転移先で天使に会いました 3
あの糞天使マジで帰りやがった!覚えてろよ!次会うことがあればぎったんぎったんにしてやる。
だが今は糞天使への怒りは後だ。とりあえず置いておく。ドラゴンをどうするかが先だ。幸い、ハイネがドラゴンを食い止めている(愛でている)おかげで一旦危険はなさそうだ。
先ずはハイネには戻って貰って、アゼルムかミルルに代わって貰おう。
「ハイネ!ちょっとまた変身して欲しいんだけど!」
「嫌だ!主はドラゴンを殺す気であろう!?」
当たり前だ。じゃなきゃ俺が死ぬ。
「そんな言ってもだな……コイツ倒さないと、ここから出れないっぽいし……」
入って来た扉はドラゴンの裏側だし、なによりあの糞天使が用意したドラゴンだ。倒さずに通り抜けるなんて、シナリオが許さないだろう。
「ならば私は一生ここに住む」
なんだコイツ!俺のガーディアンしてくれよ!ドラゴンのガーディアンしてどーすんだ!?俺が主人なんだよね?全然言うこと聞いてくれないんだけど……
「あ、ちなみにそのレッドドラゴンは一般的なSランク冒険者が一対一で勝てるかどうかくらいの強さはあるからねー!」
声が響いた。姿は見えないが、間違いなくミミエルの声だ。
一般的なSランク冒険者とやらがどのくらい強いのか分からないが、たぶん糞天使の言い方からしてかなり強いと見ていいだろう。ますます状況が悪い。
「見てんのかよ!?帰って来いよ!!」
「むぅりぃ♪」
……次会ったらぜってー殴るッ!!
「GYAOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
突然ドラゴンが咆哮を上げ、宙に浮いた。心なしかドラゴンは俺を睨んでいるように見える。
まさかハイネとのジャレ合いにシビレを切らして、俺に標的を変えた……!?
ヤバい……!!
ドラゴンは勢いよく俺に向かって急降下する。
加速が早すぎる……!あの巨体でなんてスピードだ!!避けようがない……!
ドラゴンは口を大きく開く。鋭い牙がこれでもかと並んでいた。そのまま俺を食す気だろう。
もう間に合わない……!
動く事すらできなかった。全てを諦めて目を瞑った。
……あぁ、終わった。
どのくらい時間が経っただろうか。一向に痛みは襲って来なかった。まさか痛みすら感じずに死んでしまったのだろうか……
そう思って、ゆっくりと、目を開く……
「主に牙を向けるとは……いくら可愛いドラゴンさんでも、それは許されないぞ!」
目の前にあったのは、ハイネの背中だった。
ハイネはドラゴンのあのスピードの、あの巨体の、あのパワーの突進から一瞬で回り込み、片手でドラゴンの鼻先を止めていた。
これがガーディアン……!ハイネの力か!?
さっきのドラゴンのスピードですら目で追うのがやっとだったのに、ハイネのスピードは少なくともそれ以上だ。俺はこの時、初めて彼女達の常識外の強さの一片を目の当たりにしたのだった。
「す、すげぇ……」
「主ッ!!一旦距離を取るッ!!」
「GYAOO!?」
ハイネは軽くドラゴンを押し返すと同時に、一瞬で俺を担いで跳躍し、ドラゴンから距離を取る。まるで俺が小動物のようだった。
マジで、なんて力だ……!?
ハイネは庇うように俺の前に立ち、軽く腰を落として構える。その姿は先程までの彼女とは別人のようだった。
少しハイネに見惚れてしまった後、ふと自分達が置かれている状況を思い出す。
「お、俺は戦わなくていいのか!?俺には転移特典とかないのか!?」
ハイネにだけ頼ってていいのか……?俺には何もできないのか?
ミミエルは転移した時に色々な補正がかかると言っていた。ならば俺にも、この世界に見合う力みたいなのが現れている可能性もあるのではないだろうか。
「我等の主は魔導兵器の主以外のEXスキルを持つ事が出来ない。この世界に来たばかりならレベルも低いだろう。我等が戦うのは主の力でもある。今は大人しく隠れていてくれ」
EXスキル?レベル??
よく分からないが、今はまだ俺にそんな力はなさそうだ。
「そ、そうか……じゃあドラゴンはハイネが倒してくれるんだな……?」
「それは絶対無理だ!」
……じゃあどーすんだよッ!!
その時だった。ハイネの身体が光り出す……変身をした時と同じ光だ。身体が少し縮み、胸が大きく縮む。緑色のポニーテールから金色のツインテールへと変わって、いや、戻って行く。
「シズクに戻った……?」
変身先はシズクだった。ハイネから戻ったシズクは、申し訳なさそうに俺を見ながらあたふたとしていた。
「ご、ごめんなさいご主人様!私もすっかり忘れていまして……すぐミルルちゃんに代わって貰いますね!」
文句を言う暇もなく、シズクの身体がまた光り出す。胸のハートのブローチが耳障りな高音をけたたましく鳴らす。
ハイネに変わった時とは逆に、シズクの身体が縮み出す。眩しいくらい原色の黄色になった髪は二つの三つ編みおさげに結われる。髪と同じ黄色のアクセントがついたアウターとミニスカート。そして背中にはまたもや黄色いリュックサック。
大きな目をぱちくりとさせて、少女は可愛らしいポーズをとった。それは日本の魔法少女アニメで見たような動きだった。
「やっほー♪初めましてご主人!アゼルハイミルが一の魔導銃士ミルルだよ!よろしくね♪」
「よろしくー……って子供じゃん!?大丈夫か!?」
第一印象はそれだった。ミルルはとても背が低い。小学校低学年くらいの身長しかないんじゃないだろうか。
「もー!ミルルは子供じゃないもん!見ててよご主人!あんなトカゲなんてすぐやっつけちゃうんだから!」
ミルルは頬を膨らませながら、ぷんすか怒っている。その姿が、あの糞天使を思い出して、俺は不安しか覚えなかった。
マジで大丈夫か……?凄くミミエルと同じ匂いがするんだが……名前も似てるし、ちょっとキャラも被ってる気がする。
「お、おう……頑張ってくれ?」
「はいはーい!」
ミルルは軽くスキップをしてドラゴンへと向かって行きながら、ごそごそと背中のリュックサックの中を探る。そこから出したのは彼女の背丈を大きく上回る程大きなガトリングガンだった。
どうやって入ってたんだ?
あのリュックサックは、四次元空間にでも繋がっているのだろうか。
「ミルルの魔導銃をくらえーーっ!!」
ガガガガガガガガッ!!と爆音を鳴らし、ガトリング型の魔導銃が火を噴いた。凄まじい威力だ。圧巻の一言だった。
ミルルは撃つ、撃つ、撃つ。ガトリングガン以外にも、リュックサックからどんどん魔導銃を出し、ひたすらに撃ち続けた。
既にオーバーキルしていた。それでも、ミルルの手が止まる事はない。ミルルはずっと笑顔で、楽しそうに、まるで遊んでるように見えた。
ミルルはもうドラゴンを見ていなかった。ただ適当に、銃を撃つ事を楽しんでいるだけ。武器を手にした子供……そんな言葉が脳裏をよぎった。不思議と俺に弾が向かって来る事はなかったが、洞窟はそうではなかった。
真上に撃たれた弾が、洞窟の一部を落とす。偶然に俺の横をすり抜けた。
「うぉうッ!!危な!ミルルさん!?危ないから!洞窟崩れそう!」
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあーーっ!!」
「やっぱミミエルの同族じゃねーか!?」
駄目だコイツ……!早くなんとかしないと……!
ミルルは俺の声が聞こえていないのか、もしくは無視しているのか、一向に止まる気配がない。このままじゃほんとに洞窟が崩壊してしまうかもしれない。
俺があたふたしていると、またさっきのようにミルルの身体が光り出した。
「続けてごめんなさい〜!!」
シズクだ。ミルルを止める為に身体を入れ替えてくれたみたいだ。しかし……
「……少し出て来るのが遅かったかも……」
洞窟は今にも崩れそうに見えた。ミルルの魔導銃連射はそれ程までの威力を持っていたらしい。さっきから大きめの岩がいくつか落ちている。小さめのは何度か俺に当たっていた。
もうこの洞窟は持たない……早く脱出しなければ!!
「大丈夫ですご主人様!!彼女に任せて下さい!」
そう言ってシズクは3度目の、最後の変身を始めた。
シズクの身体が光り出す。胸のハートのブローチが耳障りな高音をけたたましく鳴らす。
ツインテールの髪が解け、一つとして癖の無い、真っ直ぐな長いストレートヘアーに変わる。髪はとても深い紫の色に染まっていった。体型は殆どそのままに、身長だけが頭一つ分縮む。気怠けな表情。長い睫毛。真っ赤な瞳。肌は日に当たった事が無いのではないかと思ってしまうくらい白く、それと反するかのような真っ黒なドレスを……
「……ん。私は、アゼルハイミルの一人……魔導士、アゼルム……よろしく。マスター」
ゴスロリ服を着ていた。
「よ、よろしく……」
俺は全然、全く、これっぽっちも期待していなかった。だってそうだろう?
圧倒的な腕力を持ってるけど、無類の爬虫類好きのハイネ。
圧倒的な破壊力を持ってるけど、子供っぽくて考え無しのミルル。
きっと彼女、アゼルムもそうだ。
凄い力は持ってるんだろうけど、それを台無しにするような要素があるんじゃないだろうか。
そう思って、すっかり信用を無くしていた訳だ。
自分でなんとかしないと……出口はそんなに遠くない……アゼルムを連れて、急いで戻るか……?いや、ドラゴンはもう居ないし、ハイネに変身して貰ったほうが早い?駄目だ!ドラゴンの死骸を見たハイネが暴れ出しかねない……
そう、考えていたが……
「……え?アレ?ここどこ??」
気がつくと草原に立っていた。眩しい太陽と爽やかな風、懐かしい感覚がした。
隣にはアゼルムが居る。彼女は特に驚く事なく、無表情のまま、俺を見て言った。
「……ん。テレポート……これが、一番早い、から」
それは俺にとって、この世界に来てから初めての良心だったんだ。
そう、ここに本物は居た。
「天使がいた……!」
俺はユキ。
突然異世界に転移してしまった記憶喪失の17歳。
転移先の世界で、天使に会いました。
本物の天使は、爬虫類好きじゃなくて、考え無しでもなくて、もちろん背中に翼が生えている事なんて絶対にない。
彼女の名前はアゼルム。
ゴスロリ服の女の子だ。




