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第15話 絶望の足音

 二人の笑顔を見て、僕も安堵する。

 これでクラシカル軍は退けられるだろうか。あとはノーファ達だな。

 もう、魔力も空っぽに近いので、増援に行くだけ足手まといになってしまうかもしれないが、僕は食堂に足を向けようとした。

 その直後、急に僕の背後で凄まじい地鳴りが発生した。瞬時に二人の先生の顔が絶望の色に染まった。

 僕は振り返った。


「嘘だろ……」


 そこには今、苦労して倒したはずのケルベロスが新たに一匹、どこから現れたのか、悠然と存在していた。

 背後にいる二人の先生に視線を移すと、リエラ先生は辛辣な表情で首を横にふり、傷を負っているロップ先生はあきらめたように薄い笑みを浮かべた。先生たちはわかっているのだ。足掻いた所で助からないことを。


だけど……。


 もう一度、視線を正面にいる三ツ首の魔獣に移す。荒れた石畳の上に、その巨大かつ凶悪な躯体をはべらせている。こちらの様子を伺っているようだ。単なる獰猛なだけの獣ではない。

 僕は固唾を飲み込み、額から緊張の汗が流れ落ちていく。冷や汗なのかなにかもわからない。

 だけど……ここであきらめてしまうことはできない。僕は目の当たりしたのだ。食堂で目の前で息絶えた少女を……そして救えなかったエヴァを……。

 もう、彼女達のような犠牲者はこりごりだ! 

 僕はここが死に場所だと覚悟を決め、リエラ先生に視線を飛ばした。


「リエラ先生!  ロップ先生を連れて逃げてください!  ここは僕が引き受けます!」

「無理よ!  アレルくんひとりで凌げないよ!」

「だけど、みんな一緒にこんな犬ッコロの餌になるなんてまっぴらです! だから、早―――」

「危ない!」


 僕はリエラ先生に抱きつかれるように突き飛ばされた。二人して地面に転がる。

僕の下半身に覆い被さる先生は


「もうダメよ~、敵と対峙中に目を離し……ちゃ……」


 いつもの口調に戻り、それだけ言うと彼女は蒼白になり、がくりと意識を失った。


「先生!?」


 先生を抱き起こすが、その時、ようやく気づいた。先生の右足首から先がないことを……全身の毛が粟立つ。

 ケルベロスのかまいたちのブレスから僕を守るために突き飛ばし、リエラ先生は負傷したのだ。血がとめどなく流れている。素人目からしても止血しなければ、この出血量は命に関わることがわかる。

 僕は自分の服の袖を破りながら、警戒のためケルベロスにも視線を飛ばす。

 すると奴は次は身動きが取れそうにないロップ先生を狙っていた。

 僕は即座に残存している魔力をふりしぼりリエラ先生を抱えて、ロップ先生の元へ移動する。

 闇夜のような黒い毛並の魔獣はロップ先生めがけて炎のブレスを吐き出した。灼熱の猛威がロップ先生を襲う。


氷守盾アイスシールド!」


 間一髪、間に合った。


「これでリエラ先生の足の止血を!」


 僕はちぎった服の裾をロップ先生に放り投げた。

 ロップ先生の隣に寝かせた、リエラ先生の顔の血の気がさらに引いてゆく。


「この僕のシールドがいつまで持つかはわかりませんが、どうにかして避難してください」

「アレルっち……」


 普段は元気が売りのはずであろう褐色の女性の表情は苦しそうに歪んでいる。

 彼女もかなりの重傷で動くのもやっとなのだ。それでも彼女はリエラ先生の足首を縛り、止血を施した。


「ぐっ!」


 黒き化け物の炎のブレスが幾分強くなった。

 奴は知恵が回るのか、ブレスを吐きながら徐々に距離を詰めてきている。威力を増すためにゼロ距離でも狙っているのだろう。走って来ないのは同胞がやられた相手とみて、多少なりの警戒心からなのか。

 黒い魔獣の大地を蹴る音が死へのカウントダウンに聞こえる。


 もう魔力が底を尽きそうだ……背後にいる先生達にチラリと視線を飛ばすがロップ先生もリエラ先生を抱えては動けそうにない。


 このまま、みんなやられてしまうのか?


 打開策も思いつかない。炎の威力はゆっくりと確実に増すばかりだ。

 あきらめたくないが、これ以上どうすることもできない。

 僕は結局、死に場所だと決めたのに、誰も守れないまま死ぬのか。そう思うと、絶望という名の足音が滑らかに聞こえ始めた。


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