないから面倒見ることにした。だから今日は有馬と遊べねぇ。悪いな」

「妹弟子ってあの水ぼらしい恰好した女のこと? え、まさかあの女父上の弟子になるのか⁉ 嘘だろ⁉」

「そうだってよ。なんでも兄弟子も妹弟子のこと認めてるっぽいぜ。この件に関係する別件で動いているらしいし。なんとなくだけどいいよな~」


 彰斗はこれから会う妹弟子のことを羨ましそうにしたのとは反対に、有馬は憎悪の表情を浮かべた。男ばかりで幸せな、円満ある家庭を壊されるのを拒否しているからだ。彰斗はそんな有馬の様子に気づくことなく、妹弟子、和紗がいる部屋に行こうとしたが有馬が彰斗の腕を掴んだことにより歩む足が止まった。


「どうしたんだ? 有馬」

「……僕も行く。父上の弟子になる人材をこの目で見たい」

「いいぜ! 別に有馬が行ったらいけねぇって言われてねぇし!」


 彰斗は有馬の手を引き、和紗の部屋へと向かった。その道中和紗の世話係の雪代と会ったので合流し、共に部屋へ向かった。雪代は兄弟子になる彰斗が部屋へ来るのは分かるが、有馬が部屋へ来るのは意外であったと話していると、和紗の部屋から異様な空気を感じ取った。彰斗は有馬に下がるように言うが有馬は下がらない。彰斗は雪代に頼み、有馬を強制的に下がらせ、霊符れいふを構えながら和紗の部屋の障子を開いた。


 するとそこには涙を流す彰斗よりも一回り小さな女の子がいるのみで、先ほどまであった妖怪の気配はない。彰斗は先ほどの気配が何だったのか疑問に思った。だが疑問は少女の反応により消え去った。


「お兄ちゃん、誰……?」

「お、お兄ちゃんだと⁉」

「え? えっと……」


 彰斗は俯き、ぷるぷると震えだした。そんな彰斗の様子に和紗はどうしようかおろおろしていると彰斗が和紗の両手を握り、満面に笑みを浮かべた。


「お前和紗だよな⁉」

「う、うん。」

「和紗! 俺のことは〝お兄ちゃん〟と呼んでくれ! いつでも呼んでくれ! 今すぐにでも呼んでくれ!」

「う、うん……お兄ちゃん?」

「おお! それで和紗はいくつだ? 俺は十二だ!」

「和紗は七歳だよ」

「そうか! それと俺は和紗の兄弟子になったんだ。いつでも頼ってくれ!」

「え? 兄弟子って何?」

「なんだ師匠に聞いていないのか。ったく今度ここに連れて来てくれたおじさんから説明があると思うからその時に理解しろ。だがお兄ちゃんと呼べよ⁉」

「うん。分かった」


 彰斗に勢いに負け、和紗は頷いてしまった。だが嫌ではなかったのでそれでもいいかと和紗は客観的に考えていた。


 そんな彰斗は「あ」と何かと思い出したような表情を浮かべ、部屋の外へ飛び出した。少しすると彰斗は有馬を連れて、部屋へ戻ってきた。

 和紗は突然やってきた有馬におどおどしているが有馬は和紗を睨んだまま、何も言わない。空気が重くなる中彰斗が有馬のことを紹介し始めた。


「こいつは賀茂有馬。ここに連れてきたおじさんの息子だ。賀茂家って言う家の次期当主候補なんだぜ~」

「次期、当主候補?」

「げ。彰斗、そこは別に言わなくていいだろ。どうせこいつは陰陽師なんてできずすぐに辞めるんだ。霊力も全然ないし、見妖の才も見たところないだろう」

「たしかにな。でも師匠が和紗のことを弟子にするって言うってことは何か理由があるはずだし、俺は和紗のこと認めるぜ」

「彰斗……ほんとバカ」


 有馬の言った小言は彰斗に聞こえていなかったようなので彰斗は何を言ったのか聞き返していたが有馬はそれを無視した。そんな二人の様子に和紗はどうすることもできず、開きっぱなしの障子の外にいる世話係の雪代に助けを求めるために声を上げた。


「雪代ちゃん!」

「はぅあ! 雪代がすぐにお助けいたします!」


 雪代は頬を紅潮させながら涙目で助けを求める和紗の元により、抱きしめた。そんな雪代のことを彰斗と有馬は呆然と見つめた。雪代は和紗を離し、彰斗と有馬を強制的に部屋から出し勢いよく障子を閉めた。中からは立ち尽くす二つの影が見えるが、少ししてぶつぶつと何かを言いながら影が移動していった。和紗はその光景をぼうっと見つめていただけだった。


「和紗ちゃん大丈夫?」

「う、うん。ありがとう雪代ちゃん」

「うふふ、もう私を頼ってくれたってだけで嬉しいもの! はあ~和紗ちゃん最高」


 頬を赤らめたままの雪代に和紗は若干呆れながら再度お礼を言った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ