王太子殿下が過激すぎてとてもじゃないけど悪役なんて名乗れません!
初投稿です。お手柔らかにお願いします。
私がこの世界に転生したのも、もう十六年前になる。
生まれてからしばらくは前世の記憶もなかったけれど、今は知っている。ここが剣と魔法系ファンタジー乙女ゲームの世界であり、私は裏ルートの悪役令嬢の位置に立っていると。
リーゼンバーグ侯爵令嬢として生まれてから何不自由なく育ち(思い出すとクソガキすぎて恥ずかしくなる)、王家の茶会で王太子に一目惚れした私が泣いて強請り、親の権力で彼と婚約した瞬間に思い出したのだ。もう少し早く思い出せば平和に暮らせていたかもしれないと思うと、頭が痛くなる。
とはいえ、記憶の戻った現状、王太子であるギルフォードとの関係は悪いものではなくなっている。
ゲームでは、自分にも他人にも厳しいギルフォードは、権力によって婚約に漕ぎつけたあと好き放題しているアンゼルヴェ(私)に辟易している、という設定だったのだけれど。
「貴様は何故、余と婚約したのだ」
そう問われた際、後に引けなくなった私はこう答えた。
「高位貴族である責務を果たしたいのです」
己にも他人にも厳しいギルフォード。王族として貴族を率い、国を纏めるという強固な自負を背負う彼に気に入られなければ処刑ルートまっしぐらだと悟った私は、必死に頑張った。
私を甘やかしまくっていた父が目を剥き、淑女教育を諦めかけていた母が泣いて喜ぶ程度には頑張りまくったのだ。
その成果もあって、今は王太子殿下の横に立てる唯一の令嬢というありがたい呼び名も頂戴している。
しかし問題もひとつあった。
私が頑張れば頑張るほど、ギルフォードはその先を行くのだ。
魔法をひとつ修めれば彼は十を使いこなし。
王妃教育の教師に褒められれば彼は既に王族としての公務を始めており。
貴族学院で首席の成績を獲ったと思ったら彼は飛び級で上位学年の首席を獲り。
挙句の果てには次の年を待たずして卒業までいってしまった。
そして私は、有史以来の神童と呼ばれるギルフォードに、毎日血反吐を吐くような思いでなんとか追いすがっているのだ。前世の記憶があればこそなんとか追う立場まで縋ることができているが、それがなければ本当に自殺を考えていたかもしれない。ゲームでの私はどうしてあんなに能天気でいられたんだろう。
そんなわけで、私は出来過ぎる婚約者を持つ令嬢として毎日毎日必死こいているところを見られているがゆえに、嫉妬されるよりも先に敬われるという、なんとか処刑コースは免れそうなことだけを心の拠り所として生きているのである。
身の上話が終わったところで、最近気になっていることも語ろうと思う。
それがヒロインとその攻略対象者の存在だ。
攻略対象としてギルフォードが裏、とすれば当然表がいる。
出来過ぎる兄に対するコンプレックスを持つ第二王子。私の家や第二王子の婚約者の家とバチバチにやりあっている公爵家の次男。そして騎士科首席である、第二王子の婚約者の弟。
他にも別ルートを辿れば何人かいるのだが、気になっているのは彼らだ。
何故かと言われれば、今目の前でヒロインが彼ら三人を侍らせ、中庭でイチャコラぶっこいているからである。
たしかヒロインは平民の出であり、男爵が引き取った庶子だというのが設定だった。
ゲームでは平民ながら勉強や魔法技術で優秀な成績を修めて攻略対象の婚約者から睨まれる、という形でストーリーが進んでいくが、私が記憶しているそれよりも攻略が大分早い。
どうにも、私が頑張りすぎたせいでギルフォードのスペックも爆上がりしてしまい、第二王子のコンプレックスも急成長。私を見ていた彼らの婚約者たちも発奮しすぎて評価がうなぎのぼりで男のプライドがズタズタ状態! らしいのだ。
ヒロインがそこに付け込んで、というと悪く言い過ぎている気がしなくもないが、彼女も彼女で高位貴族にちやほやされて大分出来上がってしまっている。
話を聞いている限りでは私のような転生者ではなさそうなのだが、ゲーム本編の彼女よりもなんか、こう、端的に言えば浮ついているのだ。
本来であれば成績優秀者であるからこそ進むストーリーを、優秀でないからこそ進められているというか。
ともかく、あまり見ていられない状況だ。学年は違うが彼らの婚約者たちからも相談を受けているし、放置することはできないだろう。
特に、今日はまずい。
私はため息を堪えて、彼らに近づいていった。
楚々と歩いて、歯の浮くようなセリフを繰り返している殿下に一礼をする。
「おお。これはリーゼンバーグ嬢」
「失礼いたします、殿下」
第二王子であるローウェンは、兄に対して強烈なコンプレックスを抱いているが、その婚約者である私に対してはそこまでの悪感情はない。もし私も生まれての天才であったならば同じような感情を向けられていたかもしれないが、私が必死こいているのが透けて見えるのだろう、時折同情するような視線を送ってくる程度だ。
私としても将来の義弟には悪い未来を辿ってほしくないし、ここは心を鬼にして説得を試みよう。
「ご機嫌麗しく存じますが、殿下。サリファ様は如何なされたのですか?」
サリファというのは彼の婚約者のご令嬢だ。私と同じ侯爵令嬢であるが、家が持つ力ではこちらが勝っている。といっても敵対しているわけでもなく、今では同じ王家と繋がる者として彼女ともよい関係を築いている。
「ああ……、彼女は」
「ローウェル様、この方はどなたですの?」
私と殿下の会話に、甘ったるいセリフが挟まれる。ヒロインのマリアンヌだ。
マジかコイツ……と思わず前世の言葉遣いが頭をよぎる。
自分より上位の貴族同士の会話に、よりにもよって王子殿下の言葉を遮ってまで口を挟むなんて。さり気に名前で呼んでるし。
一瞬血の気が引きそうになったが、殿下は特に気にした様子もなく私を紹介した。
「この方は兄上の婚約者である、リーゼンバーグ侯爵家のアンゼルヴェ嬢だよ」
「まあ。そうだったんですね! 私はホープス男爵家のマリアンヌと申します。どうぞ仲良くしてくださいね」
「…………」
より大きなため息が出そうになるのをどうにか抑えて、ちらりと彼女に視線をやったあと、殿下に戻す。
「サリファ様は如何なさったのです?」
む、と頬を膨らませるマリアンヌを視界の端に収めるが無視をする。周りの男共も僅かに眉をしかめたが関係ない。
「それなのですが、実はマリアンヌからサリファに嫌がらせを受けていると相談をされていましてね」
「まあ」
嫌がらせねぇ。ゲームと同じなら確かにしていたかもしれないけれど、今の彼女たちにそんな暇があるかどうか。私が頑張りすぎたせいで彼女たちも求められるものが大きくなって苦労しているはず。
そもそも平民の出が優秀だからと妬みを向けられるはずだけど、このマリアンヌにそんな感情を抱くのだろうか?
「そうなんです! ひどいことをたくさん言われて……。どうかやめていただけるよう、アンゼルヴェ様からも言ってくださらないかしら?」
ついに私は「ふぅ」と小さく息を吐いてしまった。
「……確かに、殿下がこのような方に係っておられれば、婚約者として多少語気も鋭くなるかもしれませんね」
「なっ……、ひ、ひどい」
「リーゼンバーグ嬢、いくらあなたでもマリアンヌを侮辱することは許せません。彼女は平民の出ながらも健気に努力しているのですよ」
殿下がぎろりと目を細める。周りでは両手で顔を覆ったマリアンヌを、男共が慰め始めていた。
「残念ながら、努力は結果が伴わなければ努力とは呼ばれないのです。未だ貴族のマナーも身についていないのであればなおさら」
「……っ!」
言ってから、少々まずいことを口に出してしまったと反省する。努力は実らなければ、というのは攻略対象者には地雷だ。努力する天才が上にいる第二王子にとっては特に。
「流石は王太子殿下に相応しいご令嬢と評判のリーゼンバーグ嬢ですね」
険悪な空気をさらに悪くするような揶揄が横から飛ぶ。私の家と反目しているロンデル公爵家の次男、アンドリューである。
「家の権力に縋りついて結んだ婚約とは思えぬ躍進ぶり、尊敬いたします」
「これはありがとうございます、ロンデル様。貴方様も勉学より優先する目標を持てたようで何よりでございますね」
ちくりと刺された嫌味をさらりと返す。
彼の家には公爵家を継ぐ嫡男がいるため、この学院を卒業してからは己の実力で地位を獲得しなければならない。それを成績を落としてまで、そして婚約者を放ってまで男爵令嬢に構っていれば、行きつく先は下位貴族への婿入りがせいぜいだろう。
ぐ、と詰まった彼はそれきり黙り込んで私を睨んでいた。
「アンゼルヴェ様はギルフォード殿下と無理やりに婚約なさったのですか?」
マリアンヌが空気を読めぬ発言をする。
曖昧に頷く殿下たちに、彼女は潤んだ瞳で私に食って掛かった。
「愛のない結婚なんて、ダメだと思います!」
「あなたには関係のないことです」
「そんな、家が大きいからって私の話も聞いてくださらないのですか!?」
「それもありますが、聞く価値のない話をおっしゃられても困るというだけです」
「……ひどいです!」
あーめんどい。面倒だからさっさと本題に入らせてもらおう。
ひどいひどいと嘆いているマリアンヌをなだめる殿下に、今ここに私がいる理由を話す。もう地雷とか言っている場合ではないのだ。
「本日はギルフォード殿下が学院の視察にいらっしゃいます。万が一粗相があってはならないので、まだ努力なさっているご令嬢を前に出すわけにはいきません。どうか場所を移してくださいますよう、お願い申し上げます」
「な、ん、兄上が?」
「はい。貴族学院の教務を一部見直す可能性があると」
一瞬激昂しかけた殿下が、私の口から出た兄の名前に瞬時に頭を冷やした。
予定の時間はもうすぐだ。早いところ彼らを移動させないと恐ろしいことになる。なる、というか、巻き込まれかねないのだ。だから早くどっか行ってほしい。
「兄上が公務で来るというならば、時間を取らせてしまうわけにもいかない。マリアンヌ、食堂に行って何か甘いものでも作らせよう」
苦手意識のある殿下はすっかり気勢をそがれたようで、ようやく重い腰を上げてくれた。
が。
「ローウェル様、私、ギルフォード様にもご挨拶したいわ」
「いやしかし、マリアンヌ……」
「学院では皆平等なんでしょう? だったらご挨拶くらいよいではありませんか」
ああ、頭が痛くなる。学院では平等、とは学ぶ姿勢に貴賤はないという意味だし、そもそもすでに卒業したギルフォード様には関係ないし、あと勝手に名前で呼ぶなと叫びたくなってしまう。
早く、早く追い出さなくては。
そう意気込んだのもつかの間。
「アンゼ」
「っ!」
私を呼ぶ声がする。深く静かで、けれども力強い声が。
ああ。来てしまった。
有史以来の神童が。
完璧を超えた完全が。
美しくも恐ろしい、王太子殿下が。
「ここにいたか。すまぬな、少々迷った。何せ一年足らずしかここには足を運ばなかったゆえ」
「いえ。予定よりもお早いお着きでございます」
「であるか。ならば良しとしよう。視察ついでに、茶会に誘いたくてな。母上が其方を呼べとうるさいのだ」
「然様でございましたか。謹んでご相伴に与らせていただきますわ」
「うむ」
満足そうに頷くギルフォード殿下の後ろには幾人かの近衛騎士たち。皆兜まで装着しており、表情はわからないがどこかホッとしたような空気を纏っている。時間に遅れていたら誰かしらが責任を負っていたのだろうか?
ギルフォード殿下は最敬礼をした私からついと視線を動かすと、ローウェル殿下にそれを固定した。
「ローウェルか」
「は、はい。兄上に於かれましてはご公務で参られたとのこと、リーゼンバーグ嬢より聞き及んでおります」
「うむ。貴様たちは、そうか、昼時であったな。我らはもう往く。しっかりと頭と身体を休め、励めよ」
「はい!」
ローウェル殿下はギルフォード殿下に強烈なコンプレックスを抱いている、が、それはむしろ強すぎる憧れのようなもので。兄弟で比べた時に己を卑下してしまいがちだがだからといって追い落とそうなどといった野心はなく、むしろ畏敬の念を抱いていると言ってもいい。
励め、と言われた殿下はようやく呼吸を思い出したかのように礼を取って、取り巻きたちへ移動を促した。
だが、すべては遅すぎたようであった。
「ギルフォード様! 私、ホープス男爵家のマリアンヌと申します!」
「……っ!?」
「ちょ、マ――」
私とローウェル殿下が同時に息を飲んだ。
空気がピンと張りつめ、急速に口が乾いていくような感覚を味わう。
もう、もう、なんてことをしでかしてくれたのか。
頭を抱えたくなる思いをよそに、マリアンヌはその空気を知ってか知らずか、無謀にもギルフォード殿下の手を取り、自分の両手を祈るように重ねた。
「ギルフォード様、お聞きしました。アンゼルヴェ様とは無理やりに婚約を結ばされたと。お辛い気持ちがあるなら、どうか吐き出してください。私で良ければ喜んで――」
「無礼な」
ぺらぺらと回る男爵令嬢の口上を止めたのはたった一言。
時が止まったかのような錯覚を打ち消したのもギルフォード殿下の手を振り払う動作だった。
「貴様、いったい誰の許しを得て余に触れている?」
「え? あ、あの。この学院では誰もが平等で……」
「それはここで学べる知識に家格の差はないという意味であろう。そも、余は既にこの学院の所属でもない、公務で視察に参った王家の者であるぞ」
さしものマリアンヌも気圧されたのか、一歩二歩と後ずさる。
それをかばうように前に出たのはローウェル殿下であった。他の連中はおろおろするばかり。この役立たず共め(涙目)
「兄上! 彼女はその、平民の出でして! 未だ貴族のマナーに疎く、平にご容赦を!」
「わ、私……」
「ほう、平民の。であらば見どころもあろうな。しかしここへ来てもう半年は経っているはずだが?」
「貴族が8から10を学ぶのと、平民が0から10を学ぶには差もありましょう! 兄上、どうか」
必死に頭を下げるローウェル殿下。そこまで形振り構わないということは、それなりに本気でマリアンヌのことを好いているのだろう。……まあ、不貞なんだけど。
ギルフォード殿下は鼻をひとつ鳴らし、身体ごとマリアンヌに向き直った。
「娘。貴様の利き手はどちらだ?」
「え? えっと、右手、です」
「そうか。ならば左手を出せ」
「は、はい!」
無情な声色。しかしマリアンヌは仲直りの握手だとでも思ったのか、嬉しそうに左手を差し出した。
それをギルフォード殿下が無造作に掴む。そして――
サンっ、と音がした。
「……へ?」
次いでマリアンヌの間の抜けた声。
音もなく剣を抜いたギルフォード殿下の近衛騎士が、マリアンヌの左手をすっぱりと斬り離してしまったのだ。
「っきゃあああああああああああああ!!?」
「マリアンヌ!!」
尻もちをついて転んだマリアンヌの左手首から、噴水のように鮮血が舞う。
気分が悪くなる光景だがローウェル殿下は迷わず彼女に駆け寄った。
「ああ、血が、こんなに……!」
「て、手、私の手が……!!」
「喧しいな」
呆れたようにギルフォード殿下が言うが、あなたのせいですとは流石に言えなかった。
「アンゼ、血を止めてやれ」
「っ、はい、かしこまりました」
急に名を呼ばれて跳ね上がりそうになる肩を抑え、マリアンヌに治癒魔法をかけてやる。とはいえ私程度の治癒では殿下の命令通り、血を止め醜い瘡蓋をつくるのがやっとで、接合も再生もできやしない。
そうしてようやく止まった血の噴出に、しかし真っ赤に染まった中庭の石畳が意識をぐらつかせる。
「兄上、どうして」
「何故、〝何故〟と訊く? 許しなく王族に触れればその場で斬殺など珍しくもない。ここが学院で、そこの娘が学生でなければそうしていた」
「し、しかし彼女はまだそれを知らないのです!」
「単なる平民ならば無知なる者として不問にもしよう。しかしここは学ぶ場であり、その娘は貴族であるという。であらば無知より劣る蒙昧よ。斬って捨てて何がおかしい」
「そんな……」
それ以上言い返せないのか、殿下は膝を突いたまま俯いてしまう。他の取り巻きたちも青い顔で震えているだけだ。
「だがまあ、そう急くな。……娘」
「ヒッ! は、はいっ!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらも、死にたくはないのだろうマリアンヌが裏返った返事をする。
「卒業までに貴様が有能であると証明せよ。さすればその左手、王宮治癒術師に命じて接合してやろう」
「しょ、証明、ですか……?」
「うむ。魔法の研究だろうと研鑽だろうと、単に勉学だろうと構わぬ。何かひとつでも光る物を持っているならば治してやる価値もあるであろう。まあ、まずは保存の魔法を覚えるが良かろうな。モノが腐り落ちては治癒術師も途方に暮れよう」
がくがくと震えながらも、マリアンヌが頷く。
「だが忘れるな。斬り離した左手は貴様の罪である。許可なく身に戻せば罪も戻る。その時に飛ぶのは手首では済まされぬと知れ」
「は、ひ」
「うむ、努励めよ」とギルフォード殿下は首肯して、マントを翻した。
「往くぞアンゼ」
「かしこまりました」
私も震えそうになるのを我慢して、ローウェル殿下たちに礼をしてから立ち去った。とてもではないが振り返る気は起こらない。もしこれで彼らに復讐心なんてものが芽生えても、きっとこの王の中の王になる人は、そのすべてを叩き潰すだろう。
本当に恐ろしい。
「アンゼ、顔色が悪いようだが」
速足で殿下に追いつくと、何事もなかったかのようにそう聞かれた。
当然、あなたのせいですなんて口が裂けても言えない。
「申し訳ありません。間近であれほどの出血を見るのは初めてでして」
「む。そうか。見苦しい物を見せてしまったな。すまぬ」
「そんな、殿下が謝られるようなことでは」
「つい先日まで魔獣征伐の任で出ていたゆえな、面倒ごとはつい剣で済ませようとしてしまうのだ。気をつけねばな」
「まあ。ほほほ……」
こえーーーんだよ。
「それに、余に触れてよい女は母上と其方のみと決めておる」
「もったいないお言葉です」
「其方が励めばこそ、余も負けじと進むことができた。これでも感謝しているのだ、我が最愛よ」
「ありがたき幸せにございます。一生をかけてお支えする所存でございます、殿下」
「固いな。名を呼ぶことを許すと言っただろう」
「今はご公務ゆえ、ご容赦くださいまし」
「で、あるか。ならば早々に終えるとしよう。案内を頼むぞ、アンゼルヴェ」
「畏まりました、殿下」
死なないためにと頑張ってきたけれど、今ではこれ以外の生き方をできる気がしない。
いつの間にか私の心を掴む殿下はやはり恐ろしくて。きっと怖いほどに愛してくれるのだろう。
そんな殿下の前では、とてもじゃないけど悪役なんて名乗れない。
普通の悪役令嬢もの書きたかったけど意外と難しかった……。
いつの間にか恋愛カテゴリーにも入れないものになっているとは。
ここがおかしい。ここはこうしたほうがいいといったご意見、アドバイスもお待ちしております。