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第53話 蘇る記憶

「それぐらいにしておけ、お前達」


バルサロッサが部下二人を制して、


「ということだ。お前達の頼りの綱のにしていた天使が寝返ったのだ。今頃、両国とも外と内から攻められ、時期に落ちるだろう。唯一、救うことができるとしたらリンクしている私を倒すことだけだが、それは万に一つも叶うまい。だからパピヨン、わが軍門に降り、これから天界に攻める私達に手を貸さないか?」


 ミランはこちらをちらっと見て、小声で囁く。


「ノーファ、ルンを連れて逃げて」

「そんなことはできない」

「生きるのよ。生きればいつか再起を図れるわ」

「それならみんなで」


 ミランは首を横に振った。


「一緒に逃げても、奴らに追われたら、全員やられるのが目に見えているわ。奴らを足止めできるのはあたししかいない」


 ノーファは苦悩の表情を露わにする。


「アレルは?」

「アレルはあたしが責任を持って必ず守ってみせるわ。今のダメージを負っているアレルでは逃げるのもままならないわ。かといって、ノーファが二人を守りながら飛ぶのはリスクがありすぎる。心配しないで、我に秘策ありよ!  必ず離脱して! あとを追うから 」


 ミランの分析通りだった。僕は過呼吸の後遺症とエルナに受けたダメージで、悔しいがいまだにまともに動けそうになかった。こんな時に役に立てないなんて……いや、まだ僕には出来ることがある。


「頼んだわよ、ノーファ」


 ノーファは歯をくいしばり頷くと、魔装してルンを抱える。


「こそこそとなにをしようとしている?」とテシマがニヤリと言う。

「バルサロッサ! あんたの勧誘は死んでもお断りよ! あたしがすべてを諦めたら、国のみんなや今まで戦って命を落とした人達に顔向けできないわ! さあ行ってノーファ!」


 ノーファはルンを抱えて飛翔した。


「逃がすかよ!」


 テシマがそう吐き捨てて、追おうとするが、


「地獄の炎斬ヘルスパーダ!」


 ミランが黒い炎の斬撃を飛ばした。テシマは当たる寸前で魔剣で弾く。


「くっ! 危ねぇ!」

黒蝶炎舞弾バタフライバレット!」


 漆黒の大きな蝶が、炎を撒き散らしながら奴らめがけて羽ばたく。

 しかし、瞬く間に消された。奴らの冷気魔法だ。


「くっ! さすがにレッドクラスが三人もいると簡単に消されるわね」

「お前達、追うのよぉ!」


 ベルリッタが残存する兵士達に命令した。

 レベルブルーの兵士達は、ノーファ達が飛んでいった方向に次々と飛翔した。


「ミラン……」

「大丈夫よアレル、兵士相手ならノーファなら逃げ切れるわ」


 この場に残っている敵は、バルサロッサ、テシマ、ベルリッタ、そして操られているエルナのみになった。


「パピヨン……残念だよ。怜悧な選択をしなかったのは……」


 クラシカルの王は少し悲しげな表情をしたが、その瞳は恐ろしく鋭利な冷たさを帯びていた。


「はっはっはっ! 無駄なことをしやがって! 雑魚二人を逃した所で、あいつらにはもう帰る場所もねぇつーの!」


 テシマが叫んだ。


「生きることに意味があるのよ!」

「はあ!?  じゃあ、そのためにお前はここで死んでもいいのか!?」

「あたしはみんなを守れるならなんだってするわ! でも、あんた達には屈しない!」

「……そうか、ならお望み通り殺すか、奴隷にでもしてやるよ! 神月、お前はその女のあと、人間だった時のようにまたたっぷりと遊んでやるよ」


 僕の脳裏にあの頃の恐怖がよみがえっていく。心の奥底に沈み込んだなおぞましいドス黒い物をゆっくりと引き揚げる作業のように。

 ゆっくりとゆっくりと……イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダクルナクルナクルナクルナクルナクルナ! 

 それは僕にとって死ぬよりも辛いパンドラの箱。

 その時、小刻みに震える僕の手を優しくミランが握った。


「大丈夫」


 ミランはそう言うと、目の前に手をかざした。その先に真っ白な空間が見える。それはミランの空間魔法だった。

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