真実の色(4)
「じゃあ、つまり………」
好きな色はダーク系。黒も好きだと言っていた弘也さんは、わたしにそう告げたとき、いったいどんな気持ちだったのだろう。
「その日より少し前、私が弘也と一緒にいるときに、あなたを見かけてたの。あなたには、四角い黒しか見えなかった。普通の人なら、通常の一色プラス黒で二色見えるはずのところを、加恵ちゃんには黒しか見えなかった。それはつまり、加恵ちゃんもこの特殊な力を持ってる人だという証拠だった。でも私にとって加恵ちゃんはそのときたまたま見かけただけの女の子。弘也に頼んでまでそれを阻止する対象ではないはずだった。なのに弘也にとっては………あなたは、何が何でも救いたい相手だったのね」
「え?それは、どういう……」
「今の段階で弘也が打ち明けてない以上、私からは言えないけど、だいたいで理解してもらえると助かるわ」
含みをもったような、ちょっと複雑な微笑みをお姉さんは浮かべた。
つまり、弘也さんは、あの雨の日店に来る前から、わたしのことを知っていた………?
たしかに思い返せば、あの日の前から店の前をよく通りかかっていたとは言っていた。
だとしたら、そのときにわたしを見かけていたとしてもおかしくはないけれど………
けれど、それを本人に確かめる術は、もうないのだ。
わたしはそのことに苦しみが喉を這って上がってきそうになって、とっさにお茶を飲み干していた。
お姉さんはそんなわたしを目を細めて眺めていたけれど、すぐに話をもとに戻した。
「それで、弘也はあなたに接触を図ったのよ。あなたを、おそらく遠くない未来に訪れる不慮の死から救いたくて。そして、弘也が加恵ちゃんのお店に通うようになってから、私もなるべく加恵ちゃんの様子を見に行ってたの。そのとき、私が弘也と一緒にいるところを加恵ちゃんに見られてたのよね?」
あの、弘也さんとお姉さんを恋人同士と勘違いしたときのことを言っているのだろう。
わたしはすぐに頷いた。
「はい……。あれ?でもあの時、わたしはお姉さんを見かけたはずなのに、無色だとは気付きませんでした」
「それは弘也も不思議がってたけど、きっと、弘也の賑やかな色が誤魔化してくれたんじゃないかって、二人で話してたの。弘也は私が透明なことを加恵ちゃんに知られたんじゃないかって、すごく焦ってたみたいだけどね。でもそのあと加恵ちゃんと付き合えるようになってものすごく喜んでたから、余計なことはあまり深く考えたりはしなかったのかも」
軽くおどけてみせるお姉さんは、思い出し笑いのような表情を浮かべた。
そういえば、あのとき、お姉さんのことを恋人だと思い込んでたわたしは、二人の姿を見ていたくなくて、弘也さんから目を逸らして俯いていた。だからきっと、はっきりお姉さんの色を確認したわけではないのだ。
そんなことよりも、弘也さんに恋人がいたという事実の方が一大事だったのだから。
でも、お姉さんと一緒にいるところを見かけたと話した際の弘也さんの焦り具合に、ほんの少しの違和感はよぎったのだ。
あのときの違和感について、もっと弘也さんに深く尋ねていれば、未来は何か変わっていたのだろうか。
そんなもしもの話を思い浮かべずにはいられなかった。




