神さまのサラダ
「さびしいな」今日も一人、神さまはつぶやきます。
下界では、人間たちが毎日のように、汗水たらして野菜を育てています。
神さまには、みんなが仲良く、楽しそうに暮らしているように見えました。
野菜作りに明け暮れた人間たちが、苦労を語りながら眠りについた夜のこと。
「ずるいよ、ぼくだけが一人だなんて。みんなめちゃくちゃになればいい!」
人間たちの生活に、嫉妬をしていた神さまは、彼らを水人間と油人間に変えました。
変わり果てた人間たち。彼らは次の日から、お互いの悪いところばかりが見えるように……。
はじめは罵り合いに、取っ組み合いでしたが、今では歯止めのきかない戦争です。
殺し合いに明け暮れる人間たち。次々に死に、残りわずか。満たされた気持ちになる神さま。
そんなときでした。
神さまのお腹が鳴ったのは。
それはあまりに大きな音だったため、水人間と油人間たちは驚きました。
武器を持った手を止めて、みんなでいっせいに空を見上げます。
そんな彼らと、目が合った気がした神さま。「みんなはじめまして」とあいさつをします。
けれど神さまの言葉はふるえていました。自分が殺されるかもしれないと思ったのです。
彼らから目を逸らした神さまは、自分が間違っていたことに気づきました。
だから、みんなに争いをやめてほしい。仲が良かった頃に戻ってほしい。
その一心で、神さまは水人間と油人間を、かき混ぜました。
混ざり合うことはありませんが、その大きすぎる手は、もう後には引けません。
気づけば水人間も油人間も、影も形もなく、どろどろになっていました。
お腹が空いていた神さまは、ドレッシングみたいなそれを、彼らが作った野菜にかけて食べました。
彼らが流した汗、涙のおかげでしょうか、「おいしい」と神さまはつぶやきます。
どこからか「よかった、よかった」と笑い声が聞こえます。人間たちの声です。
それをどこか不気味に思いながら、神さまは一人でサラダを食べています。
読んでもらえて、嬉しいです。