第45話 決戦前夜
ドラゴンが過ぎ去り、ミランは気を張るように辺りを見渡す。
「もうここは完全なる奴らのテリトリー、そして…」
北の方角に指をさし、
「あそこに見えるのが、カンプノ城よ」
茜色一色に染まる平原。そんな幻想的な光景の奥にまだうっすらとだが、城らしき建物が見えた。
遠くからでもわかるバルサロッサの居城は外壁自体がどす黒い色をしており、不気味さを異様なほど放っていた。
「このクラシコ平原からは飛んで行くわ」
ミランはそう言うと、何かを察知したように急に空を見上げた。僕も同じように目をやる。
なんだあれ!?
一羽の黒い大きな鳥が急降下する。
ミランが腕を前に差し出すと、それが鳥の着陸場になった。
「ルンケ将軍の使い魔よ」
鷲のような鳥の足に巻きつけられた手紙を回収すると、鳥は凄まじいスピードで夕焼けの彼方に消えていった。
僕がそれを目で追っている間に、ミランは手紙に目を通していた。
「敵の第一陣とすでに交戦中らしいわ。やはり、その中にはバルサロッサはいないそうよ。読み通りね。奴はまだあの城にいるわ」
「よっしゃ! 姐様! 奇襲をかけて一気に奴を倒そうや!」
「ええ、確かに早く行きたいとこだけど、ドラゴンとの一戦で魔力をかなり消費したから今日はこのまま野営して回復させましょう。決戦は明日よ!」
「野営?」と僕は眉をしかめた。
いつもならこういう時、基本的に空間魔法の中で眠るはずなんだけど。
「ええ、空間魔法も大小にもよるけど、魔力を消費するからね、明日はすべてをぶつけるために」
僕らは日が落ちていく中、平原にポツポツとある小さな林まで歩き、ミランが空間魔法に収納していたテントなど野営に必要な一式を取り出す。
火を囲むように食事を終え、テントの中で寝袋にくるまる。
もちろん、索敵用に周囲に結界は張り巡らせている。
ついにここまで来たかと思うと、緊張してなかなか眠れない。それにすでにエイジアが攻められているとなると流行る気持ちもある。
僕が寝返りを打ってるのを気にしてか隣で寝ているミランが見透かすように言う。
「大丈夫よ、アレル、あたし達は絶対に負けないし、誰も死なない」
ミランのあの強さを目の当たりにしているからか、彼女にそう言われるとそう思えてくるから不思議だ。
「うん。でも、エイジアは交戦中だと思うと……」
「アレルさん、天界の支援もありますから、エイジアも簡単には落ちませんわ」
エルナが安心させるように言った。
「ここまで来たら焦っても、びびっても一緒やで」
「珍しく皇女がまともな事言った」
「なんやとノーファ!」
「こら、あんた達もまだ起きてたの? 早く寝ないと魔力が回復しないわよ」
「姉さまが一番魔力消費したんやから姉さまが早く寝るべきやで」
ルンに痛いとこを突かれるミラン。
「うっ! わ、わかってるわよ!」
結局、みんななかなか寝付けないのか。明日の僕達次第で世界が変わるかもしれないから当然といえば当然か。
「仕方ありませんわね。皆さんが眠れるように天界御用達のアロマを焚きますね。鎮静作用があり、気持ちを落ち着かせてくれますわ」
エルナがランプに火を灯し、鞄から取り出した小瓶から滴のようなものをテント中に振りまき、小さな火の魔法をランプでも灯すように拡散発火させる。
すぐに甘美で心地良い香りが漂い出した。
徐々に眠気が頭に差し込んでくる。
「アレル、手を出して」と横にいるミランが僕に耳打ちする。
おもむろに僕が寝袋から手を出すと、ミランの手が僕の手を握る。女の子の柔らかい手にドキリとしたが、それと同時に不安が払拭されていくのを感じる。人の温もりがこんなにも心の緊張をやわらげてくれるのか。ミランも同じなのだろうか。同じだったらいいな。
「ミラン」
彼女は僕の言葉に微笑んだ。そして、僕らは眠りに誘われていった。




