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VOICE  作者: 銘尾 友朗
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珊瑚礁の、その奥で

挿絵(By みてみん)

イラストは田中桔梗様より、イラスト交換会(長岡更紗様主催)にて頂きました。ありがとうございました~♪


 ーー巻き貝を、そっと耳にあてれば海が聞こえる。あの懐かしい海のお(しゃべ)りが。その音に、私は容易(たやす)(から)めとられてしまう。


 それは本当は波の音なんかじゃない、と言われても、私は信じないーー



     ~~~~~~~



 あたしはミウ。一日のうちでお日さまが一番空高くなるところの真下よりも、もっともっと南の青い海の底で生まれたの。


 あたしたち人魚は12歳になって成人するまでは、生活圏である珊瑚礁に守られた城の敷地内でしか泳いじゃいけないの。昔はもっと違う年齢が成人だったんだけど、ある出来事から12歳に変わったの。それはある人魚の、とっても哀しいお話だといわれてるの。


 ……彼女はね、本当にこの海のことを愛していたと思うの。なぜって? だって、それはあたしも同じだからよ。


 誕生日がきて、成人したと認められて、自由自在に泳ぎ回れる!


 お日さまの光がきらきらと降ってくる、温かな波間も。色とりどりの魚たちの群れの間をくぐり抜けるのも。ごつごつとした岩場の深淵も。嵐の夜の、水面に打ち付ける強い雨の下も。


 輝く命の息吹の世界ーー。


 全てを見て回らなくちゃ。何もかもを心に焼きつけておかなくちゃ。そう思って、誕生日が待ち遠しくてたまらないの。


 聞けば彼女も私と同じことを考えていたらしいのよ。……ん? 言い伝えよ、言い伝え。


 だけど彼女は、海の泡になってしまった。人間の男に恋をしたばっかりに。その男はどこかの国の王子だったらしいわ。


 悪い魔法使いから、彼女の美しい声と引き換えに人間の足を手にいれたの。……足を手にいれるってなんか変ね? でもまあ、そういうことなの。魔女が言うには、王子に好きになって貰えなければ海の泡になって消えてしまう、ということだった。


 それで、彼女は恋しい王子の元へ行ったけれど、しゃべることが出来ないから、嵐の晩に王子を助けたのは自分だとは言えなくて……。王子は隣国の姫が自分を助けてくれたと信じていて、二人は結婚してしまったの。


 彼女はたいそう悲しんで、海に飛び込んだ。……もう、自由自在に泳げるヒレどころか、ウロコ一枚持っていなかったのにね。


 溺れてしまったのよ、きっと。悲しみにくれながら。


 その様子を見ていた天の神様が、彼女のことをあわれんで下さって、天使たちに彼女を迎えに来させたの。それで彼女は天国へ行ったんですって。



 こんな感じだったかな、言い伝えは。でもそんなの、あたしには関係ない。ただ彼女が愛したこの海と、海の上にある空というものを、この目で確かめたいって強く思ってるだけ。


 今日はあたしの12回目の誕生日。あたしは今夜、海へ出る。




     ~~~~~~~




 姉さまたちに先導されながら、遂に敷地の外の海へ出た。……1人でも充分なのに。


「ミウ、いつまでも仏頂面しないのよ」


 一番上のシェーン姉さまがあたしを(たしな)める。


「そうよ、せっかく誕生日の大冒険なんだから、楽しまなくっちゃ!」


 三番目のライラ姉さまが明るく言ってくれる。


「ライラが言うと、本来の趣旨(しゅし)から外れそうだけど」


 シェーン姉さまとライラ姉さまの間、つまり二番目のベラ姉さまが話に水をさす。


 なんで皆で泳いでいるかというと、城の敷地の周りの目印を教わるためだったりする。


 そんなの、皆がさんざん聞かせてくれたから、とっくに覚えちゃってるんだけどね。ただまあ、実際に目にするのは今回が初めてだし、百聞は一見にしかずって言うから仕方がない。黙ってついていきながら、景色を頭に叩き込むことにする。


 ゴツゴツした岩場では、イカがかくれんぼしてる。イソギンチャクは波に揺られてラインダンスしてるみたい。エンゼルフィッシュやネオンテトラは、ウロコ自慢をしあいながら優雅に泳いでる。


 ああ。今夜は満月なのね、きっと。いつもだったら、こんなに海の生き物がはっきり見えることはないもの。


 あたしは見るもの全てが珍しくて、姉さまたちについて行きながら、何もかもを心に焼きつけようとしいた。この、どこまでも青い青い世界をーー。



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