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第21話 将軍の思い

 僕は寮に戻り、旅仕度をしている。王宮で要請を受けたあと、別室でミランから僕とノーファに説明があった。

 今回の作戦はクラシカルが近いうちにエイジア、カメリアに総攻撃を仕掛けてくるだろう、とよんでのものだ。上層部はその為の学園襲撃だったと睨んでいる。


 概要は奴らの第一陣、第二陣を防衛している間に、僕らがバルサロッサの居城の手薄になったところを狙って、奴を討つというものだ。

 これまでの戦いからして分析して、バルサロッサ本人が第三陣までの間に出陣してくるのは考えられないらしい。あくまで予測らしいが。


 今までこの作戦が実行できなかったのは、ミランなくして国の防衛は難しかったからなのだが……ならばなぜ作戦が実行に移すことが可能になったかというと、ミランにも勝るとも劣らない戦力が手を貸してくれることになったからだ。

 

 それが今日、城にいた白いローブを身に纏っていた二人の男女だ。

 彼らは天界の使者で、神がバルサロッサの猛威が天界にも及ぶ可能性があると考えたことで、遣わされたという。

 しかし、天界と魔界は基本的にはお互いの世界に干渉しない協定が存在し、天界が全面バックアップしてくれるということは無理らしい。

 今回は侵略されていない国の王、サタン、ベルゼバブ両名が交渉して訴えたのが功を奏したとのことだ。ミラン曰く、特例中の特例らしい。


 旅仕度を終え、ベッドに潜り込んだ。明朝には立たないといけないのだ。

 だが、目を閉じたがなかなか寝付けなかった。その理由は僕は城で、ミランと別れた後のことを思い返していたことに他ならない。


 ミランから作戦について、説明を受けたあと、ある人物に呼び止められた。それは僕の作戦参加に待ったをかけた人物、あの髭の男、ルンケ将軍だった。

 ノーファには先に帰ってもらい、僕は城内のルンケ将軍の部屋に案内された。高価そうな黒い机とこれまた高価そうな黒いレザーの椅子だけがあり、それほど広くもない殺風景な部屋であった。


「先ほどは失礼なことを言って、すまなかったな」


 また否定的なことを言われるのかと思っていたが、意外にも将軍の第一声は謝罪の言葉だった。


「いえ……」

「呼び止めたのは、他でもないお主に思いを託したくてな」


 穏やかな表情だが、瞳を見れば何か強い意志が込められているのがわかる。


「これを見てくれ」


 将軍は机の引き出しから、一枚の写真を取り出し、僕に差し出した。

 写真には将軍に肩車をされている4、5歳だろうか、笑顔の少女が写ってあった。

 僕はその少女に見覚えがあった。


「このコは孫のエヴァ。先日の学園襲撃で命を落とした者の一人だ」


 名前を聞き、やはりと胸の奥がズキンと痛む。


「……はい、知っております」


 将軍は目を大きく見開いた。


「エヴァを知っているのか?」

「はい、初等部にもよく顔を出していたものですから」

「そうか……」

「真面目で、優しい女の子でした」


 将軍は再び「そうか……」と思い耽る様子で静かに呟くと、目に光るものを浮かべた。

 そして、小さく息を吐き、続けた。


「……このコの父親はやり手の魔導戦士だったのだが、まだクラシカルに侵略されていなかった国の援軍に行った時に命を落としてしまってな。その反動もあってか、エヴァは学園入学の道を選んでしまった。私の反対を押し切ってな」


 将軍は自虐的な笑みを浮かべた。


「私の娘、エヴァの母親はエヴァが亡くなってから、このひと月、命を絶とうとするほど、自暴自棄になってな……」


 それは無理もないような気に思えた。愛している夫を亡くし、さらに娘まで失ったのだから。


「私はクラシカルが憎い!  バルサロッサが憎い! できうるなら、今すぐにでも奴をこの手で葬りたい!」


 将軍は痛々しいほどの憎悪に満ちた目をしている。


「ミラン殿に私情を挟むな、と言っておいて、これでは笑われてしまうかもしれんが……私には私にしかできない役割があり、簡単にはこの国を離れるわけにはいかない。だからアレルよ、勝算は決して高くないことも承知で頼む! もうこれ以上、誰も私のような家族を失う者が出ないために、バルサロッサを討ち取ってくれ!」


「……全力を尽くします!」


 僕にはこう応えるしかなかった。それ以外の言葉など、この場にはふさわしくないと思ったからだ。


 将軍は口元に笑みを浮かべ、


「その言葉が聞けて安心した。我々、防衛組もお主らが奴を討つまで、必ず耐え忍んでみせる! だから、どうかよろしく頼む!」

「はい!」


 僕らは固く握手を交わした。今回の作戦がいかに責任重大であるか、自覚するには十分な握手だった。


 一人の少女を失ったことで、多くの人が悲しみに明け暮れる。

 僕も無論、そのうちの一人だ。学園であれだけの学生が死んだことで、どれ程の人が深い悲しみを抱えたか、想像に難くない。

 これ以上、同じ惨劇は繰り返してはならないと今一度、深く心に誓った。


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