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それいけ!ガーディアンガールズ  作者: 前田ショーゴ
8/12

四天王蹴散らします 2

 ヒメカさんが目覚めた。

 状況が分からないのか、周りをキョロキョロと見渡している。

 そして、真っ先に正面に居た俺と目が合った。


「…………」


「…………」


 ――なんか、気まずい。


 声をかけた方がいいのだろうか。でも初対面だし、「はじめまして!ユキです!助けに来ました!」なんて言っても困惑させるだけだと思う。

 うーん……ならばいっそのこと、めちゃくちゃ格好つけてやろうか。

 正義のヒーローがヒロインを助けに来た時のように、俺にだって格好いい台詞が言えるはずだ。よし、そうしよう。

 この場合、正義のヒーローはハイネだと言うことは置いておくとする。


「もう安心だ……!後は俺に任せておけッ!!」


「……誰ですか?」


 ですよねー。


 状況掴めてないのに知らん奴が急に出しゃばっても、そりゃキョトンとするわ。

 いいもん。俺がやってんのはただの自己満足だし?ヒメカさんにお礼言って欲しくてやってんじゃないもん。俺何もしてないけど。


「ヒメカさん……?この方はですね……」


「コ、コハルコさん!?……そっか、コハルコさんが助けてくれたんだ……」


「ち、違いますの!ヒメカさんがグレアコートに襲われたと聞いて、彼が真っ先に……」


 コハルコさんが状況を説明する。

 ナイスだコハルコさん。もっと俺を褒めて!これを機にヒメカさんと仲良くなりたいんです。


「そうだったんだ……すみませんでした。命の恩人に失礼なこと言ってしまって……」


「気にするな……同じ転移者の仲間じゃないか。助け合うのは当然のことだ!(キリッ)」


「は、はぁ……ありがとうございます……」


 よし!全然上手くいった気がしないけど、まぁよし!!



「主ッ!!挨拶は終わったか!?このままじゃジリ貧だぞ!?どうする!?」


 ハイネは今も槍を数本細切れにしながらそう言った。


 マスターである俺には、集中して見ると彼女達の残り魔力をある程度知ることができる。これはアゼルムの失敗の時にシズクから聞いて知った。

 ハイネの魔力はまだまだ底を尽くことはない。だが、グレアコートが本当に槍を無限に出すことができるのであれば、いずれはハイネが先に力尽きてしまう。

 その時はミルルに代わって貰うだけだか、それはやっぱり最終手段だ。彼女は出来るだけ俺しか居ない時にしないと、周りを巻き込みかねない。

 だからなんとかしてそれまでに奴に隙を作り、ハイネの本気の剣戟をぶちかましてやらなければならない。


「何をやろうと無駄だ!我の槍に隙は無い!お前達転移者は皆殺しにするッ!!」


 あらら。俺とコハルコさんも転移者ってバレてるっぽいな。


 グレアコートの槍は休まることを知らなかった。本当にこの技しかないんだろうが、威力も手数も一級品だ。ハイネが居なかったらもう何百回と死んでいるだろう。


「私がやります……私が、みんなを巻き込んだから」


 ヒメカさんがゆっくりと立ち上がり、腰のポーチから一つの丸い玉を出した。

 金属……たぶん鉄だ。ビー玉程の大きさの鉄球を、彼女はグッと力を込めて握る。

 ほんの一瞬手の中が光り、いつのまにかヒメカさんの手の中には鉄製の短剣が握られていた。最初彼女の周りにたくさん落ちていた剣と同じ作りだ。


「それってもしかして、転移者ボーナスのスキル?」


「はい。私のEXスキル、物資魔法です。物の形を質量を無視して変えることができます。まぁ、コントロールが難しいので今はこれが精一杯ですけど」


 こりゃまた凄いチートだ。

 直径約1センチの玉が短剣になるとか、質量を無視するってレベルじゃねぇぞ。しかもヒメカさんの言葉からして、コントロールが上手くいけばもっと大きな物にも変えられる訳だ。とんでもない攻撃パターンになりそう。


 だけど、それでグレアコートにどう対抗する?

 正直いくら短剣を出したところで、たぶんヒメカさんの力ではハイネの下位互換でしかない。それはグレアコートに勝てなかった彼女が一番良く分かっているはずだ。


 せめて短剣ではなく、もっと、他の……


「……可能性として聞きたいんだけど、それって剣じゃなくて、もっと簡単な作りならまだ大きくできたりしない?」


「え?ま、まぁ……例えばそのままの形で大きくするだけなら、1メートルくらいはいけますかね……?」


 ――これは……行ける。奴を()()()


「ヒメカさん、コハルコさん。ちょっと試したいことがあるんだ。耳を貸してくれ」


「わ、わかりましたわ……?」

「は、はい……」


 二人に俺が考えた作戦を話す。彼女達は目を大きく見開き、必死になって俺を止めた。


「だ、駄目ですわ!そんな……危険ですわッ!!」


「そうです!それなら私がやります!私のせいなんです!ユキさんが何で……」


 まぁ、そうだろう。俺の作戦は無茶苦茶だ。

 穴という穴だらけだし、聞いただけで見たことすらない物を信用した上で成り立っている。


「それにもし!その作戦が上手くいったとしても……ハイネさんが一撃でグレアコートを倒せるという保証がありますの!?」


「保証なんてないよ」


 そう。保証なんてない。

 俺と彼女の付き合いなんて、昨日の今日だ。俺はハイネの全てを知っている訳ではない。

 それはコハルコさんも、ヒメカさんも同じだ。そもそも、俺は記憶のないまま昨日この世界に来たばっかりなのだ。


 不安で、怖くて、でも何故か、身体が勝手に動いて。

 俺はこの世界に来てから、流されるがままだった。


 でも……いや、だからこそ、俺はみんなを信じたかった。


 俺はこれから、この世界で生きていかなきゃいけない。泣こうが、喚こうが、それは現実だ。ドラゴンに殺されそうになった時、嫌でもそう感じた。


 それを受け入れる為に、俺は俺を助けてくれる人達を助けたい。


「俺には何にも力がないからさ。俺を助けてくれる人を信じなきゃいけない。知らない世界で生き抜く為にも、シズクも、ハイネも、ミルルも、アゼルムも、コハルコさんも、ヒメカさんだって、俺は信じたい。なら、俺が頑張るしかない。そうだろ?」


 コハルコさんとヒメカさんは黙って俯いた。納得はいってないみたいだけど、俺の覚悟は伝わったみたいだ。


「それに、この作戦は俺じゃなきゃできない。ハイネと意思疎通ができる人じゃないと、意味がないんだ」


「それは……」


 コハルコさんが悔しそうに顔を歪めた。


「大丈夫!俺はヒメカさんも、コハルコさんも信じてる!ここで信じなきゃ、どうせどっかでのたれ死んじゃうよ」


 本当はここでも死ぬ気はないけどな。


「……わかりましたわ。私もユキさんを信じますわ」


 コハルコさんは俺を真っ直ぐに見て、力強く頷く。

 それを見たヒメカさんも諦めたように頷いた。


「私も……ユキさんを信じます。私なんかの為に……こうやってユキさんが私を信じてくれるなら、私も信じたいです……だから、絶対に成功させて下さい!」


「ああ!約束する!」


「帰ったらお礼をさせて下さい!私、何でも奢りますから!」


「じゃあ冒険者用の装備一式でもお願いするかな?」


 ヒメカさんは小さく笑う。素敵な笑顔だった。

 これからもこんな笑顔が見れるなら、俺は何度だって無理ができそうだ。


「ハイネッ!!マスターとして命令するッ!!」


「心得たッ!!何でも言ってくれ!主よ!」


 ハイネはこの間もずっと俺達を守ってくれていた。

 凛とした表情は最初からずっと変わっていない。悲壮感のカケラすらない。

 彼女は無条件でマスターを信頼しているのだ。

 だから俺は、それをさらに一押しする。


「俺を、信じろ」


 俺は笑う。ハイネもニヤリと笑った。



「作戦会議は終わったのか?お前のような弱小生物に何ができるッ!?せいぜい足掻き、自分の力の無さを悔やむんだな!」


「うるせぇオツム弱小生物が!せいぜい俺の完璧な作戦にハマって自分の頭の無さを悔やむんだな!」


「ほざけッ!!」


 グレアコートは槍の召喚をさらに加速する。それでも、ハイネは全て一瞬で細切れにしてくれた。


「作戦開始だぁぁぁぁぁああッ!!!!」


 ヒメカさんがポーチから鉄球を取り出す。

 力を込めて大きく形が変わったそれを、素早く俺に渡してきた。


「ユキさん!」


 それは傘にも似た、大きな帽子だ。先端が鋭く尖っているだけのシンプルな形。手に持って頭に被せると、俺の上半身を丸ごと覆った。


「な、なんだそれは!?」


「へっ!お前の槍は直線にしか動かない……!これでもかってくらい見せて貰ったぜ!」


 ここで初めて、ハイネが槍を一本だけ無視する。真っ直ぐに向かって来た槍に傘帽子の先端を向けると、槍は擦れるように軌道を変え、俺の横をすり抜けていった。

 純粋なぶつかり合いなら、ヒメカさんの鉄ではグレアコートの槍には勝てないだろう。

 でも、ただ逸らすだけなら。俺に当てないだけならこの傘帽子だけで充分だ。

 強度も問題なし。目で見えなくても、マスター権限の意思疎通にて、槍の来る方向はちゃんと分かる。


「これなら俺は傷付かない!ハイネッ!!今のうちにグレアコートを叩っ斬ってやれッ!!」


「了解だ!主よ!」


 ハイネは俺に構わず、強く地面を蹴ってグレアコートに飛びかかった。


 ――が、



「……やはり弱小生物。我の槍が空中からしか出せないと、そう勘違いしてしまったのだろう……」


「ガハッ……!!」


 その瞬間、腹に焼けるような痛みが襲った。


 俺の腹を貫いた槍は、空からではなく、地面から伸びていた。

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