真実の色(2)
「私と弘也の母親もそうだったし、母の妹も、彼女の子供達…つまり私達の従兄弟だけど、彼らも同じ体質だったの。幸い、母は祖母からこの力について色々と教えられてたようだし、私や従兄弟達も幼い頃から慣れていったんだけど、弟の弘也には、それは遺伝しなかったの。でも別に珍しいわけじゃなくて、母の姉も遺伝しなかったみたいだから、誰に遺伝するのかは偶然で、まあ、くじ引きみたいなものね」
それをくじ引きと言ってしまえるお姉さんは、よほど大らかな人なのかもしれない。
わたしだったら、絶対にそんな風には笑えないだろうから。
「ま、どっちがアタリでどっちがハズレかは誰にもわからないんだけどね。でも、弘也にとってみたら、母親も、姉である私も、仲の良い従兄弟達もみんな当たり前のように見えるものが自分にだけ見えなくて、がっかりしたみたいね。それから、見える人達が弘也の色に対して気を遣ったりしてたのも、ずいぶん気にしてたみたい。でも私達が身近にいる弘也の色を気にするなんて、当たり前のことだったのよ。だって、見える人間には、色は存在してなかったんだから、ただ単純に、弘也の色しか見えなかったんだもの」
「え……」
思わず声が漏れたわたしを、お姉さんはにっこり見つめた。
「やっぱり知らなかったようね。加恵ちゃんがそのことで悩んでるみたいだと聞いて、私は、すぐにでも教えてあげた方がいいと言ったんだけど………弘也には、その勇気はなかったみたい」
「……勇気?」
「そうよ?だって、もしそのことを加恵ちゃんに教えるなら、もっと他のことも話さなくちゃいけないんだから……例えば、あのとき、弘也が加恵ちゃんの働くカフェに行った理由とか?」
「え―――?」
お姉さんが言ったのは、わたし達がはじめて会ったあの雨の日のことだろうか。
………まさか、あれは偶然じゃなかったの?
急な雨に降られた弘也さんが、たまたまわたしがいる店に入ってきたわけじゃなくて?
瞬きも忘れてお姉さんを見つめ返すわたしに、お姉さんは少しの戸惑いを見せた。
けれど、また話しはじめる。
「それについては、またあとで説明するとして……とにかく、色々事情があって、弘也は加恵ちゃんの悩みを解決することを後回しにしたのよ。もちろん、それ以外のことでは、加恵ちゃんの悩みがなるべく軽くなるように心がけてたようだけど」
……それはもちろん、わたしだって感じていた。
見えるはずのない弘也さんが、度々わたしの色を冗談半分で告げていたのは、まさしくそういうことだろう。
それは弘也さんの優しさで、それから、わたしへの愛情だったはずだ。
「話を戻して……」
お姉さんは落ち着き払って、先を続けた。
「それで、自分ひとりだけ色を見られて、気を遣わせるのは嫌だからって、弘也は自分なりにいろいろ試してみたの。そうこうしてるうちに、基本的には一色しか見えないはずの色を、同時に複数表せるようになっていったのよ。それは加恵ちゃんも見ての通りだったでしょう?不思議よねえ。あんな色を出せる人、弘也以外で会ったことないもの。……どうやってそうしてるのかは最後まで分からずじまいだったけれど」
おどけたように言ったお姉さん。
けれど、わたしは同じ温度で聞くことはできなかった。
そもそも、そんなに簡単にあの虹色が作り出せるものなの?
自分以外の親しい人が、みんな特異体質だった。
だから、彼らに気を遣わせないように、自分の色を誤魔化したかった。
それが、弘也さんの虹の理由………
わたしは、やっと知ることができた弘也さんの秘密が、たまらなく愛おしく思えた。
やっぱり弘也さんは、底抜けに優しい人だったのだ。
自分の為というよりも、相手の為に。
穏やかな虹色が、心の中に広がっていく……
………けれど、今のわたしにはもっと知りたいことがあった。
「……あの、どうしてですか?どうして弘也さんはあの日うちの店に来たんですか?」
ストレートに疑問をぶつけると、お姉さんは、なぜだか寂しげな表情になっていた。
遠くを見つめるような、もどかしいような、切ないような眼差しで。
「それはね………、あなたの未来を変えに行ったからよ、加恵ちゃん」




