表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/40

第4話 そして勇者は夢を見る その8

「……ルーク様……」


 『聖女』と呼ばれ民草どもに讃えられ。

 そんな旅を続けるさなか、『勇者』が現れた事を知った。


 『聖女』の【天名】と、名門の血筋が役に立った。

 生まれたばかりの『勇者』様に拝謁し、その一団に加わる事が出来た。


 『勇者』は、まだ少年と言っていい年頃だった。

 垢抜けない。どころか、垢だらけの襟首の上着を着ていた事を覚えている。

 白い肌にはそばかすが浮いていた。

 立ち振る舞いも、横にいる少年の方が余程マシなくらいだった。


 これのどこが本物の『勇者』かと思った。


 強さだけは本物だった。

 そのたった一つの本物だけで、彼女を全ての枷から自由にする事が出来た。

 自由を与えてくれるなら、誰でも良かった。


 それに。


「あの金色の髪だけは、いいわ」


 呟いて、アリアは自分の髪を一房手にとって、指の中で遊ばせる。

 闇の中でもきらきらと輝く金色の髪。

 アリアの自慢の髪だった。


 妹が髪を長く伸ばさないのは、アリアのように綺麗に透き通った金色をしていないからだ。

 アリアが彼女である証。それがこの髪の色だった。

 だから、自分の子供にもこの髪を伝えたいと思った。


「あの子なら、まあ、いいわ」


 陽の光に輝くルークの金色の髪。

 ふわふわと柔らかく巻いて、髪自体が光を発するような透き通った金色の髪。

 アリアの色とは違う。しかし十分に魅力的な髪の色。


 だからきっと、二人の子は綺麗な金色の髪の子供が生まれるだろう。

 きっと、愛しているフリをすることだって出来るだろう。


 だから、子を作る相手は、ルークであって欲しかった。

 それだけの事だった。

 それだけの事が、アリアにな重要な事だった。


「そのためにも、進まなければいけませんわね」


 どこまでも続く闇の中、這うように下っていく。

 どれほど長く下っていたのか。

 それとも一瞬の間の事だったのか。

 闇の中ではそれすら判然としない。


 このまま地の底を越えてしまうのではないか。

 そんな事を思い始めていた。


「光をもう少し遠くまで飛ばしてみましょうか……」


 そう言えば、灯りの魔法は杖から先に飛ばす事も出来る。

 それに、光を発するのは灯りの魔法だけではない。

 光の精霊を召喚する事も出来た。


 冷静に考えれば、試すべき事はいくらもある。

 その事に気付いて、アリアは思わず笑ってしまう。


 闇は冒険者にとっては隣人のようなものだ。

 恐れる必要などありはしない。

 光の魔法を使えば。あるいは感知の【術技】を使えばいい。


 それだけの事すら気付く事が出来ない程に自分は焦りを感じていた。

 その事に気付いて、ようやく心が軽くなった。


 さて、それでは何の魔法を使おうかと。

 そう、思ったその時だった。


「伏せろ」


 ぬっ、と闇の中から手が伸びた。

 頭を掴まれた。

 慌てる間も無く、強い力で地面に押し付けられていた。


「……ちょっ……何?」

「いいから黙れ。大人しく伏せ……」


 声は聞き覚えがある。

 『魔剣士』コーザが雇った盗賊。

 アリアは名前も覚えていない。

 それの声だった。


 どん、と衝撃が通り抜けた。


 地面に押し付けられた頭のすぐ上を、轟音と強風が通り抜けた。


 周囲の岩がびしびしと音を立てていた。

 目前の床に亀裂が走る。

 揺れ、唸り、ひび割れ、ボロボロと床の表面が砕けて剥がれるのが見えた。


 闇の中で轟音が反響していた。

 足元から凄まじい破壊の衝撃が吹き上がってくるのを感じた。


 一瞬、光が満ちる。

 闇を追い払う強烈な光。

 光が岩肌を削り、砕き、消し飛ばす。

 アリアには見た事も無いような圧倒的は破壊の光景。

 それすら、遥か下方で行われている破壊のほんの余波にしか過ぎない。


 それに気付いてアリアは頭を抱えて地面に伏した。

 強く目を瞑る。

 早く、この光が消えて欲しい。それだけを考えていた。


「……ったく、たまんねえな。こりゃ」


 盗賊の声が聞こえた。

 聞こえる事の意味に気付いて目を開く。


 闇が戻っていた。

 あの恐ろしい光の乱舞の後では、闇にも静寂にも、安らぎすら感じた。


「……なんだ。お前か」


 そして、聞き慣れたルークの声。

 全身にバチバチと雷を走らせて、手足からは強い光を余韻のように放射して。

 そして、金色の髪を闇の中で輝かせて。


 その姿を感じて、アリアはひれ伏した姿勢のまま、意識が遠くなっていくのを感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ