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第58話 御堂テシマの最期

 嫌な予感が足元から粟立ち、僕は後ろに飛んで距離を取った。


「テシマ、お前はこうなる為に存在していたんだよ」

「バル……サ様……」

「馬鹿だな。お前を殺したいほど憎んでいる相手がそんな条件飲むわけないじゃないか。ましてや、彼の方が我々を八つ裂きにできる程の力があるというのに」


 堕天使は蔑みを帯びた冷徹な視線をテシマに浴びせる。


「だから、私はやられる前に吸収するのだ。お前に宿った力を……」

「吸……収……」

「ああ、お前は万が一の為の保険であり、良き部下、いや良きパートナーだったよ」

「……な、なにを……ぐっ!」


 バルサロッサは尻尾に力を込めた。


「こいつが見つかったのはアレルくん、君のおかげだ」

「僕のおかげ?……なにを言ってるんだ」

「私はある国のレベルレッドと戦って、深いダメージを負い、これでは魔界征服は難しいと思った。そんな時、頭の片隅に残っていた天界の古い文献を思い出したのだ。それには堕天使は自分の魔力を注ぎ込んだ元人間の悪魔から絶大なる魔力を得ることができると記されていたのだよ。私は悪魔にする人間を探す為に人間界を観察していた。そんなある日、人間界でパピヨンを偶然見つけた。これには驚いたよ、悪魔は基本的には人間界には干渉しないからね。私はそれが気になり、人間界に出向いた。彼女の目的は君だったようだが……その時だ、私が君に殺されかけていたテシマを見つけたのは」


 バルサロッサは不気味な笑みを浮かべ、続ける。


「テシマは絶望していた。こいつは君とは違い、生きたいのに死んでしまうかもしれない、死への恐怖に絶望していたのだよ。私はテシマの生への執着で歪んだ顔を見て、こいつだと思った。なぜなら、君も知っての通り、絶望していなければ悪魔にはできないからね。テシマなら私の望む強力な魔力を宿した悪魔になるかもしれないと感じたのだよ」

「お前はその為に御堂を悪魔に……」

「ああ、そうだよ。今まで良き右腕として働いてくれたがね……ふふ」


 バルサロッサは鼻で笑い、気を吐く。


「ハアア!」


 突っ伏す御堂テシマは、呼応するが如く、全身を断末魔とも呼ぶべき苦しみの叫び声を上げる。


「ぐががががががぁががががぁぁぁぁぁぁぁ」


 殺そうとした相手とはいえ、聞くに耐えない叫び声が辺り一面に響き渡る。

 止むと同時に、御堂は電池切れを起こした人形のようにピクリとも動かなくなった。それと引き換えにバルサロッサから禍々しい紫の輝きは消えた。

 辺りは静まり返る。

 そして、そのマッドサイエンティストは、まるで自分の力を確かめるように手を何度か握りしめ、

「くっくっく、素晴らしい」と狡猾な笑みをこぼした。


 見た目はなにも変わっていないように見えるが、不気味さは数段増したように思える。まるで嵐の前の静けさのように。


「さて、今度は私から尋ねよう。アレルくん、私の部下になる気はありませんか?」


 考えるまでもない。リンが守ろうとした世界を、僕が守りたい世界をバルサロッサには渡さない。


「リンが守ろうとしたこの世界を守るためにも僕はお前には絶対に屈さない」


 僕の即答に奴は残念そうな表情を浮かべ、


「では、仕方ないですね」


白夜による薄暗さの中、クラシカルの王は見たこともないオーラと尻尾の色を浮かび上がらせた。

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