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断罪劇 2/4

きらびやかなドレスをまとった令嬢子息が学園最後の卒業パーティーを楽しむ中、第一王子レオンの声が高らかに響き渡った。


「みんな、重要な話があるんだ。聞いてくれ!」


同時に騎士団長令息であるローレンスが透き通ったアイスブルーの髪と深紅のドレスをまとった令嬢の腕を後ろ手にねじり上げながら王子の前に引きずり出した。

驚き、戸惑い、そして巻き込まれたくない思惑が交差して王子と令嬢を中心にして人が円形に掃ける中、何人かが王子の周りにとどまる。

一人はアリア。数年前にカーティス公爵家の養女として認められた庶子である。最近楽し気に王子と共に過ごす姿を見かける女生徒で、純白のドレスを身にまとった彼女は王子の腕にすがり付いておろおろとサファイアのような瞳をさまよわせている。

もう一人は宰相子息のキース。トレードマークである細眼鏡の奥から鋭い視線を深紅の令嬢に向け、苛立たしそうに手元の資料をめくっている。


「レオン様、このわたくしを罪人のように扱うなど、これは何の真似ですか。いくら婚約者であろうと未来の国母を公的な場で辱めるなど許されるものではありませんよ。」


「黙れイザベラ!お前が立場の弱いアリアに行った仕打ちは到底許されるものでは無い!」


かなり強く腕をねじり上げられているにも拘らず顔色一つ変えない婚約者にレオンの怒りはさらに過熱する。


「キース、ローレンス、あなた達まで何をやっているのです。このような愚行に走った殿下をお止めする事を期待して殿下の傍付きに選ばれたというのに。」


「五月蝿いですよ氷の魔女め。こちらにはあなたの取り巻きがアリア嬢に行った非道の数々を証明する資料があるのです。これが公になれば貴女は修道院送りか幽閉か、どちらにせよもうお終いなのですよ。」


「オレは王子の護衛で将来の騎士団長なんだ。アンタの部下になったつもりはないし、言う事を聞かなけりゃいけない理由も無いね。」


「イザベラ、まだ自分の立場が理解できていないのか?ならばここに言ってやろう!王太子レオン・オーウェンは公爵令嬢イザベラ・フロストフィールドとの婚約を正式に破棄し、公爵令嬢アリア・カーティスとの婚約を結ぶことをここに宣言する!」


ざわめきが会場を満たす中キースは満足げに頷き、感極まったアリアの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。


「本当にそれで宜しいのかしら?その選択に後悔はなさりませんか?」


全てを凍りつかせるような凄絶な微笑を向けられ、レオンはそれを振り払うように声をあげた。


「これは王太子としての決定事項だ、二言は無い。氷の魔女と恐れられたお前もこれでお終いだな。せいぜい今後の身の振り方を考えておくがいい。」


「わたくしの今後についてでしたら一切問題ありませんわ。」


「なんだと?それはどういう・・・。」


その時会場により大きなざわめきが起こった。人垣が割れ現れたのは豪奢なマントを羽織った精悍な男と、それを守るように付き従う胸甲を着けた偉丈夫達。


「父上、なぜこのようなところに。」


「アーノルド陛下、お聞きの通りです。わたくしが懸念していた事が現実になりましたわ。」


「まさしくな。それよりも騎士団長子息ローレンス、いかなる理由が有れ令嬢にそのような扱いは感心できんな、離してやりなさい。」


「はっ、御心のままに!」


突然父である国王が登場したことで狼狽えるレオンと注意を受けて慌てて手を放すローレンス。

イザベラは掴まれていた手首を軽く擦ると優雅に淑女の礼を執る。


「余が来たのは他でもない、今ここで起きている婚約破棄の件である。結論から述べよう、レオン、そなたと公爵令嬢イザベラとの婚約破棄を認めるが、アリア嬢を婚約者とする事は承認できん。」


「なっ、なぜですか!アリアは庶子ではあるものの公爵家の血を引いており、王家の正当性を損なうものではありません。それにカーティス家、フロストフィールド家からは共にアリアを正妃としてもよいという了承を得ており・・・。」


「そなたは本当に両家から了承を得たのか?もう一度両家の当主より言われた言葉を反芻するがよい。」


「どちらの家からも同じことを言われたので覚えております。『殿下が伴侶としてふさわしいと考えた方を正妃に迎えるとよいでしょう。』」


レオンの心に迷いが疑念となって湧き出る。アリアで良いはずだ、私は学園に入学する数年前から王太子としての政務を可能な限り全うしているし、アリアも茶会を通して派閥を作り、貴族家とのつながりを強固にしている。イザベラも同じことをやっているが、決してアリアが劣っていることは無いはずだ。それともイザベラは私の知らないところで何か特別な事でもしていたのか?


「イザベラ嬢の努力は認めますが、アリア嬢も私と共に王国を支えるべく様々な努力をしてくれました。私はより近くで私を支えてくれたアリア嬢こそが正妃としてふさわしいと判断いたします。」


「左様か、それでは当のアリア嬢に問おう。デイジー、もうよいぞ。アリア嬢、そなたは王太子レオンの伴侶として、この先も国務をこなし正妃としてふさわしい人物となる努力を怠らず、王家と国民に尽くすことを誓うか?」


アリアは淑女の礼を執ると晴れやかな顔で言った。


「はい、王家と国民に尽くすことは誓います。ですが王太子のお守りはもうゴメンっす。そもそもウチ貴族のまねごととかめんどくさくて嫌いっすもん。それと、アリアなんて庶子の令嬢は最初からいねーっすよ。」


「うむ、そうであろうな。」


「アリア!アリアッ!一体その言葉遣いは何だ?いったい何を言っている?私と将来を誓い合うのではなかったのか?」


激しく取り乱すレオンに呆れた様な視線を向けるアリア。


「そもそもウチの名前はデイジーっす。本当のオヤジは王国諜報部隊の所属で、ウチは今のところ諜報員見習いっすね。王子と歳が近かったので今回の作戦に選ばれたんすよ。『母は商家で働いているときに名も知らぬ高貴な方と情を交わした』って設定っす。」


「作戦?設定?何を言ってるんだアリア。お前は平民の生まれで・・・。」


「そう、平民っす。公爵家の血なんて一切流れてないっすよ。いやー、王子が公爵様の短剣をもって真顔で『君はカーティス公爵の庶子であることが分かった、この短剣は公爵が娘であることを証明するために君に贈ったものだ。』なんて言ってきた時はもう笑いをこらえるのに必死で震えながら『これで二人を引き裂く身分の壁は無くなったのですね、嬉しい。』とか言っちゃったっすよ。」


「レオンよ、そなたが偶然見つけた公爵の不正だがな、あれは執務能力や問題解決能力を試すための仕込みだ。公爵は公正な男である。不正など元からしておらんし、試験に使われている事も全て知っておる。」


レオンの後ろでキースがガタガタと震えはじめる。アリアが諜報員だったということは、レオンと共に公爵を脅してアリアを庶子としてねじ込んだ事も全て父や国王に知られているということだ。つまり、キースの将来は限りなく暗い。


「アリアを不正を行った公爵に対する監視に使うつもりで公爵家に入れたのならまだ評価はできた。だが本当の目的は血統を(たばか)るためよな。そなたは王国の歴史に、王家の血に泥を塗ったのだ。やれやれ、まさか本当にイザベラ嬢が言った通りになるとは。」


「イザベラッ、貴様いったい何を言った!」


「レオン、私はただ陛下に『王太子レオンは情に流されやすく、恋だの真実の愛だのに憧れる傾向があります。もし他国がハニートラップでも仕掛けようものなら簡単に引っかかるでしょう。』と進言しただけですわ。あとはレオンが好みそうな容姿の諜報員の娘を探し出し、陛下の協力の元この作戦を主導いたしました。」


「現に王子、『二人の将来のためにもっとお手伝いがしたいのです。』って言ったらウチに王家しか知っちゃいけないような事までペラペラ喋ってたじゃないっすか。あのあとオヤジに薬かがされてその日の記憶を強制消去させられたんすからね。」


「全て、全て嘘だったのか?あの日涙を流して私の苦悩を一緒に背負いたいと言ってくれたことも。」


「あー、アレっすね。超笑うの我慢してたんすけど、苦しすぎて涙が出たっす。そもそもウチは夢見がちな王族のボンボンとか任務でなけりゃ関わり合うのもゴメンっすもん。好きか嫌いかで問われたら反吐が出るて答えるっすね。」


滂沱しながら崩れ落ちるレオンに国王の言葉が突き刺さる。


「さてレオンよ、そなたについてだが廃嫡。貴族位及び王家に連なる者として得てきた財貨の全てを召し上げ国外への追放とする。供には同じく廃嫡となったキースを付けることを許す。両名とも本来であれば療養と称し生涯幽閉か病死してもらう予定であったが、イザベラ嬢からの強い要望によりこの処分となった。監視にはローレンスを付ける。拾った命、ゆめゆめ無駄にするでないぞ。」


「よかったですねレオン、これからはあなたが望む様に皆さんが個人としてのレオンを見てくれますわ。実力があれば這い上れますし、無ければ飢えて路傍で死ぬ。だれも貴方が王太子だった事など気にも留めませんし、それを利用しようと近付く者はローレンスが全て『居なかった事』にしてくださるでしょう。もちろん、貴方自身も含めてね。」


今まで見た事も無いような楽しげな表情で談笑するイザベラとアリアの横を、立ち上がる気力すら失せた愚かな男が引き摺られていった。


【Normal End -策謀の果て-】



どうしてこうなった。もう一度だ、やり直しを要求する。


あら、いいですわよ?では最初からやり直してみましょうか。明るみになれば破滅しか生まない下手な政治工作などおやめなさいな。それとアリアだけでなくわたくしやローレンス・キースの好感度も上げておくといいですわ。


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