〔episode 0〕神頼み
ある時、一人の信心深い男が神に祈った。三日三晩、大粒の涙を両目から溢れさせながら、只ひたすらに、必死に神に乞い願った。
『あぁ、神様!私の願いが叶うのならば、たとえ地獄の業火に焼かれようとも、天の雷でこの身を引き裂かれようとも、何の後悔もいたしません!どうか私を、その慈悲深き御心でお救い下さい!神様!』
悠久の時を生きる神でさえも、その男の真摯な姿と命をも差し出す自己犠牲に心を打たれ、その願いを偉大なる奇跡によって叶えた。
そして、無事に願いを成就した男は―――――、
生きたまま、その身を地獄の業火に焼かれた。
男はすでに焼き爛れて潰れてしまった喉から、声にならない声で神を酷く罵った。
全身を真っ黒な炭に変えても死ぬことは叶わず、それでも業火で焼かれる苦痛は消えることはなかった。
『神よ!何故、こんな残虐なことする!?私の願いを叶え、救ったのではないのか!これまで誠心誠意、祈りを捧げてきたのに!こんな事になるならば、神に乞い願うのではなかった!』
すると神は、それから更に長い年月が経った頃、未だに神を罵る男の眼前に、ついにその禍々しい姿を顕現させ、困惑した様子で言葉をこぼした。
『願いが叶うのならば、何の後悔も無かったのではないのか………?』
しかし、男は神の言葉に答えず、焼けて落ち窪んだ眼腔をこれでもかと見開き、
『ッ………誰だ、お前は!?』
『………』
と呻いた瞬間、天をも引き裂くような凄まじい雷をその身に受け、塵も残さないほど粉々に砕け散り、その生涯をやっと終えたのであった。
さて、男が命を削りながら三日三晩必死に祈りを捧げていた“本来の神”は、その姿を見ても一切願いを聞き届けることは無かった。では、何故神の力でしか成しえない、偉大なる奇跡が起こったのか?
―――――簡単なことだ。
男が神と呼ぶ存在がその世界で唯一のものであったとしても、数多の“異世界”を含めれば、その存在は限りなく、その性質もありようも様々であった。
つまり、先ほど願いを聞き届けて顕現した神は、男が信仰する神とは一切関係の無い、全く異なる世界の邪神だったのだ。
男は幸か不幸か、己が世界の唯一神に打ち捨てられた哀れな願いを、異世界の神によって救い上げられ、その神の“基準”による正当な対価によって奇跡を与えられたのであったが……………さて、その結末が男が望んだ本来の形であったのかどうか?
正に、神のみぞ知る。
“神頼み”も命懸け。
彼等は慈悲深く、思慮深く、高潔で―――――きっと恐ろしく気まぐれなのだ。
次話から本編が開始します。
のんびり不定期更新を予定しています。
稚拙な文章ですが、お楽しみいただければ幸いです。よろしくお願いします。