みんなのお姉様登場 2
俺達は王都の大通りを3人で歩いていた。
もう夕方だと言うのに、とんでもない人の数だ。ちょっと油断すると人とぶつかりそうになってしまう。
人間以外にも、身体のどこかしらに動物の特徴を持った獣人、長い耳と男女問わずそのどれもが美しい容姿をしているエルフ、低い身長と恵まれた肉体を持つドワーフなど、色々な人達が歩いている。事前に聞いていた情報通りだ。
通行人だけではなく、馬車もちらほらと通っている。祭りでもやっているのかと思うくらい、出店も多く並んでいた。
笑顔の多い街だ。
こんな街にこれから住めるんだと思うと、更に期待が高まった。
「すみません……彼らが無礼を働いてしまったようですわね……」
「そ、そんな!無礼だなんて!私は魔導兵器ですから、そういう対応になってしまうのは仕方ないかと……私は全然気にしていませんから!」
「いえ、ゴーレムだからという考えは間違っておりますわ!シズクさんは、ちゃんと心がありますもの!」
「いえいえそんな……そう作られているだけですから……」
シズクとコハルコさんはお互いに申し訳なさそうな顔をしながら会話をしていた。
コハルコさんはシズクをだいぶ気に入ったみたいだ。2人が仲良くなれそうで良かった。これから同じ家で住む仲間なんだもんな。
だが、せっかく美女と美少女に挟まれているのに、真ん中に居るはずの俺は蚊帳の外だ。すごくさみしかった。
「コ、コハルコお姉様!」
突然、道行く女性がそんな事を叫んだ。
俺とシズクは同時にコハルコさんを見る。コハルコさんはちょっと困ったように苦笑いをしていた。
「ご機嫌よう。どうかしたのかしら?」
「ご、ご機嫌よう!です!お、お姉様を見かけたので……お話がしたくって……」
「あら、嬉しい事を言って下さいますわ……ですが、今日は先約がございまして……また、次の機会に」
「ご、ごめんなさい!!ありがとうございます!!楽しみにしてます!!」
それだけ言うと、女性は俺とシズクには目もくれずさっさと退散してしまう。
何だったのだろうか。女性はコハルコさんの妹さん?……って感じでもなかったか。
彼女、結構あたふたしてる感じだったし、ほんとは急用でもあったんじゃないだろうか。俺達の為に断ってくれたみたいだけど、大丈夫だったのかな?
シズクも俺と同じ意見だったのか、心配そうにコハルコさんを見つめていた。
「コハルコさん?いいんですか?あの方、少し慌てていたように見えましたが……」
「知らない子ですわ」
……え?なんと?
「ですから、知らない子ですの」
「お姉様って言ってたけど?」
「私をそう呼ぶ人は少なくないですわ……」
「そう呼ばせてるの?」
「ま、まさか!彼女達が勝手に……!慕ってくれてるのは嬉しいのですけれど……」
「へー。ファンクラブでもあったりして」
「…………」
「あるのかよ……」
どうやらコハルコさんは人気者のようだ。
それから施設に向かう間に、コハルコさんは何人もの人に呼び止められていた。
「お姉様!」
「お姉様じゃないですか!ご機嫌よう!」
「コハルコお姉様!本日もお綺麗で……」
「お姉様……素敵……」
「コハルコお姉様だモン!美しいモン!」
「あ〜!お姉様だ!わ〜い!」
「コハルコお姉様!お会いできて光栄です!」
「おぉ……!お姉様じゃありませぬか……!」
「お姉様!好きです!」
とまぁ色々。全員が全員、揃ってコハルコさんをお姉様と呼んでいた。思った以上の人気っぷりだ。ちょっと羨まし……くはない。
「俺もお姉様って呼んだ方がいいのかな……?」
「や、やめて下さいまし!」
おぉう、結構なガチ拒絶だ。
「それにしてもコハルコさんって凄いね。そういえば門番の人達も『あのお方』って呼んでたし、コハルコさんって何者なの?」
「私も気になります!」
シズクも賛同する。コハルコさんは諦めたようにため息をついた。
「私は本当に、ただの転移者ですわよ……昔に少し、王に恩を売ってしまいまして……王が私を過剰に公表したのと、噂が勝手に大きくなっていってしまったお陰で、王都ではちょっとした英雄に祭り上げられてしまいましたの」
なるほど。それで王都中で有名になって、慕われていると。
確かにコハルコさんって、お姉様感強いからなぁー。特に若い女の子なんて尊敬の眼差し向けちゃってるよ。
「へー!凄いじゃん!ちなみに王様に売った恩って?」
「王が患っていた不治の病を治しましたの」
おぅ……!想像以上。
「……それって凄くない?」
「私の転移特典は、少し効き目の良いポーションを作れるEXスキルなのですわ。そのEXスキルで作ったポーションを王に献上しただけですの」
「うん。よくわかった。コハルコさんはこの現状を受け入れるべきだ」
「ご主人様の言う通りだと思います!」
「な、なんでですの!?」
それはコハルコさんがそう呼ばれるべき事をしたからだ。
それからの途中もコハルコさんのファンの人(コハルコ民と呼ぶことにする)からの挨拶は絶え間なく続いた。コハルコさんの意外な一面を見つつ、そんなこんなで俺達はやっと施設へと到着できたのである。
「おー!なんじゃこりゃ!」
「見たことない建物ですね……!」
シズクは見たことないと言うが、当たり前だ。だってこれは、明らかに日本の建物なんだから。
瓦屋根の平屋で、ちょっとした旅館くらいの大きさだ。縁側まである。
「ふふふっ、中はもっと凄いですわよ」
そう言ってコハルコさんは玄関を開ける。中は想像以上だった。
襖の仕切りに畳の部屋、昔ながらの日本の豪邸を彷彿させる作りだ。これは凄い。
「これ凄いなぁ!懐かしい感じがする……!」
「でしょう?転移者の八割はなぜか日本人と言われていますの。それに合わせて建てて頂きましたのよ」
「ええ!?コハルコさんが建てたんですか!?」
「えぇ、まぁ。王からの褒美として……」
「この国が転移者に優しいのって、もしかしてコハルコさんのお陰なんじゃないですか……?」
シズクさんよ。間違いなくその通りだよ。
「コホン……今日はヒメカさんはお仕事ですわね。早めに紹介したかったですが、まぁ、帰って来てからで大丈夫でしょう」
「そのヒメカさんって人がもう一人の?」
「ですわ。彼女は冒険者ですの」
おお!冒険者か!
是非俺も冒険者とやらをやってみたい。丁度冒険者なら、そのヒメカさんに色々教えて貰おうかな!
「コハルコお姉様ッ!!」
突然玄関が開いたと同時に、大声が響いた。
見ると軽装の防具に短剣を腰に差している、冒険者らしき女の子が立っていた。何があったのか、全身ボロボロだ。肩で息をしているし、汗も凄い。走って来たのだろう。彼女がヒメカさんだろうか?
「貴方は……ヒメカさんの……?どうかしましたの?」
どうやら彼女はヒメカさんではないらしい。ヒメカさんの冒険者仲間という所だろうか?
彼女は焦っているのか、切羽詰まる勢いで声を荒げた。
「ヒメカがッ……!!ヒメカが大変なんですッ!!」
「ヒメカさんが……!」
なにやら、ヒメカさんに何かあったみたいだ。俺達ももう他人事じゃない。
慌てる彼女を落ち着かせ、話を聞いた。