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それいけ!ガーディアンガールズ  作者: 前田ショーゴ
7/12

四天王蹴散らします 1

「ハ、ハイネさん……?ちょっと……吐きそう……」


「もうすぐだ!我慢してくれ、主よ!」


 外は暗かった。そんな中、王都を出た俺達は林を走っていた。

 正確には、走っているのはハイネだけだ。コハルコさんは背中に乗って、俺は右腕に担がれている。

 こんな時にアゼルムのテレポートが使えれば良かったのに、彼女はまだ回復しきってなくて寝たまんまだ。


「まさか、グレアコートが出たなんて……!」


 コハルコさんが悲壮な声を上げる。

 俺達が今こうして掛けているのは、あの時の少女との会話が原因だった。


『ヒメカが……!ヒメカがグレアコートに襲われているんですッ!!』


 ――魔王軍四天王グレアコート。

 コハルコさんの話によると、ヒメカさんを襲った奴は魔族という種族で『転移者殺し』の異名を持つ者だと言う。

 この世界には魔族という種族が、大陸の遥か北に自分達だけの王国を築いている。彼らはとても好戦的で、いずれ他種族を滅ぼそうと今は力を蓄えている。そして彼らの王、魔王を守護する為に作られた魔族最高の精鋭軍団、魔王軍。その中でも特に強い魔王軍最強の四天王。その内の一人、グレアコートは定期的にこちらの領土に現れては、転移者を見つけ殺戮して回っているらしい。


 二人は冒険者の仕事で魔物を狩っていた最中、グレアコートが急に現れて襲われた。ヒメカさんは相方を庇って一人で立ち向かって行ったみたいだ。


 正直、俺はヒメカさんを知らない。

 でも、これから同じ家で共に過ごす仲間になる予定だった人なんだ。可愛い子だといいなぁって期待してたんだ。


 可愛い子かは知らない。仲良くなれるかも分からない。でも、知らないからこそ楽しみだったんだ。


 ならば俺のすべき事は一つだ。

 グレアコートをぶっとばして、ヒメカさんに挨拶するんだ。

 ――はじめまして。ユキです。仲良くして下さい。

 ってなッ!!


「コハルコさん!そのグレアコートって奴は強いのか!?」


 少しでも情報が欲しい。ぶっちゃけ俺は戦力にならないだろうし、コハルコさんも戦えるのか分からない。最悪はヒメカさんを救出したら、ハイネに頼んで猛ダッシュで逃げる事になるかもしれない。


「ええ、疑いようがない程に。奴と戦うのは二度目になりますわ……前回はサレアさんが居たからなんとかなったものの……彼女無しでは、とてもじゃありませんわ……」


「サレアさん……?」


「王都最強のSランク冒険者ですの。炎舞姫の二つ名を持っていまして、その名の通り、炎を纏わせて踊りながら戦う方ですわ。恐ろしく強いと評判ですわよ」


 それは、その王都最強をもってしてもグレアコートを倒すまでにはいかなかったって事じゃないのか。


 ……ヤバいかな?いや、ハイネ達ならやってくれる!そんな気がする!


 王都最強がどの程度強いのか知らないが、俺はあの洞窟で、ハイネ達の強さはしっかりと目視した。

 あの糞天使がSランク冒険者と同じ強さを持っていると言ったドラゴンを圧倒する彼女達の強さを。


「ハイネ!お前でグレアコートに勝てそうか!?」


「会ってみなくてはなんとも言い難いが……まぁ、爬虫類さんでなければ余裕であろう!」


「……頼もしい言葉だ」


 グレアコートが爬虫類の要素を持ってないことを祈る。


「それにしても、ほんとにシズクさんですの……?急に変身した時はびっくりしましたわ!」


「それは彼女の名だ。私はハイネ。今はシズクの多重人格とでも思っていてくれ」


 後でコハルコさんにも説明しておこう。

 今はただ、急ぐ。



「主!見つけたぞッ!!」


 ハイネが叫ぶ。見ると、倒れている冒険者らしき女の子と、周りに落ちている沢山の剣、そしてその奥に巨大な何かが立っているのが見えた。

 巨大な何か……おそらくアレがグレアコートだろう。奴の周りの何もない空間が複数歪み、そこから身の丈程の大きな『槍』が顔を出していた。


「随分と粘ったではないか……だが、これで終わりだ……!」


「ヒメカさんッ!!」


 コハルコさんが必死に呼びかけた。

 杭にも見えるその槍は、刺されば一瞬でその命を枯らすだろう。


 二十は超えているだろう槍がヒメカさんに向けて一斉に襲いかかる。


「――ハイネッ!!」


「了解だ!主よッ!!」


 ハイネは俺とコハルコさんをその場に落とし、目で追えない程の速さで駆け出した。めっちゃケツが痛かったけど今は我慢する。


 空気が唸る。見えなくてもハイネが何をしたか分かった。


 無数の斬撃が光となって、ヒメカさんの周りを囲った。


「なッ……!?なんだとッ!?」


 グレアコートは驚愕した。

 誰もが間に合わないと諦めかけた槍の猛攻を、彼女は刹那で叩き斬ってみせたのだ。


「キサマッ!!何者だッ!?」


 突然の乱入にグレアコートは狼狽えていた。そこでやっと、奴の全貌が確認できた。


 巨大な身体に髑髏の顔、漆黒のローブを身に纏っている。

 絶対悪者だ。見るからに魔王軍って感じ。とりあえず爬虫類の要素は持ってないみたいだ。良かった。


「私はアゼルハイミルが一の武人、ハイネだ!主の命により貴様を討つッ!!」


「アゼルハイミル!?ハイネ!?聞かぬ名だ!我が魔王軍四天王の一人、序列四位のグレアコートと知っての狼藉かッ!?」


 ……うん?序列?前情報には聞いてないな。

 序列四位ということは、四天王の中で四番目に強いということだろう。


 なるほど。魔王軍はそうやって位付けをして、強さを分かりやすく見立てているのか……


「……って、四天王で序列四位って最下位じゃねーか!!」


 馬鹿だコイツ!自分で四天王最弱って教えてるよ!


「なっ!なにをいう!?四天王だぞ!?最下位でも強いに決まっているだろう!!」


「……なんかコイツ小者っぽいぞ……ハイネ!ぶん殴ってやれ!」


「了解だ。主よ」


 ハイネは強く地面を蹴り、グレアコートに向かって掛けていく。


 あんましオツムが良くないみたいだし、ハイネに任せておけば大丈夫だろう。俺達はちゃっちゃとヒメカさんを救出するとしよう。


「ぐぬぬッ……!我を馬鹿にしたこと!後悔させてくれるわッ!!」


 グレアコートが先程と同じの槍を無数に召喚する。

 まさかとは思うが、アレしか技がないんじゃないだろうか。


 当然一度防げた槍がハイネに防げない訳もなく、一瞬での細切れ、かつ勢いの乗った拳をグレアコートの腹にめり込ませた。


「バッ!馬鹿なッ!?我の槍がことごとく!?グアァッ!!」


 コイツ、ハイネのパンチを受けて死なないのか!?腐っても魔王軍四天王だ。オツムは悪くても、なんだかんだ強いみたいだ。


「コハルコさん!今のうちに、ヒメカさんを!」


「わ、わかりましたわ!」


 意識のないヒメカさんの身体を二人で担ぐ。その時初めて彼女をしっかりと見た。

 若い子だ。おそらく俺より少し下だろう。

 綺麗に整えられたボブカットは日本人らしく黒色だ。おへそが丸見えの短いシャツに、フードの付いたブラウンのアウターを羽織っている。アウターに合わせたブラウンのホットパンツと膝上まであるニーソックス、靴は黒いブーツ。腰には大きめのウェストポーチを着けていた。ゲームなんかで見る盗賊(シーフ)の格好に見える。そういう職業があるんだろうか。

 それにしても可愛い子だ。こんな美少女を襲おうだなんて許せない。隙を見て逃げてやる。


「させるかぁぁぁぁぁぁあああッ!!」


 グレアコートは腹を抑えながら声を荒げた。

 無数の槍が、今度は俺達の周りで召喚される。


 ――ヤバいッ!!


 と思ったのも一瞬。ハイネが素早く俺達の前に移動し、光の斬撃が周りを覆った。


「おぉっ!ハイネ!助かった!」


「主はヒメカとコハルコを連れて下がっていてくれ!勝てる相手ではあるが、主を守っている余裕はなさそうだ!」


 そうさせて貰おう。あの槍の攻撃はシンプルだが、汎用性が高過ぎる。グレアコートの間合いから出なくちゃハイネが俺達を守りっきりで攻撃に転じることができなくなってしまう。


「グゥ……た、確かに貴様は強い……!おそらく我が今まで会った、誰よりも……だが、我は分かったぞ!貴様、さては魔導兵器(ゴーレム)だな?」


「それがどうした!?」


「ふふふっ……こうするのだッ!!」


 それはグレアコートも分かっていたみたいだった。

 無数の槍が俺だけを目掛けて放たれる。


「へっ!?あ、やべ!」


 同じようにハイネが一瞬で細切れにするが、槍は何度切られようと、数を減らすことなく次々に放たれていった。


「くそぅ。そこまで馬鹿じゃなかったか!」


「ど、どうしますの!?」


 ハイネが守ってくれている内は絶対安全だ。

 先程から見て分かる通り、彼女の力はグレアコートを完全に凌駕している。


 だけど……


「ふはははは!我はこの槍を無限に出すことができるッ!!だが、そこの魔導兵器(ゴーレム)はどうかな?魔導兵器(ゴーレム)である以上、体内に貯めた魔力には必ず限界がある!つまり我は、貴様の魔力が尽きるまで、そこの足手まといと攻めればよい!それだけで貴様は我を攻撃することができん!」


「チッ……」


 その通りだ。それが彼女達の弱点だった。

 グレアコートの間合いが想像以上に広かったのが痛い。これじゃハイネでは奴に一撃すら入れることはできない。


 ミルルに代わって貰うか?さすがにあのアホでも俺達を銃殺はしないだろう。いや、コハルコさんもヒメカさんも居る状況じゃ試すには怖すぎる。これは最終手段だ。


 じゃあなんとかして……グレアコートを欺く隙を作れれば……


「……ん?コハルコさん?何してんの?」


 なんとこの緊迫した状況で、コハルコさんはヒメカさんにキスをしていた。


「ヒメカさんにポーションを飲ませているのですわ。私のポーションなら、身体の傷はすぐに回復しますのよ」


 コハルコさんはハンカチで上品に口を拭きながらそう答えた。

 なるほど。ちょっとびっくりした。

 見ると、ヒメカさんの身体中にあった傷がみるみるうちに癒えていく。意識のなかった彼女の目が、パッと開かれた。

 さすが転移者ボーナススキル。凄い効き目だ。


「……こ、ここは……?」

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