第19話 作戦要請
授業が再開され、数日が経とうとしていた。まだ平静は保たれている。
僕は授業が再開される前からある理由で、練魔館に入り浸っていたので、学園に来るのが久しぶりという感覚はない。しかし、完全には修復されていない建物を見ると、ついこの間、ここが戦場だったと認識する。
さらにそれとは別に、久々に訪れる教室には空席がいくつかあり、襲撃の面影が頭を巡るには充分だった。
初等部の方にも顔を出したが、ここでも空席がちらほらと目に入った。元気な子供達の声が減り、どこか寂しげな教室。そして、気になるのはシャルもいまだに登校してきていないことだ。
僕の日課は授業が終わると、練魔館に行くことだった。だが、今日はシャルの家に行こうと思っていた。エヴァを失った彼にかける言葉もまだみつからないが、ただただ心配だからだ。
ところがノーファがいつもの無表情で、教室を出ようとした所で僕を呼び止めた。
「アレル、ミランから呼び出し」
ノーファに連れられて、やって来たのはエイジアの主城、アリエンツ城だった。ここを訪れるのはこの世界が魔界と認識したあの日以来だ。
城の最奥部にあたる玉座の間の扉を開く。石畳の上に敷かれた仰々しいレッドカーペットの先には、この国の王、サタンの称号をもつミハイロが玉座で僕らを待ち受けていた。
傍には以前と変わりない側近の女性が二人。
そして、レッドカーペットに並行して、見たことのない男女のペアが左側に並んでいる。
男は優男という言葉がハマる線の細い顔作りで、目が細いのが際立つ。服装は全身を光沢を放つ白いローブで覆っている。
女性の方は一見、物静かな印象を受けた。鼻が高く、切れ長な目、その端正な顔立ちにロングのブロンドヘアがよく似合っていて、どこぞのお嬢様といわれても納得するだろう。こちらも男性同様、白いローブで身を包んでいる。
右側にはミランと灰色のローブを纏う魔導戦士が数人整列している。ミランは和やかな笑みを浮かべている。城に入ってから硬くなっていたのだが、ミランの笑みで少なからず緊張が解けた気がした。ただ、いつものミランではない点がある。それは学園の制服ではなく、ミランは旅に出るような赤と黒を基調とした旅装束に黒のマントを纏っていた。足元はこげ茶のレザーブーツをきめている。
「久しぶりじゃの、アレル」
僕はサタンの言葉に対し、軽い会釈をした。
「そち達を呼んだのは、他でもない、ある作戦に従事してほしいからじゃ」
「作戦?」
「そうじゃ、ミランから説明してもらおうかの」
「はい、サタン様」
ミランがこちらに体を向け、和やかな笑みから一転、真顔になる。
「アレルにノーファ、あなた達2名に隠密奇襲作戦の参加を要請します」
……名前からしてなんか重大な作戦だよな、これ。僕は口元をひくつかせた。
「この作戦は選抜された少数精鋭で魔界を征服せしめようとするクラシカルの王、バルサロッサを討取るというものよ」
敵の頭を取って、戦争を終結にもっていくということか。確かにこのまま攻められるのを待っていれば、戦力差からしてジリ貧であるエイジアしかりカメリアはいつか陥落してしまうだろう。
定石といえば定石だが、これは一発逆転の手段でもあるな。ある意味、これしか方法が残されていないのかもしれない……だが、そんなにうまくいくだろうか。




