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VOICE  作者: 銘尾 友朗
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水面に煌めく光


 目で見るのはちょっと難しいんだけど、海の中には『海流』というものがある。あたしはこの日、初めてそれを見た。


 余談だけど、回遊魚たちはこの波の流れを利用して、あちこちの海を回りながら一生を過ごすらしい。


 海流はいくつかあって、あちらこちらでぶつかり合っている。そうすると気泡が生まれ、それはくるりくるりと回りながら海面を目指して昇っていく。気泡に月の光が当たるときらきらと光って、海の底から見上げるのはとてもきれいだった。


「見とれちゃうよね。私もいつ見ても時間を忘れて眺めちゃうんだ」


 ライラ姉さまが言った。


「あーら、ライラがそんなセンチメンタルチックなことをしていたかしら?」


 ライラ姉さまとベラ姉さまはいつものやり取りを始める。ボーイッシュなライラ姉さまはちょっと自由人で、細かいところに気を回すベラ姉さまはそこが突っ込みどころらしくよくからかっている。でもそれは、ライラ姉さまには痛くも痒くもないのか、毎度全面的にスルーされる。


「よしなさい、ベラ。いつも一緒に行動してるわけじゃないんだから。それともライラの行動を監視でもしているの?」


 二人のやり取りは、いつも長女のシェーン姉さまがサクッと切り落として終わる。


「あ、そろそろ時間よ、急ぎましょ」


 ライラ姉さまが唐突に言った。ベラ姉さまがからかおうがシェーン姉さまが庇おうが、基本ライラ姉さまはマイペースである。


「そうね、せっかくのミウの冒険だもの、アレを見てもらわなくちゃ」


「えっ? 何のこと?」


「私たち、今まであなたに城の外の世界のことを全て話してきたわけじゃないの」


 シェーン姉さまの話し方は、ときどきちょっともったいぶってる。回りくどくてドラマティックなの。今日みたいなときは、少し面倒くさい。


「人間のことは聞いたことがあるでしょう?」


 どうやら今日は、ベラ姉さまもまどろっこしく感じたようだ。いつもはシェーン姉さまの話を(さえぎ)ることはしないもの。あたしは話を先導してくれたベラ姉さまに向かって頷いた。


「この先に小島があるのよ。砂浜があって、その奥に森があって、更に奥には人間が作った灯台という建物があるの。その天辺(てっぺん)が、月の光が闇夜に映える時間になると真っ直ぐに光を放つのよ。光はゆっくりと回転して暗い海を照らすの。ちょっと面白いと思わない?」


 なるほど、それは面白いかもしれない。


「月の光が映える時間って、そろそろじゃない?」


 あたしは海水越しの夜空を見上げながら質問した。すると、話の主導権を奪われていたシェーン姉さまがきっぱりと言った。


「そうね、ここからはピッチをあげて泳ぐわよ。ちゃんと付いてきてね。迷子になられたら、私たちがお父さまたちに叱られるわ」


 ちょっと脅しが入ってない? 私、遠洋するのは初めてなのに。


「心配? 遅れそうになったら手を繋げばいいよ。疲れたときも正直に言って」


 ライラ姉さまがあたしの顔を覗きこんで言ってくれる。あたしは嬉しくて頷いた。


「この先の海は、波が穏やかなところが多いから心配いらないわよ。むしろ帰りの体力を考えて急ぐ、ってことが重要かもね」


 ベラ姉さまが、いたずらっ子みたいな顔をした。


「さあ、行きましょう」


 シェーン姉さまの声と共に、あたしたちはヒレを大きく広げて波を蹴り、一斉に泳ぎ出したのだった。



     ~~~~~~~



「これが、島……」


 島というところの近くに着いて、海面に顔を出した。目の前に砂浜というものが広がっている。その奥には姉さまたちが教えてくれた通り、森と呼ばれた緑色のものがワサワサしてた。そして、更に奥には……。


「あれが灯台?」


「そうよ。船を見たことはある?」


 あたしは少し考えて、それから答えた。


「前に城から少し離れたところを、大きな影が通ったことがあったの。そのときに友達のジンベイザメが『客船という船だよ』、って教えてくれたけど……?」


 ライラ姉さまに聞かれたので、知っていることを話した。


「そういうことがあったのね。灯台はね、船が夜どこを通っているか分かるようにするために光を灯して、『ここに島があるよ』ってことを知らせているんだって」


 人間は夜はあまり目や耳が使えないのかしら? そりゃあ、あたしたち人魚も昼間ほどは見えないけど、少くとも耳をすませば、どの辺で何が起きているかは大体分かる。


 不便な生き物の人間は、便利なものを生み出すのに()けているのかもしれないな。あたしはそう思った。


「見て! 始まるわよ」


 ベラ姉さまが灯台に向かって腕を伸ばしたとき、それは始まった。



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