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第1話 『進む道なき』シオン その4

「だが、冒険者としてそいつを許す訳にはいかない。いいだろう、剣を取れよ」

「おいおい。やめろって」

「また出たよ。こいつのエエ格好しいが」


 構えた剣を一旦下ろすサライと呆れたように言う二人。

 一触即発の空気は僅かに緩んでいた。


「俺とお前。一対一の勝負だ。お前達も手を出すなよ」


 シオンは無言で片膝をついた。ゆっくりと、地面の剣に手を伸ばす。

 そっと、指先が泥だらけの柄に触れる。


「……だっ!」

「……うあああっ!」


 動き出したのは同時。

 シオンは剣を手に取って、その瞬間に片膝のまま剣を振る。

 【術技:三連撃】。

 一呼吸の瞬間に三つの斬撃を放つ【術技】だ。


 サライもまた、【術技】を放つ。

 【術技:四連撃】。

 連続攻撃を放つ連撃系の【術技】は、三連撃が一つの限界とされる。

 四連撃から先は、才能と幸運の二つが無ければ到達出来ない。そう言われる。

 『四連剣士』と、並の『戦士』とは分けて称される理由もそこにある。

 一つの限界を突破した者だ。

 シオンが到達していない位置に、サライはいる。それだけは間違い無い。


 高い金属音を立てて、二つの刃が打ち合い弾き合う。


 剣を操る動作も力も【術技】が代行する。

 同じ【術技】の攻撃は、使い手が異なるとしても同じ軌跡を描き、同じ力で振られる。


 二撃目が弾け合う。


 シオンとサライ。

 実力においても体格においても異なる二人であったとしても、放たれた【術技:連撃】の一撃一撃の威力は変わらない。


 三撃が弾け合う。


 剣の軌跡も同じ。だから、お互いに同じ【術技】を打ち合えば、【術技】同士は相殺し合う。

 だがそれも、放たれる連撃が続く限りの話だった。


 シオンの剣が振り抜かれる。彼の【術技:連撃】はもう打ち止めだ。

 サライの剣は弧を描き、刃先を返して振り下ろされる。

 軌跡の先にはシオンの無防備な頭。


「終わりだ!」


 サライは勝利を確信した。


「まだだっ!」


 その時既に、シオンは別の【術技】を発動させていた。

 【術技:弾打】。

 盾や武器で受けた攻撃を、一定確率で弾き返す【術技】だ。

 その成功率は盾のどこに、どのタイミングに当たるかに依存する。

 どこに飛ぶか分からない敵の攻撃に対して、これを使うのは、運と技量を必要とする。


 格上のサライの攻撃を、シオンが【術技:弾打】で打ち返す可能性は、ほぼ無い。

 【術技】の発動を感知したサライも、そう確信していた。


 しかし、シオンは知っていた。

 軌道とタイミングを知り得る自分自身の攻撃ならば、【術技:弾打】はほぼ確実に打ち返す事が出来る事を。


「たあああああっ!」


 シオンの【術技:連撃】の効果を持った一撃が、【術技:弾打】に打ち弾かれて、四連撃目となって放たれる。


 キィンッ! と、一際高く音を立て、二つの剣が弾き合う。


 バカな、とサライは目を丸くする。

 シオンは剣を持つ手に力を込める。まだ、終わっていないと。


 拳を握る。手首を戻す。剣の進みとは逆方向に、力を込める。

 【術技】の効果が切れた瞬間、剣が真逆の方向に走るように。

 刃は返さない。

 内側の刃で、手首と肘を曲げる力で剣を戻す。


 『逆刃』。

 シオンはこれをそう名付けた。

 【術技】では無い。シオンが自分で会得した剣の技だった。

 刃を返すよりも僅かに早く、通常と異なる軌跡を描く剣は、この技を知らない者には見切る事は難しい。

 サライもそうだった。

 ただ呆然と、首筋を狙う剣先を眺める事しか出来なかった。


 そのはずだった。


 ゴぅん! と衝撃が走った。


 シオンの頭に火花が散った。

 視界が真っ暗になり、一瞬遅れて鈍い痛みを感じていた。


「ったく、何が手を出すなだよ。偉そうに」

「俺達がいなけりゃお前、何回死んでたか分からないぞ、サライ」


 視界が斜めになる。

 頬の横に地面がある。

 見上げた視界に、血のついたメイスを握ったマジクがいた。


「うるせえな。実力を隠してたんだよこいつ」

「まあ、まさか五連撃いけるとは思わなかったぞ。危ないところだったな」

「やっぱり魔物だったと言う事だ。コーザ師のおっしゃることは正しいのだ」


 それでようやく、シオンは理解した。

 自分が後ろから殴られ、倒れたのだと。


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