真実の色(1)
翌日曜の正午、ぴったり時間通りに、玄関のチャイムが鳴った。
わたしもお出迎えする用意は整えていたので、扉を開ける直前の感情は、はじめてお会いするという緊張感のみだった。
けれど―――――
「お待ちしてました……」
その先の言葉は、驚愕の感情とともに、胸の奥に引き戻されてしまったのだった。
弘也さんのお姉さんには、色がなかったのだ。
わたしと同じ、無職透明。
それが、お姉さんの色だったのである。
「やっと会えたわね、加恵ちゃん」
「………は…い、そうです、ね……」
わたしの特異体質については何も知らないであろうお姉さんが、にっこりと、やわらかく微笑んで。
それが、やっぱり弘也さんと似ていて。
わたしは色んな意味で、ぎこちなくなってしまった。
ところがお姉さんが、まるでわたしの心を見抜いたように言ったのだ。
「透明なのは、あなただけじゃないのよ?」
「――――っ?!」
ヒュッと、冷たい息を飲み込んだ。
わたしはそのまま、お姉さんを凝視するのをやめられない。
するとお姉さんは、
「ね?とりあえず、お邪魔してもいいかしら?話はそれからゆっくりと」
まるでイタズラが成功したように、楽しそうに、微笑みかけてくるお姉さん。
けれどそのまわりには、どこを見ても、やはり色がなかったのだった。
「さて、お茶も出していただいたことだし、早速本題に入ろうかしら」
ダイニングテーブルに向かい合って腰をおろしたわたしとお姉さんは、お姉さんの手土産の和菓子にも、わたしがお出ししたお茶にも手をつけることなく、話をはじめることにした。
「まず、私は、あなたと同じ特異体質の持ち主よ、加恵ちゃん」
「え……」
「いきなりで驚くのも無理ないわよね。本来なら、弘也と一緒に結婚前の顔合わせでそれを打ち明けるつもりだったんだから」
弘也さんと一緒に………つまり、つまり弘也さんは、お姉さんのことも知っていて、それから、わたしのこともお姉さんに話していたというわけだ。
確かに口止めはしていなかったけれど、わたしの特異体質をお姉さんに話されていたというのは、少しびっくりした。
「それでね、順を追って説明すると、私達みたいな体質の人間には、いわゆる色はないの」
「え?」
まるで詳細な事情をきっちり把握してるかのようなお姉さんの言い方に、わたしはぎょっとしてしまう。
この人は、いったい何者なのだろうか……と。
「なぜそんなことを知ってるのかって顔ね」
お姉さんはクスリと笑う。
「あ、いえ……」
「それはね、私の母もそうだったからよ」
「え?お母様も?!」
今日何度目かの驚愕に、感情が忙しなく暴れまわってしまう。
いや、暴れまわるなという方がおかしいだろう。
物心ついてからほんのついさっきまで、この特異体質の持ち主はわたしひとりだったのだから。
それがこの短い時間に二人も見つかるなんて……
「そうなの。それで、たぶんだけど……加恵ちゃんのお母さんも、同じ体質だったんじゃないかしら?」
「―――っ?!」
わたしはもう、吃驚の声をあげることもできなくなってしまった。
今、お姉さんは何て言った?
わたしの母親も、わたしと同じ………?
「弘也から、加恵ちゃんはお母さんとは離婚後会ってないって聞いてるけど、お母さんのお母さん、つまり加恵ちゃんのお祖母さんとは交流はなかったの?」
「………母は、若い頃に家出同然で実家を飛び出たらしくて………でも、どうしてそう思われるんですか?」
想像の範疇をはるかに越えている内容だ。わたしはそれを、どうしてもすんなりとは受け入れられなかった。
聞きようによってはお姉さんを疑ってかかるような態度になったわたしを、お姉さんは弘也さんに似た微笑みとともに受け止めてくれた。
「だって、私の知る限りでは、この力は母方からの遺伝であることが多いから」
またもや思いもよらなかった説明を受けて、わたしは、もうこのままお姉さんの話を最後まで黙って聞き続ける方が建設的にも思えてきた。
それほどに、いちいち反応を示す余裕を失っていたのだ。




