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第1話 悪魔に転生

 白い天井がぼんやりと見える。……眠っていたのか……どれくらい眠っていたのだろうか……ここは……?。


 まだ朦朧とする頭で意識がなくなる前のことを思い出そうと努力する。それにより、数秒後、ここがどこか察しがついた。それは左腕に繋がっている管からもごくごく一般的に辿り着いた結果だった。病院か……結局、死にきれず助かってしまったのか……そう考えたのも束の間、左右を見渡すと奇妙な違和感を覚えた。


 部屋が個室の病室にしては相部屋並みに広く、僕が寝ているベッド以外何もない。僕のベッドだけが逃げ遅れたかのように、部屋の中央でポツンと取り残されている。

 壁も天井もすべて混じり気がない綿雪のような白さで統一され、ドアも窓も存在しない。さらに不思議なことに電気らしいものがなく、白く強く発光する小さい炎のようなものがいくつかゆらゆらと浮遊していた。その白い光が部屋全体を明るく照らしている。


 なんだここは!?……現実世界ではない……よな……だとしたら夢の中なのか、はたまた死後の世界というものだろうか。

 起き上がろうと確かめるように手をゆっくり動かしてみる。まだ感覚は鈍く感じるが、思い通りに動かせる。ベッドから降り、周りを見渡しながら歩いてみる。

 しかしながら、なんにもない、ただただ白い壁に覆われた部屋だと再確認できただけだった。やはり出口らしい所も見当たらない。

 うっ……少し立ちくらみを覚えた。

 ダメだ、まだ頭がはっきりせずボォ~とするな。

 僕はその感覚から逃れるため、ベッドに戻ろうと踵を返した。その瞬間、目の前の空間が歪んだ、と思ったら、そこから人が飛び出してきた。


「わわわ! なんでそんなとこに!」


 そのまま白い床に押し倒される。


「びっくりするじゃない、もう!」

「いてて」


 僕はその重みから解放されたくて、手を動かした。


 ん? 


 今まで感じたことのないとてつもなく柔らかい感触がする。


「ちょ、ちょっとどこ触ってんのよ!」

 彼女は後方に飛び退いた。


「あんた、殺されたいの!」


 銀髪でクリッとした大きな瞳の色白美少女が怒号した。ベージュを基調としたブレザーを羽織り、白いワイシャツに深緑のスカートを合わせている。見た感じどこかの学生服のようだ。彼女は胸を手で覆い、顔を紅潮させている。


「ご、ごめん。急だったからつい……わわわざとじゃないよ」

「あんたがあんな所に立ってんのが悪いのよ……ていうかあんた目覚めたのね」

「目覚めたっていうか、ここは何処なの?  それに君は誰?」

「あたしはミランよ! 年はあんたと同じ16! この国唯一のレベルレッドのミラン!なんか文句ある?」

「も、文句はないけど、全然状況が飲み込めないんだけど。それに僕は15だけど……」

「あんたは首を吊った日から1年間、ずっと意識がなかったの。だから今は16歳よ」


 1年も寝ていたのか。植物人間状態だったってことだよな。それならやはりここは病院かなにかの施設なのだろうか。

 でも、このコがなんにもない空間から出てきた所からして、ここが現実の世界ではないことを納得せざる得ない。

 それともこの一年で科学が進歩して、こういう技術が日常茶飯事的に使用できるようになったのかな、未来からやってくる猫型ロボットの漫画のドアみたいに。


「とりあえず、ここから出るわよ。いろんな説明はそれからよ」


 ミランは後ろに振り返った。


 ん!? なんだあれ? 


 彼女のスカートから黒い尻尾のようなものが生えている。今、流行りのアクセサリーみたいなものだろうか。

 彼女は右手を掲げた。すると、手を掲げた先の空間が歪み始めて、白い壁とは違う景色が徐々に姿を現した。


「さあ、行くわよ!」


 ミランは僕に手を差し伸べた。頭はまだ混乱の真っ最中だが、言われるがまま彼女の手を握った。


 空間から出た先は、だだっ広い石畳の床の上に敷かれたレッドカーペット。映画でしか見たことないけど、感じ的に中世ヨーロッパのお城の中をイメージしてほしい。

 前方の玉座に座る初老の男。

 黒一色のローブを身にまとっている。その男の両脇にアニメや漫画に出てきそうな魔導士のような格好をした女性が控えている。この状況を目の当たりにして、科学技術の進歩の発想は途絶えた。これ、現実の世界じゃないよな……。


「サタン様、彼が目覚めました」


 ミランが言った。


「そうか、ようやくミランの見初めた男が目覚めたか」

「必ずや力になってくれると思います」

「うむ。これでお主も魔力を浪費せずに済むの。それとその男にはまず学園で魔力の手解きを受けてもらわねばならぬな」


 魔力? おいおい、中高生のオタクが好きそうな単語がどう見ても年が60を超えているおじいさんといってもおかしくない男から飛び出したぞ。


「では、そのように取計らうように致します」

「うむ。ところでそちの名は何と申す?」

「僕は……」

「あっ、サタン様、しばしお待ちください」


 ミランが僕の返答を遮り、耳打ちする。


「あんたは元人間だから、この世界では新しい名前にしてもいいわよ。まあ、人間の時の名前でもいいけど……」


 元人間……ってどういうことだ!? まったくもって意味がわからない。それに唐突に新しい名前と言われても……。


「……僕はアレルです」


 結局なにも思い浮かばず、実名を言った……。


「ふむ。では、アレルよ。早速じゃがそちの魔力がいかほどか見せてみよ」

「へっ……!?」

「あんたの尻尾に魔気をレクイジションするのよ」


 さも当然のようにミランが言う。

 なんだよ、魔気って? 意味わからん。いやそれよりも……。


「尻尾ってなんのこと?」

「あんたのお尻についてるでしょ」

「へっ!?」


 僕は自分のお尻を病人が着るような白い衣服の上から触った。

 時間が経つにつれ、感覚の鈍さはなくなってきているが、お尻に感じたことがない感覚が……なんか生えてる…………。


「えーーーーーー!!!」


「なにをそんなに驚いているのだ。そちは悪魔になったのだぞ」


 サタンと呼ばれる老人がこれまた、さも当然のように爆弾発言した。


「あ、悪魔ってあの悪魔?」


 サタン老人は眉間にしわを寄せる。


「なんだミラン、まだ説明しておらなんだのか?」

「あとで説明しようと思いまして。あんた、とりあえず尻尾に魔力を込めてみて」

「とりあえずって言われても、どうやってしたらいいかわかんないよ」

「尻尾に全身の力が集まるようにイメージしたらいいわ」


 本当によくわからん。よくわからんが言われた通りイメージしてみる。すると、徐々にだが、尻尾に熱を感じる。


 数秒後……尻尾が黄色に輝き、僕の身体から黄色のオーラが発せられた。

 なんじゃこりゃ!?


「ほお~、レベルイエローとは戦力になりそうじゃの」


 サタンは満足気に顎をなでる。


「はい、では早速学園で訓練の段取りを致します」


「うむ、しかと頼んだぞ」

「はい! お任せください。アレル、じゃあ行くわよ!」


 このように勝手にたんたんと話が進み、僕はミランのあとに続いた。


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