第32話 逃走
松明を持っていたクラシカル兵もすでにのされている。
この混乱に乗じて、素早くやらなければ。
パルラの母が磔台に縛られている縄をルンが風魔法で切り、僕がパルラの母を空中で受け止め、地面に下ろした。
「走れますか?」
彼女は「あなたたちは?」と少し警戒の色を含んだ声で尋ねる。
「あなたを助けにきました。走れますか?」
彼女は困惑した表情を浮かべながらも、「ええ」と答えた。
僕らはあらかじめ、決めておいた逃走ルートに向かう。ノーファとパルラは先行して、逃げているはずだ。
パルラの母は衰弱しているのか、足取りが重い。魔装すると、感知されてしまいやすくなるので、自力で走るしかない。
「ルン、追っ手はどう?」
並走するルンに確認してもらう。
「今のところはないで。姐様達のおかげやな」
「よし!」
足が遅くても、これなら大丈夫そうだな。
しかし、それは甘い考えだったことをすぐに知らされる。
ルートの半ばを過ぎたあたりで奴が現れた。
音速のジェルク。
魔装した奴に僕らはあっさりと追いつかれ、回り込まわれ、行く手を阻まれた。
「逃がしませんよ。この国には我々に刃向かう者などいないはずですが、あなた達は一体何者ですか?」
「アホちゃうか!? そんなん言う訳ないやん!」
「うん? その独特な話し方……カメリアのものですね」
ルンのフードの下の口元が「あっ!」となった。このお馬鹿お姫様!
「まあいいでしょう。捕まえれば、あなた達がどこの誰かなんてすぐ分かる訳ですし」
ジェルクは余裕の笑みを浮かべている。
「広場で暴れてくれている者には、この村に駐屯している全兵士の8割を当ててきたので、じきに捉えられるでしょう。残り2割もこちらに向かってきています。無駄な抵抗をせずに降るほうが賢明かと思いますが……」
「アホな、そないなことせえへんにきまってるやん!」
「投降したところで、どうせ酷い拷問されたあげく、火で炙られるんだろ」
僕らの言葉にジェルクはだるそうに溜め息をついた。
「余計な動力を使わなくて済むと思ったのですが……まあ、痛い目に合うのが早まってしまいましたね!」
ジェルクが突進してきた。速いが、捉えきれない動きではない。奴の放つ拳を掌で受け止めた。
「ほう、まさか私の攻撃を防ぐとは」
僕はすかさず左回し蹴りを放ったが、奴はバク転を数度してかわした。
背後にいるルンに僕は叫ぶ。
「パルラのお母さんを連れて先に行って!」
「スピードが速いからってあんな奴、二人でやればすぐにぶっ倒せるやろ」
「そうでもないみたいだよ」
「えっ!?」
ジェルクの尻尾が緑色の光を帯びている。ミランから聞いてた情報はイエローだったが、奴はテイルチェンジしたのか、レベルグリーンだ。
「パルラのお母さんを危険な目に合わせられない。奴の話が本当なら、クラシカル兵もじきにやって来る。だから、先に行ってくれ! それにこれは僕のわがままでこうなったんだ! 頼むよ、ルン」
僕は覚悟を決めた鋭い眼差しをルンに送った。
ルンは鼻で溜息をついて、
「しゃーないな、 やけど……死んだらあかんで!」
ルンはパルラの母親を連れて、駆け出した。
「逃がしたところですぐに追いつきますけどね。あなたを殺したあとでね!」
深緑の輝きを発するジェルク。かなり練魔しているようだ。
全力でやらないと即座にあの世行きだな。




