第2話 パンケーキ屋『エッグハッピー』
表に出ると、現実世界のように青空の中に太陽がサンサンと照っていた。
城の重そうな門扉の外には城下町が広がっていた。
ただ、僕が思い描いたものとは全然違っていた。
城があんな中世ヨーロッパ仕様だから町もそんな感じをイメージしていたが、なんて言ったら的確かはわからないけど、すごく現代風だ。現実世界とあまり遜色ない。
車? みたいなものも走ったりしているけど、車輪がなく、宙に浮いている。どういう原理で動いているかも想像がつかない。行き交う人の服装も、元いた世界の格好のような人もいれば、漫画とかに出てくる魔導士のような格好の人もいる。
どうやら、よく読んでいた漫画やラノベみたいに異世界に来たんだろうな、ということは理解した。
けど……現実的に考えて、あの手の主人公達みたいにすぐには受け入れられないぞ。あの人達はすごい順応力ありすぎだ、と思う。
これ、実際には無理だろ。
ミランは足を止め、
「さてと、まずあんたの服をどうにかしないとね」
そう言われて、連れて来られたのが学生服専門店。
僕はミランと同じ男性版学生服スタイルになった。
「次はあんたの髪ね! 一年で伸びきった髪をどうにしかしないと、見るに堪えないわ」
確かにぼさぼさで伸びきっている……。
「まあ、見れる顔にはなったわね!」
ミランはニコッと笑みを浮かべた。
僕は美容室で頭をカットされたのだ。魔法みたいな力で切られるのかと内心ドキドキしたが、普通にハサミでカットされた少し残念な気もした。
「小腹も空いたし、どこかでお茶にしよ。あんたもなにも食べてないでしょ」
そう言われると、急激に空腹感をもよおした。ここまでが色々ありすぎて、それどころじゃなかったからな。
僕たちはパンケーキ屋に移動する。ミランはなぜかすごく嬉しそうだ。
さきほど寄った二つのお店もそうだが、このお店も現実世界のパンケーキ屋と変わりなく、ポップな色彩が壁に散りばめられた女子好みのお洒落な佇まいだ。
まあ、僕自身パンケーキ屋みたいなしゃれたお店になど行ったことはないが……。
店内に入り、案内された席に座ると、ミランが手馴れたように注文する。
しばらく待っていると、女子がいかにも好きそうなパンケーキが運ばれてきた。触ったら弾けそうなフワフワの生クリームいっぱいでフルーツもふんだんにあしらわれている。優しい甘い香りが鼻の奥を抜ける。
「うわあ!」
目を輝かせて、ミランが感嘆の声をあげた。
「さあ食べよ! 人間界のスイーツも美味しそうだけど、魔界のスイーツも絶品なんだから」
人間界? 魔界? やっぱり異世界なのかここは……理解はしているがまだ現実味を僕の頭は帯びてない。
そういえば、先ほどメニューを閲覧したときも見たこともないような文字が羅列されていたな。古代の象形文字みたいな感じだった。
「ん~美味しい! やっぱりここのパンケーキは最高ね!」
彼女の満面の笑みをよそにひとつ懸念があった。1年も胃になにも入れてないのにこんなもの食べられるんだろうか。普通、胃に優しいお粥とかだよな。
「何考え込んでるのよ。早く食べて、食べて」
「いや、ずっと寝てたからこんなの胃が受けつけるかなって」
「うん? ああ大丈夫よ。魔界の点滴は寝てる間も内臓も筋肉も衰えないような万能薬が入ってるから、別に気持ち悪いとかないはずよ」
言われてみれば、確かに食べれそうな気はする。よし食べてみるか。
ひと口、口に運ぶ。……うまい……うますぎて、僕は再度パンケーキを口に運び始めた。そのうちにずっと気になっていることを口にした。
「あの、いったいここは?」
ミランは幸せそうにパンケーキを口に頬張りながら、
「エイジア屈指のパンケーキ専門店、エッグハッピーよ!」
「……いや、店の名前じゃなくて、この世界のこととか説明してほしいんだけど……」
「ん? ああそういうことね。わかったわ、ちょっと待って」
そう言って、彼女は残りのパンケーキを平らげた。女のコとこんな所で食事するのは初めてだ。まさかこんな経験するなんて、人生わからないものだな。
「さてと、お腹も満たされたことだし順に話をしていくわ」
彼女は満腹感からか幸せそうな笑みをこぼしていた。そして、話を続けた。
「えっと、ここは魔界で、この世界は危機に直面しているの。それをこれから説明していくけど、話の腰を折らないで聞いてね。質疑応答はあとで受け付けるから」
訊きたいことは山程あるが、とりあえず僕は頷いた。