第20話 レベルグリーン
「待たれい! ミラン殿」
ミランの隣にいた長い口髭を生やした厳格な顔つきの男が声を張り上げた。
ここにいることから、高い地位をもつ方なのだろう。
ミランは、困惑の色を帯びた表情を露わにしている。
「ミラン殿の推薦とはいえ、サタン様……やはりこんな年端もいかない子供達にこの重要な作戦を任すべきではないと存じあげます」
「そんなことはないわ! 二人とも高位カラフルよ」
「それは存じている。しかしながら、娘の方はレベルグリーンだと聞いているから理解できるが、そちらの男子学生はイエローだと聞いている」
異を唱えた髭の男は鋭い視線を僕に飛ばす。その目は見下していた。
「同じレベルイエローでも、戦闘経験が豊富な軍の部隊長を連れていくほうが、作戦の成功率も格段に上がるというもの。いかがですかな? サタン様」
「ふむう」
サタンは少し困ったように眉をしかめた。
「いいえ!」
ミランは強く反論する。
「もう、決定したことよ。何度も話し合ったじゃない! 部隊長クラスは国の防衛で手一杯なはずよ!」
髭の男は納得できない様子で渋面を大袈裟に作り、食いさがる。
「ですが、国を左右する……いや、この世界の行く末が決まる作戦にこのような小わっぱを……少ない人数なら、なおさら最高の戦力で立ち向かうべきである! なんならレベルグリーンである私が行ってもよいくらいだ」
どうやら、よほど僕は実力不足だと思われているようだ。
「でも……あたしはアレルを……」
ミランが呟くように言った。
「このような大事な事に私情を挟むなどもってのほかであろう!」
「くっ!」
ミランは下唇を強く噛み、悔しそうな表情を露わにした。
ミランのその表情を見て、僕はおもむろに口をついていた。
「……レベルグリーンなら納得するんですね?」
髭の男は上から目線で、ギロリとこちらに目を向けた。
「無論だ。この国で私と現イドゥナシーロ最強と謳われるその娘を合わせても四人しかいない、レベルグリーンならこの隠密作戦でも充分に成果を期待できるだろうからな。だから、戦闘経験の浅いイエローのお主では足手まといに……」
髭の男の言葉を遮るように、僕は一歩前に出た。
「何を?」
僕は拳を握り、腰を落とし、全身に力を入れ魔力を高める。
「アレル?」
ミランは不思議そうに見つめ、他の傍観者たちは驚きと疑念が入り混じった表情だ。
サタンの側近は何事が起きてもいいように身構えた。
「お主、サタン様の御前であるぞ!」
「よい」とサタンが髭の男を制した。
「はあああぁぁ!」と僕は息吹いた。
「なっ!」
髭の男は僕のオーラと尻尾に驚きの表情を隠せず、声を漏らした。幾人かもおおーっと感嘆の声を上げた。
「ほっほっほ! レベルグリーンとな」
愉快そうに笑うサタン。
「ふぅー」と力を抜き、魔装を解く。
「アレル!」
ミランは見るからに嬉しさを爆発させながら飛びついてきた。
「わわっ!」
あまりの勢いに押し倒された。
「っつ!」
目を開けると、目前に銀髪美少女の顔があった。近い……!
「あんたいつのまに!?」
顔の近さなどおかまいなしのミラン。
僕の頬は熱を帯び、赤くなっているに違いない。
「ま、ま、まあ、ちょっとね」
「ミラン、こんな所で盛るのはよくない」
声の主であるノーファが冷たい眼差しで、見下ろしている。
「盛ってなんかいない……あ……」
ミランは目下にある僕の顔をまじまじと視界に捉えたあと、辺りを見回した。
一瞬にして案の定、顔を赤く染め上げた。
彼女は稲妻の如き速さで、元の位置に何事もなかったように戻った。
だが、残念ながら恥ずかしさを惜しみもないくらい前面に出しているような顔をしていた。
僕も居心地悪そうに苦笑いを振りまき、取り繕いながらゆっくりと立ち上がった。だが、おそらくまだ頬の赤みは引いていないだろう。
「 ほっほっほ」と機嫌よくサタンが笑い、口を開いた。
「ルンケ将軍よ。アレルは学園で黒き魔獣を討ち、敵の主力にも劣らない戦いをしたとミランから聞いておる。軍の高位カラフルでも簡単には成し遂げれんことをやってのけたのだ。託してみんか? この若人に」
「しかし、今回の作戦が失敗すれば、それこそ、この国はバルサロッサの手に……」
「それはこのまま戦っていても同じ事じゃて。カメリアの王もその事を承知で、この作戦に同意してくれたしのう。それに……反対する理由も、もう見つからんじゃろ」
「確かにそうですが……」
ルンケ将軍は完全には納得しきっていない様子だが、ミランは押し切る形で口を開いた。
「なら決まりね! これより隠密奇襲作戦に移ります。サタン様、よろしいでしょうか? 」
「うむ。では、ミラン以下5名に本作戦の主務を預ける! しかと頼んだぞ!」




