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カラフルなきみへ

 




何が書かれているのか想像もつかない手紙は、どうしてもわたしを緊張させた。

弘也さんが最後にわたしに伝えたかった言葉に、恐いような、早く読みたいような、いろんな感情が混ざってしまうのだ。


わたしは、背中を押してもらうつもりで、冷蔵庫にくっ付けていた小さな虹のマグネットを、手のひらに握りこんだ。


手の中の小さな虹は、いとも容易く、弘也さんの存在を感じさせてくれる。

思い出の中の弘也さんは、あの時と変わらずに、確かにわたしの心に()るのだと。

そんな小さな虹に励ましてもらいながら、わたしは、手紙を開封したのだった。





そして、読み終えたとき、さっきとは違う感情ゆえの涙が、ツ――――と、頬を伝った。

そでもれは決してネガティブなものではなくて、

ただ、弘也さんへの想いが形になってあらわれたかのような、

そんな、愛しさの証明。



弘也さん………



弘也さん、本当にありがとう。

大好き。

大好き、弘也さん。



「弘也さん弘也さん、弘也さん…………」



何度も、愛しい人の名前を呼ぶ。



手のひらの小さな虹に、弘也さんの()を、あの鮮やかな虹色(・・)を重ねながら、

わたしは、一生忘れることのない彼との思い出を、カラフルに染めていこうと心に誓った。


一生色褪せない、とどまることのないカラフルに―――――――











加恵へ


  加恵がこの手紙を読んでいるということは、

  きっと俺はもうこの世にはいないんだね。………なんて、

  ドラマや小説みたいなセリフ、

  まさか自分が使うことがあるなんて思ってなかったけど。

  ちょっとかっこつけて言ってみたかったんだ。

  笑い飛ばしてくれていいよ。


  ところで、姉から事情は聞いたんだよね?

  ずっと黙っててごめん。

  姉から聞いた通り、俺は、最初から加恵のことを知ってたんだ。

  実は、結構前に、お店のチラシを配ってる加恵を駅で見かけて、

  それからちょと気になってた。


  それ以降の説明は姉に任せるとして、

  俺は、加恵に対する思いを書き残そうと思う。


  まず、加恵を残してしまうことは、申し訳ないと思ってる。

  でも、どうしても加恵だけは助けたかったんだ。

  例え俺がいなくなったことで加恵が悲しみ傷付いたとしても、

  加恵には生きていてほしかった。

  それは俺の我儘なのかもしれない。でも、心からの願いだ。

  本当は、二人とも助かるのが一番いいんだけど、

  どうもそうはいかないらしいから。


  加恵が好きなんだ。愛してる。

  俺の色を虹色と言ってくれて、嬉しかった。

  自分に色がないのは感情がないからだと悩む加恵も、愛おしかった。

  事情を知らないのに、俺の心配性に付き合ってくれる加恵を、

  絶対に守り抜きたいと思った。

  そして俺との子供をお腹に宿してくれたことに、

  本当にありがとうと言いたいよ。

  本音を言えば、加恵のお腹に俺達の子供が来てくれたことを、

  一緒に祝いたかった。

  でも、加恵が気付かないうちに俺から話せば、

  他のことも全部説明する必要が出てくる。

  それができない俺は、

  ただ加恵の体調を気にかけることしかできなかった。

  

  俺の生きてるうちに、予定を早めて加恵と入籍してしまおうかとも考えた。

  そうすれば加恵は未婚の母親にならずにすむから。

  いろいろ制度的なことも含めて、姉にも相談したりしたんだ。

  でも、よく考えて、それはやめておくことにしたよ。

  経済的なことに関しては、子供のことも、加恵も、

  あまり心配しなくていいと思う。

  必要な書類関係は姉に預けてるから、今後は必ず頼ってほしい。

  くれぐれも遠慮なんかしないで。

  俺は父親なんだから。それくらいはさせてほしい。


  でも、結婚を繰り上げなかったのは、他にも理由があるんだ。

  だって、もしかしてずっと先の将来、

  加恵にとって素晴らしい出会いがあったときに、

  俺との結婚歴がひょっとしたらマイナスになってしまうかもしれないから。

  今は、「弘也さん、何言ってるの?」って加恵は怒るかもしれない。

  でも、未来は誰にもわからないだろ?

  俺が望むのは、加恵の幸せなんだ。

  一緒にいるのが俺でなくても、

  加恵が大切に思って、加恵や子供のことも大切にしてくれる人に出会えたら、

  それも嬉しいんだ。

  

  加恵、間違わないでほしい。

  俺がいなくなったのはきみのせいじゃないし、

  きみは、俺に縛られ続けてはいけない。

  大切なのは、生きているきみが、本当の心で幸せを感じることなんだ。

  俺のためにも、俺に縛られず、きみの幸せを選んでほしい。

  約束だよ?

  それから、子供のこと、一人で負担になることも多いだろうけど、

  絶対に、お義父さんや、俺の実家に甘えてほしい。

  頑張り過ぎないで、みんなで育ててほしい。

  勝手なこと言ってるのはよくわかってる。

  でも、何も事情を知らないお義父さんに、

  今の段階で俺からお願いできるわけもないから、

  こうやって加恵に託すしかないんだ。

  どうか、よろしくお願いします。


  今はあまり時間がなくて、子供に宛ててのメッセージを残す余裕はないけど、

  俺がどんなに喜んでいたか、大切に思っていたかを、伝え続けてほしい。

  ずっと愛してると。

  そばにいてやれなくて、ごめん。


  さすがに、自分の命が残り少ないと思うと、

  何を書いてるのかとりとめもなくなってくるな……

  でも、どうしても最後にひとつだけ、加恵に言いたいことがあるよ。

  この言葉を、ずっと忘れないで。

  もし何年か経って、別の誰かと人生を歩んでいても、

  一生、覚えていてほしい。



  きみは、カラフルだよ。

  無色なんかじゃない。

  俺には、きみや姉みたいな特別な力はなかったけど、

  加恵と一緒にいて、本当に、加恵の色が見える気がしたんだ。

  笑って、怒って、拗ねて、喜んで、同情して、嫉妬して、照れて、

  悲しんで、心配して、愛し合って、

  キラキラして、綺麗な、可愛らしい色がたくさん見えたんだよ。

  だからきみはカラフルなんだ。

  それだけは、絶対に忘れないで。

  

  俺の虹色を好きだと言ってくれたように、

  俺も、加恵のカラフルな色が、大好きだよ。

  カラフルなきみが、大好きだ。

  それは、覚えていてほしい。

  いいね?


 

  じゃあね。



  カラフルなきみへ




               直江 弘也                    










         




きみはカラフル(完)









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