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第23話 四天翼の美少女

 「遅~い!」


 僕はフェルティンス村を出て、今作戦の集合場所である城下町南門に遅れて到着したのだった。それでこのミランの第一声。


「ごめん」


 謝る僕はミランの鋭い睨みにおののいた。


「集合時間はとっくに過ぎてるわよ。ノーファが迎えに行ったときは、もう部屋は空っぽだったし」


「どこ行ってた? アレル」


 ノーファはいつものように全く興味がないだろっていう表情で訊いてきた。


「ちょっとね」と返す。


「なによ~気になる~」


 そう言いながら、ジト目でプレッシャーをかけてくるミラン。


「また、道中にでも話すよ。早く出発しないと行けないだろ?」

「あんたのせいで、遅れてんのよ!」

「ご、ごめん」


 僕は苦笑いで取り繕ったあと、気になることを尋ねた。


「ところでそちらの方は?」


 ミランとノーファの他にもう一人、少しばかり、僕らより年上だと思われる女性がいる。どこか見覚えがあるような……。

 ミランは「ああ」と虚をつかれたように言い、年上女性に向き直る。


「紹介はまだだったわね。彼女は七大天使、その中でも四天翼と呼ばれる称号、ミカエルの保持者、エルナよ」


「お城で一度お目にかかりましたわね」

 エルナという女性は目元に優しげな笑みを浮かべる。


 お城で?


 彼女の鼻はツンと高く、切れ長なアーモンドアイは知性を感じさせ、美少女と呼ぶにふさわしい顔立ちをしている。その彼女を凝視し、自分の記憶の中を洗う。


「ああ! あのときの!」


 僕は思わず叫んだ。


 城で白いローブを纏っていた金髪の女性だ。今日は白を基調とした旅装束に白マントといった旅立ちの格好だからすぐには気付けなかった。艶のある金髪もあの時とは違い、後ろで束ねている。


「バルサロッサ打倒の旅をご一緒させていただきますの。わたくしのことはエルナとお呼びくださいまし」


 艶のあるブロンドヘアの天使はニコリと明るく微笑んだ。その笑顔に内心ドギマギしてしまう。


「こ、こちらこそ、よろしく」


 急にミランが僕とエルナの間に割って入った。心なしかジト目で僕を睨んでいるような気がする……。


「まあいいわ。そろそろ行きましょうか」


 ミランは口に手を当て、指笛を鳴らした。


「なにを?」


 僕がそう言った直後、門扉の外側から四頭の馬が現れた。いや、正確には馬のような生き物といった方が正しい。


 その生き物は僕らの前で整列する。何故か一頭のみ紅色で、他は白馬である。


「これは?」

「ご覧の通り、ユニコーンよ」


 ミランのさも当然のような答えに、やっぱり、と思った。頭に立派な角が生えているからだ。

「これに乗っていくの?  空飛んで行くんじゃないの?」


 ミランはげんなりと鼻で小さく溜息をついた。


「あんたねぇ~、空なんか飛んでクラシカルの領空に入ったら、すぐ発見されて迎撃部隊がやって来るわよ。あたし達の国ほど奴らの領内は狭くないんだから。目的の居城は遥か彼方よ。これは隠密作戦なのよ」


「ユニコーンはその角から発する電磁波による索敵スキルがある」


 ノーファが横からユニコーンの能力について説明を入れた。


「そう、だからユニコーンに乗れば敵と遭遇しなくて済むわけよ」


 なるほど……納得したが、僕はひとつ気掛かりなことがある。


 真紅というよりはクリムゾン的な綺麗な毛並みのユニコーンにミランが乗る。


「なんでミランのだけ赤いの?」


 ミランはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりのしたり顔。


「このコの名前はセキトバ。あたしの愛ユニよ! レベルレッドに相応しい色でしょ!」

「えっ!?  まさか……ペンキかなにかで染めたの?」

「動物虐待」

「ミランさん、それはいけませんわ」


 僕の言葉のあとにノーファとエルナの批判が相次ぐ。


「はあ!? 違うわよ! このコは産まれながらにして、こういう色なの! ユニコーンの赤毛は稀少で他のユニコーンより、能力が高いのよ」

「ああ、そうなんだ。僕はてっきり」

「あたしがそんな酷いことするはずないじゃないの! あんた達のあたしへのイメージ、どんだけ鬼なのよ。失礼しちゃうわ!」

「ははは、ごめん」


 まあでも、鬼のような強さなだけは認めるが……。


「それより早く行くわよ。あんた達は好きなの乗ってね」

「御意」

「了解ですわ」


 ノーファとエルナは残りのユニコーンに乗馬、いや乗ユニした。


「可愛い」


 ノーファが珍しく頬を赤らめユニコーンの頭を撫でた。ノーファにもこんな一面があったのか。


「どうどう、ペガサスと、さして変わりませんわね」


 金髪の天使は慣れた感じでユニコーンをてなづけ始める。


「アレル、あんたも早く乗んなさいよ」


 ミランが乗ろうとしない僕に促した。

 先ほど気掛かりだったのはこのことだ。何故に四頭なのだ、と。


「僕、乗れないんですが……はは」


 引き笑いでアピールしてみた。

 ミランは目をキョトンとさせる。


「何言ってんのよ。乗馬と一緒……あっ!」


 ミランはなにかに気づき声を上げた。

 その事を察知してか、ノーファが補足する。


「ミラン、アレルは中等部の授業を受けていない。よって馬には乗れない」

「そうだった……あたしとしたことが……」


 どうやら二人の会話から察するに中等部で乗馬の訓練があるようだ。


「では、アレルさん、わたくしの後ろにお乗りあそばせ」


 エルナのその言葉に「えっ!」と表情を変えたのは僕だけではなく、ミランもだった。

 いいのだろうか、いやこれはお言葉に甘えるしかないよな。すぐに乗りこなせるわけないし。そんな暇ないし。


「うん、よろしく頼むよ」

「どうぞですの」


 エルナは乗るのを手伝うのに手を差し伸べてくれた。


「ちょ……ちょっと待ったあああ!」


 つんざくような大きな声が城門周りに響いた。

 声の主は紅いユニコーンに乗っている銀髪の少女だ。

 僕ら全員、彼女に注目する。


「えっと、アレルはあたしの後ろに乗せてあげるわ」


 すました顔なのに、目をそらし、頬を赤く染めている。


 少し間をおいて、エルナが、

「あら、構いませんわよ。わたくしの後ろで」と何故か口元に意地悪い笑みを浮かべて言った。


「いや……その……そうそう、あたしのセキトバの方が馬力があるから、あたしの後ろに乗ればいいのよ」


 なんか取ってつけたような物言いに聞こえるのは気のせいだろうか。


「アレル、私が一番小柄だから、私の後ろの方が広い」


 自分の背後の馬の背をポンポンと叩きノーファも参戦する。

 確かに一理あるな。広い方が乗り心地良さそうだ。


「それもそうだね」

「ちょちょちょちょっと!」


 ミランはなぜか困惑の色を顔に出した。


「ん?」

「だから! あたしのに乗ったらいいの!」

「でも、ノーファの後ろの方が」

「もう、つべこべ言わず、あたしのに乗りなさい!」

「わ、わかったよ」


 なんでそんなに自分のに乗せたがるんだろう。

 それにさっきからエルナは含み笑いを続けているし。


「もうさっさと出発するわよ!」


 こうして、朝日に照らしだされたどこまでも続きそうな地平線の彼方に向けて駆け出した。


 目指すはバルサロッサの居城、カンプノ城。


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