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第31話 魔女狩り

 ユニコーンに跨り、パルラの村に急行している。オレンジ色の陽光が木々の合間を縫って差し込んでいる。温かな光は流行る気持ちを少し和ませてくれる。


 ミランの持参していた地図でパルラの村の位置は把握できていた。

 僕らがパルラと出会った場所から北東に約5キロ離れた地点にパルラの村はあるのだ。 

 パルラに年を訊いたところ、まだ8つ。そんな幼いコが裸足で5キロも駆けてきたと思うと胸が締めつけられる。

 僕らは処刑が始まる前に、闇に紛れて、救出作戦を決行することにした。だから暗くなる前に到着し、敵の状況を調べておかないといけない。


 僕はセキトバの後部で揺られながら、ミランの耳元で謝罪を述べた。


「ごめん、僕のわがままに付き合ってもらって」

「仕方ないわね。弱い者イジメしてる輩は許せないんでしょ?」

「……うん。パルラの目を見ていたら、どうしても昔の自分を思い出してしまって」

「そっか……アレルはあの頃と一緒―――」


 ユニコーンの駆ける蹄の音で良く聞き取れなかった。


「えっ!? なんて!?」

「ううん、なんでもない。それより、ルンの事許してあげてね。彼女は彼女で背負っているものがあるから」

「うん、ルンが言ってたことは正しいのもわかってる」

「それとこれからは絶対に一人で行動しようとなんかしないで。あたしの目の届かない所に行こうとしないで」


 前を向いてるからミランの表情はわからないが、その声にはなぜか寂しさが滲み出ていた。


 僕らは薄暗くなった頃、パルラの村に到着した。ユニコーンは村から少し離れた所に待たせてある。

 村の周りの茂みに息を潜めて、村の様子を伺う。

 クラシカル兵だと思われる黒いローブを纏った兵士が数名、村の中を闊歩している。


 パルラの話だと、処刑場は村の中心にあるそうだ。

 ここからは見えないが、おそらく、処刑場には今確認できている数の兵士以上の数がいるに違いない。


 日が完全に落ち、暗闇に包まれた頃、村の中に点在する外灯の火が灯り始めた。そのおかげで村の中は暗闇から多少解放される。


 作戦はこうだ。パルラの母が確実に確認できる処刑場に姿を現した時に周りの兵士共を陽動をかねて、ミランとエルナで一掃しつつ、僕とルンでパルラの母を救出する。ノーファはパルラの保護をしつつ、逃走経路の確保と誘導だ。パルラを置いて来なかったのはお母さんの顔は彼女しか確認できないからである。それに村の中の道案内もしてもらわなければならない。


「じゃあ、行くわよ」


 ランプの灯があたらない道を見極めながらミランが先行する。万が一敵に見つかっても、フードを被っているので奴らは僕らを誰かわからないはずだ。それにミランなら、もしバレても仲間を呼ばれる前に瞬殺することは容易いだろう。


「次はあの角を左」


 パルラの道案内で先行するミラン。彼女の合図であとに続く。

 途中、クラシカル兵に出くわしたが、ミランが奴らに暇を与えず気絶させた。世が世なら希代のアサシンになれるんじゃないだろうか。

  

 意外に広い村だな。町と言っても過言ではない気がする。いや、暗いからそう感じるのか。緊張の汗を拭いながら、僕らはようやく処刑場が見える位置までたどり着いた。


 建物の陰に隠れて、処刑場の様子を伺う。処刑場は円形の広場になっており、中央に噴水のあとがある。そこに十字の磔台が突き刺さっている。今では地獄のような場所だが、この場所は以前は村人の憩いの場だったのだろうと想像がつく。そう考えると怒りが湧いてくる。


 ざっと見た所、クラシカル兵は20名ほどと見せしめのためか、集められた村人が広場の中央に近いところで磔台を囲むようにいる。村人もかなりの人数だ。

「誤算だわ」と唐突にミランがすぐ背後にいる僕に声を潜めて言う。


「どうしたの?」

「知っている顔がいる」

「えっ!?」

「雑魚ばかりだと思ってたのに。あんな奴がいるなんて……」


 眉間に皺を寄せるミラン。


「あのひときわ小柄で眼鏡をかけている男が見える?」


 僕はミランが目配せした方を覗き見る。

 確かに一人だけ、他に比べてやけになりが小さい男がいる。


「うん、あいつがなにか?」

「奴は元々、この国を治めていたマモンの側近だったの。通称、音速のジェルク。バルサロッサの配下になっていたなんて」

「レベルは?」

「イエローよ」

「だったら、大丈夫じゃないの?」


 僕がこう言った理由は僕ら全員グリーン以上だからだ。


「ジェルクはスピードを極限まで練魔して鍛えてあるわ。異名は伊達じゃない」

「ミランより速いの?」

「純粋なスピードだけなら、たぶん……」


 レベルイエローでレッドに勝るのかよ。


「だから、もし奴に顔を見られたら絶対に取り逃さないようにしないと」


 松明を掲げるクラシカル兵のあとを長い髪の女性が現れた。足には鉄球のついた鎖が繋がれており、見るからに痛々しい。原始的な光景に身震する。


「お母さん……」


 パルラが小さく呟いた。やはり彼女がそうなのか。

 全員に緊張の糸が張り詰める。


「あたしとエルナは、もう少し近づいて機を伺うわ。あたし達が飛び出したら、アレルとルンは手筈通り、パルラのお母さんを解放してね」


 そう言い残し、ミランはエルナと共に闇夜に消えた。

 パルラの母が十字にそびえる磔台に脅されながら誘われる。

 ジェルクが磔台の前に立ち、大きな声で演説を始めた。


「この女は事もあろうにバルサロッサ様の意向に背いたのです。烏合の民草よ! この愚かな女が後悔しながら、焼かれていくサマを目に焼きつけるのです! そして、お前達はバルサロッサ様に忠実なクラシカルの民にまた一歩近づくのです!」


 恐怖を植えつけて支配し、逆らえないようにする。まるで僕が受けていたいじめと根本は同じじゃないか。

 僕の胸の中で、沸々と怒りの奔流がうねりをあげ始めた。


「お兄ちゃん」と僕の背後にいるパルラは心配そうに小声を発した。

 僕は振り返り、安心させるつもりで「大丈夫」と声をかける。

 月明かりでも、彼女の目はすでに潤んでいるのが見て取れる。

 パルラの母がオドロオドロしい磔台に磔にされる。中世ヨーロッパの魔女狩りを彷彿とさせる光景だ。

 ジェルクは両手を広げ、憎らしい笑みを浮かべ、


「さあ、ショウタイムの始まりです!」


 その一声で、クラシカル兵が「うおおー」と歓声にも似たものを発し、囃し立てる。

 パルラが僕の服の裾をギュッと掴む。


 ミラン、まだか!?


 クラシカル兵が磔台の足元に敷き詰められた枯れ木やもぐさに火をつけると、すぐに十字の磔台にも火が移り始める。

 パルラの母は下を見て恐怖で顔を歪めている。


「いい声で鳴いてくれ給え!」


 ジェルクの悪魔のような笑みが燃え盛る炎で映し出される。


 まだか……まだなのか!?


 パルラが極限まで身体を震わせているのが、服の裾から伝わってくる。

 足元から冷たいものがゾワゾワと粟立つ。


 早く!  早くミラン!


 ようやく炎が消え、炎で照らされていた光も消失した。

 さらに次の瞬間、広場を照らしていた街灯も消えた。あたりは一瞬にして、月明かりのみの暗闇に包まれる。


「なんですかこれは!?  何が起こったのです!」


クラシカル兵と村人がざわつく中、ジェルクの焦りの色が垣間見る叫び声が聞こえた。


「行くで!」


 ルンが飛び出した。僕もすぐにあとに続く。


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