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第22話 シャルの心のエヴァ

 昨日の作戦要請で緊張したのかあまり眠れなかったが、夜明けを迎える前に部屋を出た。どうしても、出発の前に寄りたい所があったからだ。


 僕は城下町を出て、足の魔石結晶に魔力を込める。

 薄暗い中、城下町から北西に位置する、ある村を目指す。

10分程、飛行していると日が少しずつ登り始めた。徐々に空が青みを帯びる。


 あそこだな。


 僕はフェルティンス村と書かれた標識がある村の入り口に降りたった。辺りはほんのりだが朝靄がかかっている。

 

 村に入り、何人か出くわした村人と挨拶を交わす。村民の朝は早いらしい。

 住所が書かれたメモを片手に、砂利道を歩いていると、目当ての家にたどり着いた。

 ここにエヴァが亡くなり、ルンケ将軍やエヴァの母親と同列と言っても過言ではない悲しみを抱えている者がいるのだ。


 僕は木製の戸についているベルを鳴らそうとした時、背後で人の気配を感じた。


「アレ兄……?」


 聞き覚えのある声だ。僕は振り返った。


「早起きじゃないか、シャル」

「うん、ちょっと走ってきた。ここ最近、あんま眠れなくて……」


 シャルは罰が悪そうに苦笑いした。

眠れないのも無理もない、まだあれからひと月ほどしか経過していないのだから。


「それより家まで来てどうしたの? それにその格好……?」


 国から支給された青を基調とした旅の服とマントを羽織っていた。


「ああ、今から旅に出るんだ。その前にシャルに話したいことがあって」

「俺に話?」

「うん。シャルは学園に登校してなかったし、寮にも戻ってきてなかったから」

「俺……まだ学園には……」


 シャルは言いにくそうに言葉をこぼし、俯いた。


「怖いよな。あんなことがあったんだから怖くて当たり前なんだよ」


 シャルは顔を歪めた。


「あそこに行くのが怖い……俺がエヴァを殺したと再確認させられるあそこが……あの時、俺が逃げなければ、俺が強ければ……夢の中のエヴァが死んだのは俺のせいだ、って言ってくるんだよ」


 シャルは今にも泣き出しそうなくらい悲壮な表情を浮かべている。

 幼馴染の死を目の前にしたシャルの無念さは、計り知れないものがある。そこから来る自責の念。

 僕は知っている。こういったトラウマは薄くはなっても、決して消えないシミのように、頭のどこかに一生こびりついているのだ。


「違うよ、エヴァはシャルを救いたかったから覚悟したんだ。エヴァはその事を絶対に後悔していない。救ってもらった命をシャルがどう使おうが勝手だ。でも、エヴァに悲しい思いをさせるな。シャルの記憶の中のエヴァはいつだって笑っているだろ?」


 シャルはみるみる目に涙を溜める。


「夢の中のエヴァも笑顔にしてあげないとエヴァが悲しむぞ」


「うぐっ……エヴァ……エヴァ……えぐっ」 


 シャルの目から堰を切ったようにとめどなく涙が溢れ出す。


 僕はシャルを抱きしめた。

 朝陽が村に降り注ぎ始め、その温もりある陽光は僕たちを優しく包み込む。

 まるでエヴァが悲しまないでと言っているかのように。



「アレ兄、俺……強くなるよ。俺の命はエヴァがしようとしていたこと……この世界を平和にすることに……それを果たすために……強くなる。それがエヴァを悲しませないで済む……エヴァが願っていたことだったから」

 手で涙を拭い、シャルは微笑んだ。

「ああそうだな、シャルならできるよ」

 僕も微笑み返した。


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