旅行中のできごと
弘也さん発案の旅行は、地方にある広大なリゾート施設になった。
急ではあったが、ちょうどシフト作成のタイミングだったこともあり、有休も含めて一週間の休みを貰えることになったのだ。
シフトに融通の利くわたしと違い、弘也さんの仕事が気になったけれど、どうやら代休もかなりたまっていたようで、そちらもスムーズな休暇取得となったようだ。
そうして、わたし達は、季節外れの夏休みに突入したのだった。
グランピングに大自然を利用したレジャー、屋内プールやスパ、乗馬体験やその他複数のスポーツ施設にショッピングモール……一週間もあるのに、それらは全て堪能できないほどの規模だった。
ハイシーズンを過ぎてることからあまり混雑もしていなくて、わたしが色に酔うこともなかった。
宿泊は敷地内にあるホテルのセミスイート。
一週間の滞在になるので広めの部屋を取ったのだと、弘也さんは「贅沢だけど、たまにはいいよね?」と甘えるように言った。
案内されたのは、リビングルームとベッドルームがそれぞれ独立していてパウダールームが二つもある部屋で、わたしはこれのどこがセミスイートなんだと驚き、そのラグジュアリー感に慣れなかったけれど、二日ほど過ごすと、それが快適に感じるようになっていった。
慣れとはすごいものだなと、何となくそんなことを思う傍らでは、なかなか慣れないことにも遭遇していた。
というのも、ここに来てから、弘也さんが携帯電話をやけに意識しているのだ。
気がつけばスマホでわたしの…時には二人の写真を撮影するのはいつものことだが、それ以外にも、一日に何度も着信があったり、その都度、弘也さんがバルコニーに移動して通話したり…そんな、姿を見ていると、もしかしたら仕事で何かイレギュラーでも起こったのかなと心配になった。
なぜなら、弘也さんの紫が、ずっと大きいまま、何なら徐々に肥大化してるように見えたからだ。
「弘也さん?」
四日目の夜、バルコニーから部屋に戻ってきた弘也さんに、思いきって訊いてみることにした。
「……ここに来てからよく電話してるけど、仕事?大丈夫?」
「え……そうかな?そんなに電話してる?」
とぼけるように尋ね返してくる弘也さんの色に目立った変化は生じていない。
けれど紫の面積は相変わらず大きくて、わたしはそれについても心当たりを問いかける。
「……あのね、実はここに来るちょっと前から、弘也さんの虹色の中で紫が大きくなっていってて、それが、ちょっと気になっちゃって……」
わたしの特異体質について打ち明けた日から、わたし達二人の間で、”よほどのことがない限り、見える色については口にしない” というのが何となくの決まりごとになっていたのだが、今回は ”よほどのこと” に分類してもいいと思ったのだ。
紫が疲労の類だと承知している弘也さんは、何か思い当たることがあったのだろう、「紫か……」と、ため息混じりに呟いた。
「疲れ、たまってるんじゃない?」
「……確かに、それはそうかもしれないな」
「仕事、大変なの?せっかくリフレッシュしに来てるんだから、わたしにも手伝えることがあったら言ってね」
仕事に関してはどうすることもできないけれど、それ以外でサポートできることは何でもしたい。
その想いからこぼれたセリフだったのだが、弘也さんが「ありがとう」と笑顔になり、その反動で紫も若干その幅を狭めてくれた。
こんな容易いことでも好きな人の疲れを減らすことができるのだと、わたしは、自信のような、誇らしい気持ちを覚えた。
そしてそれを立証してくれるかのように、弘也さんが言ったのだ。
「加恵は、元気で笑ってくれてたら、それだけで俺は幸せになれるよ」
その言葉に気をよくしたわたしは、「それならまかせて!」と胸を叩いた。
「弘也さんのためにも、元気に笑ってるから!」
本音で言えば、そんな容易いことで弘也さんの紫がなくなるわけないとは思った。
けれど、弘也さんがこう言ってるのを否定して他のことを尋ねるのも独善的に感じたのだ。
すると、わたしのこの選択が正解だったのか、またはわたしの笑顔が功を奏したのかは定かではないものの、翌日、いつの間にか弘也さんの紫は消えてなくなっていた。
わたしがその変化にホッとしたのは言うまでもない。
その後、弘也さんが電話をする数も減り、わたし達は残りの休日を思う存分楽しんだ。
昼だけでなく、夜の二人時間も濃厚になって、最後の夜なんかは、お互いに我を忘れるほどで………
とにかく、充実した季節外れの夏休みは、甘い思い出とともに幕を閉じたのだった。




