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いつか灰になるまで  作者: 和紗
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※ホラー要素、一部残酷な描写がありますのでご注意を。

初投稿です。今回だけ長いです。

この場所に来れば彼に会えると思っていた。

しかし、実際のところここに彼の意識など一遍も残っていない。

千尋は一息ため息を吐くとぼうっと木々の先を見つめた。


ここで兄は殺された。


勇猛果敢な少年たちは、一人の青年をリンチすることが正義だとでも思っていたのだろうか。

そして、まるで魔女を処刑するようにして彼をいたぶった彼らは、正義の味方にでもなった気分だったのだろうか。

数年でこの世に野放しになってしまうそんな勇者たちにもう何かを思うことも疲れてしまった。


ただどうしようもなく彼に生きていてほしかった。


たとえ親不孝者の馬鹿野郎だったとしても。


               ***



『いわなみ心霊相談事務所』


それが夜尋(ヤヒロ)のバイト先であった。


胡散臭い霊能鑑定事務所でバイトをしている高校生など傍から見れば将来に一抹の不安を抱かないではないが、夜尋の悩みを理解できるのはこんな世界しかないため、夜尋自身はもう仕方がないと割り切っている。


この事務所の責任者、岩波剛毅 (イワナミ ゴウキ)は最近ぶり返してきた心霊の流行りを受け、ここ半年ほど前からほとんど事務所に滞在する余裕がないほど忙しい。テレビに出るたびに心霊関係の相談を解決していくと、いつの間にか実力が世間に認められ、今やメディアに引っ張りだこである。


そのおかげか、事務所には依頼が殺到しており岩波を合わせて5人ほど所属している霊能力者たちも、休む暇も、事務所に滞在する暇もなく仕事に追われていた。


残念ながら夜尋はまだ見習いのため、事務所にくる依頼者に対して話を聞きくことが基本的な業務である。しかし、最近では依頼内容によっては夜尋が解決してしまうことも多くなっていた。それというのも、些細なことで相談をしてくる人が多いからだ。そして、その大半は風水的な家具などの配置を変えたりすることで解決してしまうことが多いのである。流石に、憑りつかれたまでいくと千尋にも容易には解決できないため他の霊能者に頼むことにしているが。


今日の相談依頼を確認するため、事務所備え付けのパソコンを開く。夕方から相談の依頼が1件入っていた。相談者の名前は幾島悠灯 (イツシマ ユウヒ)。歳は22歳の男性だった。


千尋 (チヒロ)兄さんと同い年……かな)


4年前亡くなった兄を思い出し、感傷に浸りそうになる。その悲しみに飲み込まれそうになるのを感じ、頭を振って意識を現実に引き戻す。いつまでも死んだ兄の影を追っていてはいけない。それ以上見ているとまた同じ感覚に陥るのではないかと不安になった夜尋は、パソコンを閉じ時間を確認した。


 基本的に依頼受諾前の相談は相手を安心させるという配慮もあり近所のカフェにて詳細を聞くことになっている。予定の時間を見計らって夜尋はパソコンを鞄にしまうと事務所を後にした。



               ***



「1ヵ月程前から、悪夢を見るんです」


相互に名乗り会った後、開口一番にそう告げられた。

酷くやつれた男だった。髪も乱れ、目の下にはどれ程寝なければできるのか最早わからない程の濃さの隈ができてる。恐らく、健康的な生活を送っていれば目を引くような美形なのだろうが、元が良いだけにやつれた姿は目も当てられない程ひどく見える。


「おかげで仕事も手につかなくて……」


そういうと彼は下を向き眉間に手を当てて黙ってしまった。まるで自分の情けなさに耐えられないというような感じだ。そうとう追い詰められている。


(こりゃ、俺の手に負えないなぁ)


一目見て夜尋は判断した。というか少しでもこっちの世界に触れている人間ならすぐわかるだろう。完全に何かに憑りつかれている。とりあえず相談内容をまとめるため彼の話を聞くことにした。


「どんな悪夢なんですか?」


彼は始終下を向きながら答えた。


「ええっと。うまく説明できないんですが。いつも真っ暗闇の中で…。『アツイ』『アツイ』って言う声だけが聞こえるんです」


 ハァっと一息吐くと彼は続けた。


「それがとても苦しそうで……」


 思い出したのか、眉間に皺を寄せて一層苦しそうな表情になった。


「『アツイ』、ですか」


『アツイ』……。他者に憑りつき、強く訴える程の念だとすると「暑い」か「熱い」のどちらだろうか。


(「暑い」だったら、熱中症か風呂関係の事故かな。じゃあ「熱い」だったら……)


そう思いハッとする。途端に鼓動が早くなった。嫌な予感が胸をざわつかせた。いや、考えすぎか。

しかし、ここから『あの事件』の現場までは近く車で30分もあれば着いてしまう。嫌な思考は歯止めが効かず、そうと決まったわけでもないのに沸々と怒りが湧いてくる。それをなんとか押し込めながら夜尋は問いかけた。


「その悪夢を見るきっかけに覚えはありますか?例えば…心霊スポットに行った、とか」


その言葉を聞いた瞬間、彼は勢いよく顔を上げた。先ほどまでの苦痛を伴った表情はではなく、目を見開き驚いた表情になっている。


「どうしてそれをっ」


ビンゴか。と夜尋は思った。


酷く気分が悪い。


しかし、ここで仕事を放り投げる訳にもいかず下を向き強く拳を握ることしかできなかった。


相手はというと目を泳がせ、視線をあちこちに巡らせたと思ったら、意を決したのかぽつりぽつりを詳細を自分から話し始めた。


「隣の市の、白波市にある布施山ってご存じですか?」


知っている。あそこには苦い思いしか持っていないが。


「あそこで昔酷い事件があったんですが――」

「知ってます」


半ば相手の言葉に被せるように答える。

一瞬ひるんだようだったが、彼は続けた。


「そこに1ヵ月程前に行ったんです。き、肝試しに」


よりによってなぜそこに行ったんだ。そしてなぜそんな人間が自分に依頼してくるんだ。と夜尋は心の中で問わずにはいられなかった。


夜尋は兄の事件があってから、心霊スポットに肝試しに行く人間が嫌いになった。どうせ娯楽だとか話のネタにするためだけに人の死を利用している。その人を大事にする人がいることを、そしてその人たちをその行為によって傷つけ程いることを大半の人間はわかっていない。


それがどうしても許せない。


ただでさえ許せないのにそれが兄の事件の場所で行われたと知れば吐き気を催すほど気分が悪かった。

しかし、その報いなのか彼は憑りつかれて苦しんでいる。

そしてあろうことか霊能者にお祓いを頼みに来ているほど追い込まれている。

その姿が夜尋には滑稽で仕方なく見えた。


(ざまぁみろ)


そう思わずにはいられなかった。



               ***



『それで受けることにしたの?なんで?』


事務所に戻ってから、報告がてら所長である岩波に電話を掛けた。

岩波は夜尋の事情を知っている。

もちろん肝試しをする人間に強い嫌悪を抱いていることも知っている。

だからこその疑問だろう。


「別に。こんなバイトしているんですから、そろそろ割り切って仕事したほうが良いと思っただけです」


『ふ~ん。ほんとにそれだけ?』


もちろん嘘だ。しかし、こうでも言わないと彼の担当にはなれない。


どうしても彼の担当になりたかった。


そして思い知らせてやりたかった。


心霊スポットに肝試しに行くという行為が人を傷つけているということを。


個人的な怨恨が悟られぬように夜尋は細心の注意を払った。


『でもいきなり一人でお祓いできる?信用問題ってかなり大事なんだけど・・・』


「大丈夫ですよ。何度あなたのお祓いに付き合ったと思ってるんですか」


そう言ってなんとか岩波を説得する。

本当はと言えばお祓いなんてする気はさらさらない。

適当にお祓いをやったと嘘をつき、ついている霊の怒りをかってもっと苦しめてやろう。それでクレームを入れられても、あの事件の被害者の弟だと言って脅してやれば良い。


(まぁ、そんな気力があればの話だけど)


今日会った様子からのやつれ具合。


普通、相談に行って制服を着た高校生が現れれば不信に思ったり、時には激怒する相手もいる。

しかし、今回の相手は夜尋に対して気にすることができないほど弱っていた。

そして、あの様子を見ると霊や肝試しに行ったことに対しての多少の良心の呵責が見て取れた。


恐らく、そこまで気の強い相手ではない。


ならば所長にもばれずに相手を懲らしめられるかもしれない。

いや、ばれたところで怒られれば済む話だ。

相手がどうなろうが知ったことじゃない。


『まぁ、じゃあとりあえず任せてみようか。でもくれぐれも気をつけてよ。何かあったらすぐ連絡すること!』


思ったよりもあっさりと任されたことに少し驚きつつも、表情を引き締めて返事をする。


「はい。ありがとうございます」


気を緩めると口角が上がってしまいそうになる。


『お祓いの順序とかは、後でメールするから基本的にそれに沿ってするようにね。それから……』


『岩波先生!そろそろ出番です!』


続けようとする岩波の声をかき消すように、彼を呼ぶ声が電話越しにも聞こえてきた。

どうやら楽屋か何かで電話していたようだ。

その声に丁寧に返事をすると岩波はまた電話口に向き直った。


『えーと、それからね』


「大丈夫ですよ、詳細は後でメールで確認しますから。時間なんですよね?仕事に戻ってください」


岩波の言葉を遮って返事をする。

彼の気が変わらないうちにこの話題を終わらせたかったからだ。


『……。わかったよ。じゃあよろしくね』


「はい。任せてください」


相手が通話を終わらせたことを確認して、こちらも通話を切った。

こうもあっさりと承諾されると思っていなかったため、なんとなく現実味がないように感じられた。


しかし、時間が経つにつれ沸々とある感情が夜尋の中に湧いてくる。

それは、憎悪に起因した愉悦。

これから彼をいたぶれると思うとどうしようもなく楽しくて仕方がなかった。


「楽しみだなぁ」


幾島に訪問の日取りを訪ねるメールをしたためながら自然とそう呟いていた。

その声は、誰もいない事務所に無機質に響いていた。


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