王都の日常 1
「ですから、ゴーレムと魔導兵器は全然別物なんですよぉ!分かりましたか!?」
「いや、全然分からん」
あれから3日が経った、良く晴れた日の午後。俺は施設の自室でシズクからこの世界の常識を習っていた。
基本的な生活面の常識は日本と対して変わらない。なのでその辺は簡単に理解することができた。
元々アゼルムの知識付与っていう魔法で、ある程度は教えて貰っていたからな。楽勝だ。シズク達は何故か日本の常識も知ってるから、その違いで説明してくれたもの助かった。
問題は歴史、生物、そして概念だ。
例えば、この世界には魔法がある。
魔法を使う為には、体内に貯まる魔力というエネルギーを変換する必要があると言う。これはゲームや漫画でよくある設定だったのでなんとなく分かるが、いざやれと言われても全くできない。得手不得手はあるが一応誰でもできはするそうだ。
魔法の一つに、ゴーレム召喚というものがある。魔力で人の身体を作り、自分の護衛として使ったり、身の回りの世話をさせたりする魔法なのだが、これがシズク達とは全くの別物だという事実を今更になって教えられていた。
「いいですかご主人様?一般的なゴーレムと違って、私達魔導兵器は創られているんです!制作ではなく、創造です!これはEXスキル、創造でしか成し得ません。だから魔導兵器は伝説上の兵器と言われているんです!」
「作り方が違うのは分かったけど、結局同じ魔法で生まれたんだろ?そこに違いはあるのか?」
「いい質問です!ゴーレムと私達の違いを説明しましょう!」
シズクはドヤ顔で鼻息を荒げた。
「まず一番に、私達はゴーレムと違って活動制限がありません。ただのゴーレムは良くて主人の半径300メートルまでしか行動できないのです!これはゴーレムが自分の主人から常に魔力を吸っているからです!」
「なるほどなー。んで、シズク達は?」
「私達は体内に人間と同じ魔力器があります。普段はそこに貯めて必要な分だけそこから使うので、主人から遠く離れてもなんの問題もありません!しかも、ゴーレムと違って魔力切れになっても停止するだけで、消滅はしません!私達は魔力で構成されている訳ではなく、魔力で創った実体がある……と言えば分かりやすいですかね?」
「なんとなく分かった。続けて」
「はい!そしてなんと言っても、私達は強いです!とくに私達アゼルハイミルは伝説の魔導兵器の中でもさらに伝説で、神を殺す為に創られたと言われています!」
「なんか急に物騒だな……それ、誰が言ってるの?」
「私達を創った前のマスターです」
「じゃあ自称じゃねぇか」
いったい前のマスターはどんな奴だったんだろうか。確か、転移者って言ってたっけ。じゃあ転移者ボーナスに創造があって、シズク達を創って、そしてマスターが日本人だったからシズク達は日本の文化にもある程度の知識がある?ってことだろうか。
うーん。何か引っかかる気がするんだよなぁ。
前のマスターがどうこうじゃなくて、もっと、根本的な……
「せんぱーい?入るよー?」
「……ヒメカ?どうぞー」
ヒメカの声がした。ヒメカは襖を開けると、可愛らしい笑顔を向けて来る。手にはおぼんを持っていた。何か差し入れを持ってきてくれたみたいだ。
「先輩勉強お疲れ様。はいこれ、クッキー作ったから食べてね♪」
「おー!サンキュー!」
「はい、お茶も♪」
「悪いなー」
「はい、ティッシュ。下は畳だからあんまりこぼさないでね♪」
「うぃーす」
お前はオカンか。いたせりつくせりである。
「ヒメカちゃんすみません!わざわざありがとうございます!」
「いいのよシズク。私が好きでやってるの。先輩のお世話は大変でしょ?なんなら私が変わろうか?」
「いえいえそんな!私も好きでやってますので、ご主人様のお世話は私の生きがいです!」
「そう?気が変わったらいつでも言ってね?」
「はい。お気遣いありがとうございます!」
こいつらどんだけ世話好きなの?
めっちゃ有り難いんだけど、このままじゃほんとにヒモ一直線なんだが。
なんとしてもそれは回避しなければならない……よし、とりあえず今はスルー。
「先輩?あんまりシズクにばっかり頼ってちゃ駄目だよ?」
うっ、痛いとこを突かれた。
確かに今現在、俺は無職だ。冒険者を始める前に、この世界の常識なんかの勉強中である。
コハルコさんにお金を借りて、シズクが仕事の手伝いをしながら返している。ポーションを売っている雑貨屋の店員だ。
俺はそのおかげでなんとかご飯を食べている。ちなみに俺は初日でクビになった。
「分かってるよ……ほ、ほら!これから冒険者も始めるんだ!そしたら俺だって、立派にお金を稼いでみせるさ!」
ヒメカは疑いの目で俺を見た。信用なさすぎて泣ける。
「ふーん……あ、そうだ。冒険者をするなら冒険者のことを私が教えてあげるよ!」
「おお!頼む」
ヒメカは俺の隣に腰掛ける。いい匂いがした。お皿に乗った自分のクッキーを一つ頬張ると、話しを始めた。
「えーと、まずはランク制度からかな。冒険者にはランクがあるのって知ってる?」
「ちょいちょいSランク冒険者ってワードは聞くな」
コハルコさんの知り合いの……確か、サレアさん?だっけか?王都最強とか言ってたな。
「そうそれ。Sランクは一番上のランクね。その下から順に、A、B、C、D、E、Fまでのランクがあるの。最初は絶対Fからね。実力とか貢献度で冒険者ギルドが判断してランクを上げるから、とくに試験とかはないよ」
「へー。大変そうだな……ちなみにヒメカは?」
「Bだよ」
……へ?B?上から3つ目?ヒメカが?強いの?マジで?
「……いやいや。今は冒険者ランクの話しをしてるんだぞ?胸の話しじゃ……」
「先輩?怒るよ?」
「すみませんでした」
ヒメカさん怖ぇ〜……あんまり怒らせないようにしないと……
「続けるよ?冒険者は自由な仕事だから、特にいつ働かないといけないってのは決まってないの。いつでも、自分の好きな時に、自分にあった仕事をクエストボードから選んで仕事できるの」
「クエストボード?」
「その時出てる依頼が貼ってあるボードね。内容の他に、報酬と適正ランクが乗ってるから目安にすればいいよ。ランクが低い人が適正ランクの高い仕事をするのは、一応問題ないけど、死んでもギルドは責任取らないし、あんまり失敗が続くと冒険者資格の剥奪もあるから注意してね」
あくまで自由。だから責任は取らない。でも失敗が続くとギルドの信用問題になるから許さないぞって感じか。
「なるほどなぁ。自由とはよく言ったもんだ」
「そうだね。でも、冒険者にも一つだけ強制の義務があるの」
「義務?破ったら資格剥奪?」
これは聞いとかないと。知らずに剥奪とかたまったもんじゃない。
「うん。正当な理由がない限りね。緊急クエストっていうクエストがあって、主にスタンピート……魔物の大量発生ね。それで街を守らなきゃいけない時とかにギルドから直接依頼が出るの。その街に在住してる冒険者は強制参加が義務づけられてるってわけ」
「ふーん。でも、それで死んじゃったら元も子もなくない?」
あんまり無茶言われるくらいなら逃げる自信があるな。
「ランクで仕事の割り振りはさせるから、そんなことは滅多にないかな?ギルドもプロだから、私達冒険者の実力はちゃんと把握してるみたいだよ。まぁ、先輩はシズクがいるから大丈夫でしょ」
「シズク?シズクも冒険者にしないといけないのか?」
「ううん。シズクはゴーレムでしょ?ゴーレム使いの高ランク冒険者はたまーに居るけど、実はその人自身の実力は殆ど一般人並だよ。それはゴーレムを使うことがその人の実力だって認められてる証拠でしょ?だから先輩も、シズク達を使って冒険者の仕事をするのは、なんにも問題ないよ」
なんと。じゃあシズクが働くということが、冒険者ギルド的には俺が働いていることになると?
いやいや、待て。俺はシズクに頼りっきりにならないように、頑張っていこうと決めたばかりじゃないか。
……でも何の力もない俺が、シズク無しで冒険者なんかやっていけるのか……?
「ご主人様!任せて下さいッ!ふんすっ!」
シズクはやる気満々だった。
もし彼女が出てしまうとすると、俺はいったい何ができるのだろうか。
「俺はやっぱりヒモなのか……?」
結局俺はシズク達に頼るしかないのかもしれない。




