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巻之六 「刃に導かれし乙女たち」

 様々な死線を潜り抜け、浅香山駅から程近い県立御子柴高等学校に進学した頃には、私は遊撃服の双肩に少佐の階級章を頂き、右肩には佐官の証たる金色の飾緒を頂いていた。

 入学式の日に行われたクラス分けでB組に割り振られた私は、望外の出会いを果たす事となった。

「おっ、淡の字!同じ御子柴高に入学した事は支局で聞いたけど、クラスも同じとは奇遇だな!」

 焦げ茶色の釣り目が自己主張している美貌に、黄色いヘアバンドで整えられたセミロングの青い髪。

 そして何より、腰に帯刀した西洋式サーベルに、聞き慣れた蓮っ葉な声。

「美鷺さん!御一緒出来て何よりですよ!」

 進学先で親しい顔見知りと再会出来た時程、心強い事はない。

 柄にもなく弾んだ声を上げてしまう自分が、そこにいた。

「って、ありゃりゃ…淡の字、今じゃ少佐殿か。これじゃ、淡の字と気安く呼べやしないな…」

 そうボヤく美鷺さんを観察してみると、遊撃服の階級章は准佐の物で、飾緒も付いていない。

「お気になさらず、これまで通り御呼び下さいませ。そうでなければ、また階級が追い付いた時に面倒な事になってしまいます。」

 これは私の独断ではなく、人類防衛機構の慣習に則った判断だ。

 同学年で階級差が2階級未満であれば、対等の言葉遣いも黙認される。

 いかにも防人乙女らしい、友情を重んじる気風と言えた。

「そうかい!ソイツは助かるよ、淡の字!それじゃ、高校でも変わらず、よろしく頼もうじゃないか!」

 握手の代わりに美鷺さんが差し出したのは、鞘から少しだけ覗かせた愛刀の峰だった。

「私こそ…今後とも変わらぬ御愛顧を御願い申し上げます、美鷺さん。」

 私も美鷺さんに倣って愛刀を腰から外し、鞘から少しだけ抜いた峰を、サーベルの峰にコツンと軽く押し当てた。

 所謂「金釘(きんちょう)の誓い」を理解している美鷺さんは、私に近い世界観と価値観を有している人間だ。

 それを再確認出来ただけでも、このクラス分けは大当たりだ。

 胸に去来した思念に我知らず口元を綻ばせた、その時だった。

「あっ、凄い!『金釘の誓い』でしょ、それ?」

「むっ?!」

「貴女は…?」

 物珍しそうな弾んだ声が、私達2人を振り向かせたのは。

「ゴメン、ゴメン!邪魔する積もりは無かったんだけど、『金釘の誓い』なんて滅多に見られる物じゃないでしょ?」

 2対の視線に少しも臆する事なく、私達のやり取りに口を挟んできた少女は、朗らかに笑いかけて来るのだった。

 遊撃服の肩で自己主張している階級章と金色の飾緒から、彼女も私と同じ少佐階級の特命遊撃士とすぐに知れた。

 髪は美鷺さんに近い青色で、長く伸ばして左側頭部でサイドテールに結い上げていた。

 クリッとした丸く大きな青い瞳が主張する童顔は、いかにも明朗快活で人懐っこい印象を与えている。

 適度にメリハリの付いた伸びやかな肢体が遊撃服の上からでも充分に確認出来て、この快活で健康的な印象に拍車をかけていた。

 それにしても、「金釘の誓い」を知っているという事は、彼女もまた剣を嗜む者なのだろうか。

 だが、この青いサイドテールの少女は、全くの丸腰に見えた。

 拳銃みたいな小型の個人兵装を、遊撃服の内側に装備しているのだろうか。

「ましてそれが、『御幸通中学至高の剣豪』と、『南之橋中の蒼き騎士』によって演じられるんだよ。レーザーブレードを扱う身としては、口を挟まずにいられなくってさ…」

 成る程…戦闘時にフォトン粒子の刀身を展開するレーザーブレードなら、柄だけをポケットに入れて携行出来る。

「ああ、ゴメン…自己紹介がまだだったね。私は枚方京花。御子柴中の出身で、階級は少佐。こうして同じクラスになったのも何かの縁だから、仲良くしてくれたら嬉しいな!」

 枚方京花少佐と名乗った少女は嬉々として遊撃服のポケットに手をやり、目当ての品を取り出した。

小型の懐中電灯を思わせる白い円筒は、人類防衛機構が採用しているレーザーブレードの柄だった。

「柄で致しましょうか、美鷺さん?」

「然りだな、淡の字。」

 意図を察してくれた美鷺さんは、サーベル片手に笑顔で頷いてくれた。

 何しろ枚方京花少佐の愛刀は、フォトン粒子の刀身を持つレーザーブレード。

 普通のやり方では、金釘の誓いは覚束ない。

「ああ…それからアンタの事は、『京の字』って呼ばせて貰うよ。構わないかい?」

 美鷺さんの蓮っ葉な口調に、青いサイドテールの少女は快活に破顔した。

「京の字?良いね、そのニックネーム!他の友達からは『お京』とか『京花ちゃん』って呼ばれてるから、なんか新鮮!」

 渾名で呼ぶ程に親しい友人が既にいるとは、なかなかに交友関係の広いタイプのようだ。

 まあ、この快活な気性と人懐っこさなら、それも当然かも知れないけど。

「それじゃ、行くよ?淡の字、京の字!」

 そうして音頭を取ったのは、サーベルを逆手持ちした美鷺さんだった。

「畏まりました、美鷺さん。」

「心得たよ、美鷺ちゃん!」

 枚方さんと私も、それに続く。

 円陣を組むように揃えられた、3振の剣。

 その柄と柄とが軽く打ち鳴らされ、変則的ではあるものの、こうして金釘の誓いが成立した。

「良いよな、こういうのって。フランスの『三銃士』って感じがしてさ。」

 アレクサンドル・デュマの不朽の名作に例える辺り、西洋式サーベルを個人兵装に選択した特命遊撃士の流石を感じさせる。

 ダルタニヤンが不在であるとか、ポルトス、アトス、アラミスは各々誰に該当するのかとか、疑問点を挙げればきりがないけれど。

 そんな想いに駆られていたせいなのだろう。

 新たに現れた級友もまた、剣を愛する防人乙女ではないかと、一瞬間とはいえ早合点してしまったのは。

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― 新着の感想 ―
[一言] いいですねぇ三銃士( ´∀` ) 最初の方はTVの人形劇で見た事あります(最初だけか
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