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第1話 『進む道なき』シオン その5

「サライ!」


 ボルカの動きは早かった。

 仲間の誰かが危機に陥った時、助けに入るのは機動力に秀でるボルカの役割だった。

 【術技:突撃】。

 高速の踏み込みを用いる各種の【術技】の基本。

 その速度、攻撃距離は他の【術技】系統の追随を許さない。

 ボルカはさらに、そこから様々な【術技】へと派生させる事が出来る。

 ただ突進するだけの素人。ただ【術技】を弄ぶだけの未熟者とはそこが違っていた。


「……お?」


 ラフィがにやりと笑う。

 その顔が、その姿が、すっと消えた。


「下っ!」


 するりと、小柄な身体が足元に滑り込む。

 足を先に、身を伏せる動作と前に滑り込む動作が一体となったその動きは、明らかにそのための訓練を受けたものだ。


 ボルカの細剣が空を斬る。


 一度放たれた【術技】は、決められた通りの動きをなぞる。

 それでも、放つ前であるならば、あるいは多少であるならば、軌道の変化は不可能ではない。

 しかし、それにも限度がある。

 そしてラフィの動きは限度の外にあった。


 瞬間。ボルカは再び【術技】を発動させる。

 【術技:返し浪】。

 踏み込みの勢いを溜めにして、背後に跳びつつ一撃を放つ【術技】だ。


 突撃への対応手段は数多い。

 地面に伏せて身を躱す事も、サライとの戦いを見れば想定範囲内にある。

 敵の動きに対応して、千差万別に変化する技術こそ、ボルカの真骨頂だった。


 【術技:突撃】により、相手の対応を引き出して、その対応へのカウンター【術技:返し浪】を放つ。

 ボルカにとっては定跡と言っていい連携だった。


 ひゅおん、と返しの剣が空を斬る。


「はい残念」


 想定外だったのは。

 ラフィの姿勢は、ボルカの想定よりも、さらに低かった事。

 そして、彼女の尻から伸びた尻尾が、ボルカの引き足に絡んでいた事だった。


「ほぃよっと!」


 気合の声を上げてラフィが逆立ち気味に後転する。

 森小人の尻尾は、自身の身体を支える程の強度と力がある。

 そこにラフィの全身の体重を加えて、ボルカの引いた足を引っ張り上げる。


 完全に想定外の体幹の崩れ。

 さらに身体は発動途中の【術技:返し浪】の動作を続けようとする。

 自ら足に絡んだ尻尾を蹴るようにして、ボルカの身体は反転する。


「……ま……」


 まずい。

 瞬間に意識する。

 下は硬い土。

 革鎧の重み。

 【術技】のために受け身のとれない身体。


 決断する。

 【術技:耐性】で耐える。

 どれか?

 どの耐性か?

 打撃か? 衝撃か? それとも……。


 ふと、ボルカの脳裏に駆け出し時代の記憶が蘇る。

 迷宮の罠で死んだ冒険者がいた。

 罠はただの落とし穴だった。

 ただ少し、その落とし穴は少しばかり深くて、その冒険者は頭から落ちたと言うだけの事だった。


「落下ダメージ耐性とる奴なんて珍しいからな」


 そう、誰かが言っていた。

 余裕が出来たら、【術技:耐性(落下)】は必ず取ろうと、ボルカはその時思った。


 その事を、今の今まで忘れていた。


「……ぅあ……」


 声も出ない。冷や汗を流す暇も無い。

 その襟首を掴まれた。

 ラフィだった。

 すばしっこい森小人は、いつの間にか体勢を立て直して、ボルカの背後に既にいた。


 ダメ押しだった。

 ボルカが首から落ちるように。

 受け身がまったくとれないように。

 落下が致命的な威力を発揮するように。

 襟首と背中を掴んで、ラフィはボルカの体勢を丁寧に調整していた。


 ごきり、と嫌な音がした。


 【術技:耐性(落下)】は結局取っていなかった。


「受け身の練習くらいはしておいた方がよかったねぇ」


 よっこいせと立ち上がるラフィ。

 それを呆然と見上げて、ボルカはそのまま事切れた。


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