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断罪劇 3/4


きらびやかなドレスをまとった令嬢子息が学園最後の卒業パーティーを楽しむ中、第一王子レオンの声が高らかに響き渡った。


「みんな、重要な話があるんだ。聞いてくれ!」


同時に騎士団長令息であるローランドが深紅のドレスをまとったアイスブルーの髪が美しい令嬢の手をとり、丁重にエスコートしながら王子の前に連れてくる。

何かの余興が始まるのだろうと期待しながら王子と令嬢を中心にして人が円形に掃ける中、何人かが王子の周りにとどまった。

一人はダリア。そのたぐいまれなる美貌と有能さから数年前にカーティス公爵家の養女として認められた才女である。最近楽し気に王子と共に過ごす姿を見かける女生徒で、楚々とした純白のドレスを身にまとった彼女は王子と腕を組みながら静かに微笑んでいる。

もう一人は宰相子息のギース。トレードマークである細眼鏡の奥から緊張をはらんだ視線を深紅の令嬢に向け、王子の後ろに静かに控えている。


「レオン様、このわたくしに重要なお話とは、今日はいったいどのような事でわたくしを驚かせてくださるのです?また珍しい外国の小鳥でもくださるのかしら。」


「すまないイザベラ、貴女の事は好ましく思っているし、これまで未来の王妃候補として行ってきた努力も苦労も全てわかっている。だが私は平民の出でありながらもひたむきに努力するダリアに心奪われてしまったのだ。」


「ええ、構いませんわ。ダリアでしたら側妃として十分な教養も資質も備えておりますもの。王国の豊かな未来を共に支えてくれるはずですわ。」


「そうではない、違うんだイザベラ。」


レオンは解けた鉛を飲み込むような苦しげな表情で、苦悩の果てに言葉をしぼりだす。


「父上とは何度も話し合った。貴女の父であるフロストフィールド卿やダリアの父であるカーティス卿、そしてその他の公爵家とも。ここ何年も続く蛮族の襲撃や政情不穏、拭いきれない閉塞感を打破するため王国には新しい風を吹き込む必要がある。貴族の血を継いでいなくとも有能な平民を昇爵し、旧体制にあぐらをかいた害悪を一掃する。そのための旗頭としてダリアを正妃に迎えたいんだ。」


その話を普段の冷徹さなど微塵も見せずにニコニコと聞いているイザベラ。


「反対、しないのか?」


レオンは婚約者であるイザベラの知らないところで正妃を決めてしまったことを叱責され、恨まれる覚悟でいたのだ。しかし氷の魔女と恐れられている彼女がこんなにも楽しそうに自分の話を聞いている事など初めての事だった。


「もちろんですわレオン様。わたくしと同じ考えに至ってくださった事、とても嬉しく思いますわ。わたくしもこの王国に新しい風を吹き込むことを何年も考えてきたのです。レオン様と方法は違いますが、その計画が今なお進行中なのですわ。」


「それは一体どういうことなんだ?」


「最後に一つ確認ですわ。レオン様は本当にわたくしを選んではくださいませんのね?」


「ああ、すまない。」


その時会場により大きなざわめきが起こった。人垣が割れ現れたのは花瓶を入れるような小さな箱を抱えた騎士団長のマントを羽織った精悍な男と、その後ろに神経質そうな細身の男。


「親父、終わったのか?」


「父上、やはり・・・。」


ローランドとギースが悲し気に目を伏せ小声で言った。


「どういうことだ、何を知っているローランド、ギース!」


「殿下、今からでも遅くねえ。イザベラ様を選ぶんだ。」


「ローランド、何を言っている?」


「殿下、共に王国の美しい未来を作りましょう。まだ間に合います、イザベラ様の手を取るのです。」


「ギース、教えてくれ!何があったんだ!」


混乱を極めるレオンを押しのけ、騎士団長ライアンと宰相ブランドンがイザベラの前に進み出て臣下の礼をとる。


「女王陛下、王宮の掌握終了いたしました。」


「ご苦労様。宰相、法衣貴族の方はどうかしら?」


「はっ、精査の上粛清を決行致しております。」


「イザベラ、なんだこれは。騎士団長、女王陛下とはどういうことだ?その箱は何だ!」


箱からは赤い液体が漏れだし、鉄錆びの香りを放っている。


「レオン、落ち着きなさい。王国は今日、今をもって新しく生まれ変わったのですわ。旧体制の膿を出しきり、無能の下で燻ぶっていた人材を登用する。まさにレオンが思い描いていた通りの未来が訪れるのです。残念ながらその膿を放置し、肥大させてしまった最大の権力者には責任を取っていただかなくてはなりませんでしたけれど。」


「つまり・・・この箱には父上・・・。」


「ええ。それで、レオンはどうされますか?わたくしの手を取るならそれでよし、逃げるのでしたら騎士や兵士に手出しはさせませんのでご自由にどうぞ。」


レオンは震える足を叱咤しながらダリアの手を掴み走り出す。一刻もはやくこの国を出なくては。氷の魔女が治めるこの国に自分とダリアの安息の場所などない。


「この国を出るぞ、ダリア!」


「はい!どこまでもお供致します!」


その時、レオンの脇腹に焼きごてを当てられたような熱が走り、足をもつれさせて床に倒れた。逃げなくては、ダリアと共にどこまでも遠く。頭の中で思考だけがぐるぐると巡るが、立ち上がる事すらできない。視界は少しずつ夜に閉ざされていく。


「イザベラ様、終わりました。」


「ご苦労、ダリア。今までよく務めを果たしてくれましたね。」


「ええ。レオン様は私と共に逃げ延びる夢を見ながら逝けたと思います。」


「そうね。それがわたくしたちが愛したレオンにできる最期の贈り物ですもの。」




【Bad End -王国の終焉-】




いったい私は何を間違ったんだ、もう一度だけでいい、やり直させてくれないか。


もちろん。何度だっていいですわよ?では最初からやり直してみましょうか。トゥルーエンドに至るにはアイテムが足りませんでしたわね。わたくしの日記帳を探し、隠された王国の真実を知るといいですわ。



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