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意外な一面





付き合っていくうちに、わたしは、弘也さんの意外な一面を知っていった。

まず、思ってた以上に甘々なタイプだったということ。

というのも、会うと必ずといっていいほどわたしの写真を撮っていたからだ。

弘也さん曰く、好きな人の写真は何枚あっても足りない……らしい。

それから、心配性で、過保護。そしてヤキモチ焼き、時々、束縛しがち。

でも、恋人ができると誰だって大なり小なりそういう類の言動はあると思うし、弘也さんのそれも、決して不快なものでもなく、むしろ束縛すら喜んでるわたしがいたのだから。


毎日、可能な限り、勤務先の店と自宅の送り迎えをしてくれて、休日の買い出しにも車を出してくれたり荷物持ちを買って出てくれたり。

それは見ようによっては献身的で、わたしにそこまでしてくれなくても…という戸惑いも生じさせたけれど、わたしと弘也さんを知る店のスタッフからは「溺愛されてるわねえ」「そこまで愛されて、羨ましい…」なんて言われるものだから、わたしも、すっかり弘也さんの愛情に浸らせてもらっていた。



ただ一度だけ、友達との旅行を反対された時は、ちょっとした口論に発展したこともあった。

けれど、それも無闇に止めたわけではなく、天気の崩れからくる交通状況の悪化を心配してのことだと後で知り、すぐに仲直りしたのだ。

季節外れの大雪はニュースでも大々的に取り扱われ、キャンセルしてよかったねと、一緒に行く予定だった友人と胸を撫で下ろす結果となった。



そういう恋人としての時間を積み重ねていくうちに、わたしは、弘也さんの穏やかでありながらも熱を孕んだ深い愛情に触れて、こういう人だから、カラフルな()を持っているのだなと確信していた。



やがて一年が過ぎる頃には、弘也さんから同棲を提案された。



「遠くない先に、それらしい(・・・・・)ことは言うつもりだけど、まず、一緒に住んでみない?」


プロポーズの予告まがいのことを言われて、喜ばないはずがない。

わたしは何度も何度も、大きく頷いていた。即答だった。



結婚を前提とした同棲なので、お互いの親にも挨拶と同棲の許可を得るため、それぞれの実家に赴いた。

まずわたしの家。父は弘也さんとも面識があったので、スムーズに了承をもらい、ひとまず第一ステップは越えた。

そして翌週、弘也さんのご実家に伺うと、初対面にもかかわらず、弘也さんのお父様にも歓迎していただけて、わたしは尋常じゃなくホッとしたのだった。

ひとつ欲を言えば、弘也さんのお姉さんにもぜひお会いしたかったのだけど……

どうやら弘也さんのお姉さんはお身体が丈夫ではないらしく、時折、入院を要するような病気をされるそうだ。

今はそこまで悪いわけではないみたいだが、少し風邪気味ということで、ご挨拶は叶わなかった。

でもわたしに会いたがってたということをお父様から教えていただいて、わたしもお会いしたかったですと伝言をお願いした。

お姉さんにお会いした際は、お姉さんを弘也さんの恋人と勘違いして、その結果、付き合うことになったのだと、きっかけをいただいたお礼を伝えたいと思っていたのだ。




それからしばらくして、弘也さんの一人暮らしの部屋とわたしの勤務先のカフェの中間ほどのところに新居を決め、わたし達の同棲生活がスタートしたのである。


家具や家電もなるべく新しいものを買い揃え、まるで結婚準備のようだなと言っては、二人で笑いあっていた。

幸せな忙しさだった。

真新しい冷蔵庫に、弘也さんからはじめてもらったプレゼントの小さな虹のマグネットをくっ付けて、こうやって二人の思い出がどんどん集まって彩りを増していくのだと、胸が弾んでしょうがなかった。



そして一緒に暮らしはじめると、弘也さんのヤキモチ焼きや過保護っぷりにも波があることが分かった。

わたし一人での外出を心配してついてくるときもあれば、行ってらっしゃいと家の玄関で見送ることもあったりで。

わたしの推測では、弘也さんは、自分が疲れてるときに心配性がパワーアップするようだ。

その証拠に、わたしに過保護を炸裂させるとき、必ずと言っていいほど、弘也さんの()は紫が多めだったのだから。


それに気付いてからは、わたしは、なるべく弘也さんの疲れを癒してあげたい…という思いから、弘也さんの言うことを素直に聞くようにしていた。

そうすると、()が少し小さくなったから。

もちろん、弘也さんに心配かけたくないという思いも大きかったのだけど。



そんなある日の夜、仕事を終えた弘也さんが帰宅するなり言ったのだ。


「急だけど、長めの休みって取れないかな?旅行でもいかない?」


その背後に、今までにないほどの大きな紫を携えながら。





思えば、この誘いから、事態が動きはじめていたのかもしれない。


けれど、まだ何も知らなかったわたしには、それは、楽しいバカンスのお誘いにしか聞こえなかったのだ。










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