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それいけ!ガーディアンガールズ  作者: 前田ショーゴ
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四天王蹴散らします 4

 魔導兵器(ゴーレム)とは、己の主を守護する為に生まれた武器……ガーディアンだ。

 神をも凌駕すると言われている圧倒的な力を持ち、誰が何の為に作ったのかも分からない、伝説上の兵器とされている。

 実際に存在することは、一部の生命体しか知り得ていない。しかし、魔導兵器(ゴーレム)を耳にしたことのある全ての者が、一つのその常識だけは必ずと言っていい程知っていた。


 ――魔導兵器(ゴーレム)は己の主が死ぬと、その動きを止める。


「ふはははは!魔導兵器(ゴーレム)の主は死んだッ!!これで貴様はオモチャも同然!後は他の転移者諸共、串刺しにしてやるのみよ!」


 グレアコートは高らかに笑う。

 勝利を確信していた。いや、彼にとって、もう勝利していたと言っても過言ではない。

 ハイネはだらりと刀を下ろし、俯いている。その表情は伺えない。きっと、既に目を閉じて、スリープモードに入っているのだろう。


 ……そう、グレアコートは思っていることだろう。


「それがキサマの遺言か……?」


「な、何!?」


 ハイネがゆっくりと足を進める。

 刀を真横に向ける。得体の知れない何かが、その刀には宿っているように見えた。

 ハイネは憤怒していた。

 己の主が刺された。これはガーディアンにとって、決して許されない愚行である。

 それが例え、主自身の命だとしてもだ。


「何故!?何故だッ!?何故動ける!?貴様の主は確実に殺したはずだ!!」


「主の言う通りだ。キサマは少し、オツムが足りないな……私が動いていると言うことは、考えればすぐに分かることだろう……」


 グレアコートは狼狽えていた。

 何を考える訳でもなく、ただひたすらに、ハイネに向けて槍を召喚する。

 ハイネは何事も無く槍を粉砕する。

 もはや細切れですらない。

 もはや斬撃すら見えない。

 ただ歩いているだけにしか見えなかった。

 しかし確実に、ハイネは槍を消していた。


「もういい……キサマに言っても分からないだろうな……」


 ハイネの姿がスッと消える。

 一瞬での跳躍。誰の目にも追うことは許されない。


「キサマには主以上の痛みを味わって貰う……」


 気がつくと、ハイネはグレアコートの目の前に居た。

 既に彼女の必中の間合いに入っている。

 刀が唸る。

 得体の知れない何かがグレアコートに纏わりつく。

 鋭い眼光は、何人たりとも彼女の前で動くことを許されない。

 世界が止まる。

 ハイネの怒り。

 その一振りには全てが籠っていた。

 名付けるとすれば、そう……



 ――阿修羅



「死ね」


 グレアコートの身体が、左肩から斜めに両断される。


「こ、この我が……転移者なんぞに……」


 グレアコートの身体が消える。

 とても呆気ない最後だった。

 グレアコートは決して許されないことをした。

 たとえそれが、()に躍らされた結果だったとしてもだ。




「は〜……もうお腹タプタプ……限界まで飲んだわ……」


「もぅ!ユキさんは無茶苦茶ですわ!」


 倒れる俺にコハルコさんは少し怒っているように、でも安心したように声をかけた。


「ユキさんッ!!」


「おぉうっ!」


 突然、ヒメカさんが俺に飛びついてくる。

 いや、嬉しいけど。美少女に抱き付かれるのは嬉しいけど……今はやめて下さい。口からポーションが飛び出しそうです。


「ありがとうございます……!ありがとうございます……!良かったです……!無事で……良かったです……」


 ヒメカさんは泣いていた。

 こんな今日会ったばかりの野郎にここまで感謝するとは……ヒメカさんは優しい女の子だな。


 ふと自然に、彼女の頭を撫でていた。

 ヒメカさんは嬉しそうに顔を緩めた。可愛い。


 もう分かっていると思うが、俺の作戦はこうだ。

 まず最初に見せた傘帽子でグレアコートの槍から身を守る。グレアコートが本物の馬鹿だったらここであっさり終わっていた。

 でもそれはないだろう。戦いに関しては、アイツはそこまで馬鹿じゃない。

 だからあの槍の汎用性を、逆手に取ってやろうと思ったんだ。

 上半身を上から囲めば、必然的に奴は下から槍を出して攻撃してくる。俺がわざわざ傘帽子で上半身を覆ったのは、それを誘うのと、手に持った大量の()()()()()を隠す為だ。

 コハルコさんの転移者ボーナススキルのポーションは、どんな傷でも一瞬で回復する。ヒメカさんの傷を治したのと、王様の不治の病を治した話でそう信じた。

 後は槍が消えるのを待つだけ。俺達が来る前から、この場には一本たりとも槍は落ちていなかった。奴の攻撃手段は槍しかないのにだ。

 つまり槍は攻撃し終わった後、もしくは動きが止まった後に消滅する。そこまでポーションで命を繋げば俺は死なない。そう睨んだのだ。


「まぁ上手くいったんだ。ヒメカさん、そう泣くなよ……これから冒険者を教わる先輩がそんなんじゃ、俺が不安になっちゃうなぁー」


 ヒメカさんは指で涙を拭い、俺を真っ直ぐに見つめる。


「ユキさん。ユキさんって何歳ですか?」


「え?……17だけど?」


「私は15です!歳的にユキさんが先輩です!先輩はユキさんです!」


 お、おう……先輩って言ったのめっちゃ気にしてるし……


「それから私のことはヒメカと!他人行儀は無しで!これから一緒に暮らす仲間なんでしょ?……ね?先輩♪」


 その時の彼女の笑顔は、さっきまでの腹の痛みなんか忘れさせてくれる程、俺の心に深く残った。


「あぁ、分かったよ。ヒメカ」




 俺達は帰路についていた。

 行きのようにハイネに担がれてはいない。ポーションで傷は治せても、疲労までは消すことができないのだ。

 ゆっくりと、時間をかけて……これからの仲間を、お互いを知るように話しながら帰った。


「それはそうと主よ……気付いてはいるか?」


 俺達が親睦を深めている途中、ハイネはふと思い出したように口を開いた。


「グレアコートのことか?薄々とは思ってたけど、まさか……」


「そのまさかだろうな」


 一つ疑問に思っているところがあった。

 魔族という種族のことは良く知らないが、種族と呼ばれるからには、俺達と同じ生物であるはずだ。

 いくら髑髏の顔をしていても、でかい身体でも、生物なら死ぬ時に『消える』ってのはちょっとおかしいんじゃないか。

 そういう世界なのかと割り切って考えないようにしていたが、ハイネの言い分からしておそらく、グレアコートは生きているのかもしれない。

 『消える』という魔法を、俺はよく知っていたから……


「…………?」


 少し考えていると、そんな俺をコハルコさんとヒメカはキョトンとした顔で見ていた。

 ちなみに、疲労で上手く歩けないヒメカには唯一の男である俺が肩を貸している。役得。役得。


「先輩?どうかしたの?」


「いや、グレアコートはもしかしたら生きてるかもなって話」


「ふーん。そうなんだ。へー……」


 あれ?意外と反応が薄いな。

 もっとビックリすると思ったのに。

 まぁとりあえずの危機は去った訳だし、奴の攻略もだいたい分かった。次来るようなら、今度は圧倒してやるから大丈夫だろう(ハイネが)。

 たぶんヒメカも同じ意見なんだ。


「……って、ええぇッ!?せ、先輩!?それって!?なんで!?」


「み、耳元はやめて!キーンってなるからッ!」


「あ、すみません」


 コホン。気を取り直して説明しよう。


「グレアコートは最後に消えただろ?あれはたぶん、死んだんじゃなくて逃げたんだよ。テレポートでな」


「テレポート?テレポートって、あの?」


「イメージ通りだと思うよ。最初は魔族って死んだら消えるんだなーって思ってたけど、どうやら違うみたいだ」


「た、確かに……そういう話は聞きませんわね……」


 コハルコさんも納得とまではいかないが、矛盾のようなものを感じたみたいだ。ここまで来れば、グレアコートは十中八九生きているとみていいだろう。


 二人の空気が沈む。あれだけ苦戦したグレアコートが生きている。特にヒメカにとっては、気が休まらないことだろう。


 ――よし!ここは俺が励ましてあげるべきだな。


「まぁ大丈夫だ!だって、今日から俺達は仲間だろ?」


 二人は顔を上げる。


「一度勝てた相手だ!もし次が来ても協力すればまた勝てるさ!ってか俺はそういう時に助けて貰う為に今日頑張ったんだ!助けて貰わないと俺が困るッ!!」


 てきとーな暴論だが、これが俺だ。

 二人は少しポカンとした後、小さく吹き出した。


「ぷっ……そうですわね。ユキさん、何もできないのですからね」


「うぐっ」


「主は何もする必要はない。なんならこれから魔族領に行って私がとどめを刺して来ようか?」


「そこまでやっちゃうと、なんか可哀想……」


「先輩。なんかヒモみたいだね!」


「おぅふ」


 酷い言われようだ。異世界つれーわ。


 なんにせよ、これでやっと、俺の異世界生活が始まる訳だ。長かった。マジで。

 洞窟で糞天使に会って、ゴーレムが従者になって、今日出会ったばかりとは思えない仲間もできた。

 ドタバタの急展開だったけど、きっとここまでが俺のプロローグだ。これから色んなことが始まるんだ。

 コハルコさんのポーションと、ヒメカの物資魔法、それから俺のゴーレムが居れば、なんだってやれる……そんな気がした。


 ……ん?あれ……?これじゃ俺、マジでヒモじゃね?

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