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第5話 魔力養成学園『イドゥナシーロ』

 僕はミランに連れられて、学園の門をくぐる。入り口に学園名らしきものがあったけど、魔界の文字らしくまったく読めなかった。

 青々とした芝生や木々が多い広々とした敷地でその中に校舎がいくつか散見している。奥にはコロシアムのような大きな建造物も見える。僕らは校舎までの石畳の道を歩いている。


「ここは?」


「この国唯一の魔力養成学園『イドゥナシーロ』よ」とミランは自慢気に応えた。


「魔力養成学園?」

「そうよ、簡単に言えば魔力の使い方を学ぶところね。強大な魔力があっても魔法が使えなかったり、制御できなきゃ意味ないでしょ」

「そうなんだ。ところで気になってたんだけど、僕、魔界の文字が読めないのになんで話せるの?」

「あんたの右耳にあるピアスのおかげよ」


 ピアス!? 僕は右の耳たぶに触れてみる。

 透明の丸い小さなものが耳たぶに存在していた。いつのまにこんなものが!?


「そのピアスには魔気を含んだ魔石の結晶が内蔵されていて魔力に反応する変聴機なの。あたしが話した言葉が人間界の言葉になって聞こえているはずよ」

「な、なるほど」

「あたし達悪魔は人間の歴史も学ぶし、言葉も習うわ。だから幼いコ以外は人間界の言葉が理解できるのよ」

「悪魔って賢いんだね」

「う~ん、人間界に興味がない悪魔は勉強した人間界の言葉を忘れる人もいるけどね。だからそのピアスみたいなものが売られているのよ」


 そういうことか。


「エイジアのテレビ番組にも人間界の番組があるの、といっても人間界の様子を観察するようなだけの番組だけど……でも、そこからファッションであったり、食べ物であったり、人間界のトレンドを取り入れたりもしているの」

「でも、どうやって撮影しているの? 悪魔は人間界では暮らせないんだよね」

「人間が宇宙を観察するように衛星を飛ばしてるのと同じよ。魔力を持たない人間には見えないカメラを上空に飛ばしてるの。悪魔は魔気がない人間界には基本的に直接行けないからね」

「すごいね。魔界の技術って」

「人間の科学の進歩もすごいわよ。このスマホも人間界のものを真似して作られたものよ。魔力がないと、このスマホも扱えないけど……悪魔は魔石の結晶を使ってそのピアスとかスマホのような便利な物を生み出しているの。人間と違うのは悪魔には魔力があるってことね」

「じゃあ、あれもそう?」


 小学生くらいの子供たちが広場の上空を滑空している。授業の一環だろうか。


「そうね。あれは魔石の一種、浮遊石の結晶に魔力を込めて飛んでいるのよ。あたしの靴にもあんたの靴にも仕込まれているわよ。魔界の靴には大体仕込まれているわ」

「じゃあ、僕も魔力を靴に込めたら飛べるの?」

「うん、そうだけど」


 スゲーぜ魔力! 興味本位で僕は少しだけ尻尾に魔力を集中するように念じてみた。

 尻尾が熱を帯び始めた。次に足に魔力が行くように念じる。すると、フワッとカラダが浮いた。


「ちょっと、あんたなにしてんのよ!」


 血相を変えて、慌てるミラン。


「すごいよ、ミラン。僕、浮いてるよ!」

「ちょっと、やめなさい!」

「えっ、なんで!?」


 そう言ってるうちにみるみる宙に昇る僕。 

 あれ!? どうやって降りるんだ、と焦った矢先、


「うわあああああ!」


 すさまじいスピードになり宙を無作為に飛び回る。あるアニメの主人公が初めてササコプターを使ったときの映像が頭に浮かぶ。


 やばい! この速度で硬い所にぶつかったら死ぬかも!?


「わわわわわあああ!」


 僕は恥ずかしいほど大きな声で喚いた。

 次の瞬間、バフ! なにか心地良い柔らかなものに激突した。


「ほら、ゆっくり尻尾から魔力を抜いて」


 聞こえてきたのはミランの優しい声だ。

どうやら彼女が僕を受け止めてくれたらしい。しかも、ふくよかな胸で。

 なんだ、さっきまでのピンチから一転、この至福の時は……。僕らはゆるりと地面に降りたった。

 ミランは僕を突き放した。その顔は恥ずかしそうに赤らめている。


「もう! だから言ったでしょ! まだ魔力の制御ができないんだから! ヘタしたら死ぬわよ!」

「ご、ごめん」

「なんで1日で2回も胸の感触を味わせなきゃなんないのよ。そういうのはもっとゆっくりで―――」


 か細くなっていくミランの言葉の語尾の方は聞き取れなかった。


「ごめん。最後なんて言ったの?」

「ななななんでもないわよ! バカ!」


 ミランはその白くて綺麗な頬を紅潮させた。なんて言ったかすごく気になる。


「早く行くわよ!」

「うん」


 僕は頷いて、怒気を含んだ口調のミランのあとに続いた。


 校舎に入り、一階の廊下を進み、急に彼女は立ち止まる。


「一年の教室はここよ」


 ミランはそう言って、なりふり構わず教室の扉に手をかける。


「ま、待って! 今、授業中じゃないの!?」

「いいのよ。もう話は通してあるから」


 ガラッと、勢いよく扉を開けた。


「お疲れ様、みんな」

「あっ、ミランだ!」

「久しぶり~ミランちゃん!」

「元気そうだなミラン」


 そのような声が飛び交い、ざわつく教室。

「そのコなのねぇ」とOLのようなスーツに白衣を羽織った女の人が言った。


「はい、リエラ先生! しっかり鍛えてやってください」


 この人が先生!? なにやら妖艶な雰囲気をひしひしと感じる大人女子だ。髪も艶やかな黒のロングで口元のほくろとかけているメガネの奥にある大きなタレ目に色気を感じる。


「ほら、アレル自己紹介して」

「えっと、最近、悪魔になりました。アレルと言います」


 なぜか教室中がミラン登場時よりもざわつく。


「そいつがレベルレッド様に認められた元人間か」


 右側の一番後ろの席の男が声を張り上げた。見ためはカラダも大きく顔もいかつい。極め付けはスキンヘッド! 僧侶でないところは口調の荒さからわかる。

 人間界でいうところの不良という人種が一番当てはまる。できればお近づきになりたくないタイプだ。


「そうよ、ローマン。なにか言いたげね」

「どれほどの魔力か一度手合わせしてほしいぜ」


 そう言うと、ローマンは邪悪ともいうべき笑みを口元にニヤリと浮かべた。


「ええ、いいわよ」


 あっさり受け入れるミラン。

 えっ、なに、この展開!? 手合わせるのって僕だよね!? 内心焦りまくる僕。 


「えっ、いいのか!?」


 ローマンも目を丸くし、驚いた表情をした。


「ええ、いいわよ」


 よくないよ! なんで勝手に引き受けてるの? 君は僕のマネージャーなんですか! と心の中で叫び、視線を飛ばし、無理ということを訴えるがミランはまったく気づかない。 


「よほど自信があるんだなミラン、1年前の俺とは違うとこを見せてやる。そいつがギタギタにされても文句言うなよ!」


 自尊心が傷つけられたのか、ローマンの口調が怒りを帯びている。

「はいはい」とミランはそれを軽くいなした。


「では、みんな今から特別授業で~す!  闘魔館に移動しま~す」


 先生がイベント事でもあるように楽しそうに言った。


「ちょ、ちょっと待って! 普通先生なら止めるとこなんじゃ……」


 僕は焦燥しきった顔で訴えた。


「だって先生もアレルくんの魔力にぃ~興味あるんだもん。ミランちゃんのお墨付きだしぃ~」


 最後の砦もあっさりと陥落した。そうこうしているうちに20人ほどの生徒が教室をぞろぞろと出ていく。

 ダメだ、もう手遅れだ。


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