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第10話 戦争の気配

「アレル!」と名前を呼ぶ声で目が覚めると、ミランの顔がそこにあった。


「良かった……」


 彼女は心底、安堵する表情を浮かべた。心なしか目の周りが腫れているようにみえる。


 僕は周りを見渡しながら、


「ここは……?」

「保健室よ。それより意識は、はっきりしてる? あんたが気を失ってから丸1日経つのよ」


 そんなに気を失っていたのか。そう言われると、ローマンを倒したあとの記憶がないや。


「うん、大丈夫だよ。先生とローマンは?」

「先生は昨日のうちに気を取り戻して、家で療養中よ。あんたが助けたおかげで大事には至らなかったわ」

「そうか、良かった」


 そう思ったのも束の間、ミランは深刻な顔つきになった。


「ローマンは病院の集中治療室で治療を受けているわ……」

「僕のせいだよね……」

「アレルは気に止むことないわ。あの状況じゃ、ああするしかなかったもの。それにダメージよりも、ベルリッタに危険な合成魔薬を施されていたのが原因みたい」

「魔薬?」

「なにかしらの魔力が注入された薬よ。敵は人工的にテイルチェンジできる魔薬を作り出したと考えるのが妥当ね。でも、一時的だし、正気を保てなくなる代物は実戦には向かないから、奴らも戦いで乱用はできないはずよ」


 ミランはそう言う割に、眉間にしわを寄せ険しい面持ちになった。まだなにか懸念材料があるのだろうか。


「ベルリッタは?」


 ミランは首を横に振った。


「あのあとすぐに運営室に向かったけど、もぬけの殻だったわ」

「ベルリッタはなぜ僕を?」

「これはあたしの推測だけど、たぶんアレルが元人間だから」

「どういうこと?」

「元人間の悪魔は、高確率でテイルチェンジできる悪魔なの」

「そうなの!?」

「ええ。希少なのよ、あんたは。まあ変動条件はわかんないけどね」


 そうなのか……わかれば、すぐにでもレベルレッドになりたい。


「だからおそらくだけど、後に脅威となりうる可能性があるあんたを奴は狙ったのね。バルサロッサの命令か、その配下の命令かはわからないけど……」


 そういうことか……でも、それなら辻褄が合わないことがあるぞ。


「僕が学園に通う前から、ベルリッタは学園に僕を狙うために潜伏してたってことだよね」

「ええ、そうね。調べた限りじゃ、アレルが目覚めるより約半年前に、ベルリッタはバルサロッサに追われた国の難民ということで入国していたの。学園に潜伏したのはそれからってことになるわね」

「それって1年前の目覚める前から、僕が悪魔になったことを知っていた?」

「奴らの狙いがあんただったからそうなるわね」

「でも、どうやって……」

「それが不思議なのよね。あたしの空間魔法であんたを隠していたし、そのあいだは知ってる人は限られてるし」


 ミランが不思議がるのも無理もない。奴らはどこかで僕の情報を仕入れたことになる。 

 他にも潜伏している者がいるんだろうか。そう考えるだけで背中に冷たいものが走る。


「まあ考えても仕方ないわね。この件については調査が必要ね」


 ミランの言う通りだ。真相は気になるが情報がないんじゃ、どうしようもない。


「これから本格的にクラシカルの侵略が始まるかもしれないわね」


 侵略か、嫌な言葉だな……。でも、ローマンとの戦いでわかったことがある。

 それは、この世界は平和でないこと。怖くても戦わないといけないのだ。生き残るために……。


「じゃあ、そろそろあたしは任務に戻るわね」

「うん……あっ、ミランはずっと僕が起きるまで側にいてくれたの?」

「まままままあ、一応ね」


 あれ!? あきらかに動揺してません?  

 照れてるのかな?


「心配してくれたってこと?」

「まままあ、あああたしの預かりだから……ね」

「ありがとう。素直に嬉しいよ」

「……アレル……あたし……ね」


 ミランが僕を見つめる。その頬は紅く染まっている。


「……ん?」

「あたし……実は」


 ミランがなにかを言いかけたとき、ガラッと扉が開いた。彼女はその音にビクンとした。


「起きたか、アレル」

「や、やあノーファ」

「大事ないか」

「おかげさまで」

「謝る」

「なにを?」

「盛る邪魔をした」

「ななななに言ってんのよ! バババカじゃないの!?」


 ノーファの勘違い発言を、僕が否定する前に速攻で否定するミラン。レベルレッドらしく顔は茹でダコのように真っ赤だ。


「違ったのか……そんな雰囲気だったが。それにミランの尻尾がモジモジしてた」


 相変わらず抑揚のない声で、ノーファは言った。だがその言葉がさらなる動揺を引き起こす。

「ししししてないわよ!」


 噴火したマグマのようにこれでもかっていうくらいにカア~と頬を紅く染めるミラン。


「冗談」


 出た、必殺真顔の冗談。


「あっ、あんたねぇ~」


 ピリリと突然ミランのスマホが鳴った。電話を耳に当て、オレンジの日差しが射し込む窓際に寄るミラン。一瞬でシリアスな表情を浮かべた。

 数度頷き、電話を切る。


「緊急を要する任務が入ったから、お城に戻るわね。あと、ノーファよろしく!」


「どんと任せる」とノーファは胸に手を当てた。


「アレル、あんたはまだ魔力枯渇症の影響があるかもしれないから、今日はもう家でゆっくり休むのよ」

「魔力枯渇症?」

「魔力が空っぽになって、気を失ったり、数日間カラダに不調を来たす病気よ。まあそのうち治るわ。じゃあ、行くわね!」


 ミランは急ぎ早に部屋から飛び出していった。あんなに慌てて行くなんてどんな任務なんだろう。少し胸がざわついた。


「アレル、寮に戻る」


 ノーファのその言葉に僕は従った。まだ確かにカラダが鉛をつけているかのように重い。


 外に出ると、もう陽がだいぶ傾き始めていた。

 僕とノーファが寮に戻る夕焼けの中、学園の広場で子供達が遊んでいた。子供とはいえ、僕にとっては初等部でのクラスメートだ。

 彼らは空中鬼ごっこをしている。この遊びは飛んでいい高さを決めて、空中のみでやる鬼ごっこだ。もちろん、地面に足をついたらダメ。結構、空を飛ぶ練習になるのだ。僕も何度か彼らとやったことがある。


「アレ兄!」


 一番やんちゃ盛りな『シャル』という男のコが僕をみつけて、空を滑空してこちらに来る。一緒に遊んでいた子供達も彼のあとに続く。


「もう治ったん?」


 口元に笑みを浮かべるシャル。


「うん、もうバッチリだよ」


 僕は彼らに心配させまいと、親指を立てた。


「この間の試合すごかったね~」


 シャルの隣で、そう言った金髪の整った顔立ちの女の子はエヴァ。初等部三年で初等部の中で唯一のレベルブルーだ。


「ほんと、途中まではどうしようもないヘタレだと思ったんだけどな!」


 ガラスのハートにグサリと響くシャルの言葉……そう言われても仕方がない失態だったが……。


「偉そうに言わないの。アレ兄の顔が引きつってるじゃない」

「エヴァはうっさいなあ。そのあと挽回して、勝ったからいいだろ。なあアレ兄」

「ははは」


 苦笑いで取り繕う僕。心は一度完全に折れてたけどね……ってあれ!? そう言えば……。


「みんな、あの時避難してたんじゃないの?」

「闘魔館の外部モニターで見てた」


 ノーファが応えた。


「そうや。そのノッペら姉ちゃんに連れてもらってな」

「こら、シャル! 学園最強のノーファ先輩になんて言い草なの! 謝りなさい!」

「うるさいなあ。別にほんとのこと言っただけだろ」


 少し鬱陶しそうなシャル。


「シャル、あんたおしおきされたいの?」


 口元をひくつかせ、怒りの表情を露わにするエヴァ。彼女の尻尾がブルーに染まる。


「やばっ!」


 シャルは一目散に逃げ出したながら叫ぶ。


「アレ兄、明日から授業出てこいよー!」

「ああ!」


 他の初等部の子供たちも、

「アレ兄バイバーイ」、「またねー」と手を振りながらシャルを追いかける。


「もう! ノーファ先輩、ほんとにすいません」

「別に気にしていない」


 いつも通り表情を変えないノーファ。それを見て、エヴァの顔は少しひきつった。

 そりゃ、そうだよな。僕は慣れたけど。


「エヴァもいつも大変だね」

「そんなことは……ない事もない、シャルのお調子加減には手を焼いてるけど……幼馴染だからしょうがないよね」


 エヴァはまんざらでもない笑みを浮かべた。


「そっか、なら仕方ない。お互い大事な人同士なんだな」

「そんなことないよ~、ただの幼馴染だよ」


 否定するが、恥ずかしそうに頬を赤らめている。


「そうそう、あれからみんなアレ兄に憧れてるよ! アレ兄みたいに強くなりたいって」

「そうなの!?  あんなだったのに……」

「うん!」


 なんか照れるな……あのとき奮起したかいがあったかな……でも、本当は……。


「じゃあ、私も行くね!」

「ああ」


 エヴァもシャルたちのあとを追いかけていった。

 僕とノーファはそれを見送り、日が沈みそうな中、寮へと足を向けた。



 食堂でノーファと食事を済ませ、自部屋でシャワーを浴びた。まだ眠くないので、なんとなく部屋に備え付けられているテレビをつける。

 エイジアでも、人間界と同じように色々なテレビ番組が放送されている。だが、今でもそれとなく見てしまうのは人間界の番組だ。

 人間界の様子を映し出して、ナレーションされているだけなのだが、懐かしさからか、ついついそのチャンネルに合わしてしまう。最近知ったことだが、意外に視聴率もいいらしい。人間界のトレンドを取り入れる悪魔がいるぐらいだから、当然と言えば当然かもしれないけど。

 そんな風に何気なく暇つぶしで、テレビをぼんやり見ていると、緊急ニュースのテロップがインパクトのある音ともに流れた。

 内容は隣国で同盟国でもあるカメリアにクラシカル軍が侵攻を開始したという内容だ。


まさか!? 


 保健室でのミランの深刻な表情が頭をよぎった。僕は携帯を手に取った。

プルルというコール音が鳴る前に相手が出た。


「アレル! 今、あたしもあんたにかけようと思っていたところだったわ!」

「ニュース、見たんだけど……」

「そうなの。援軍として、今カメリアに向かっている途中なの」


 声の中に風切り音が混じる。どうやら、ミランは空を飛んでいるようだ。しかも、かなりのスピードで。


「……戦うの?」

「ええ、そうね。同盟国であるカメリアをほっとけない。サタン様の指示でもあるしね。協力しないと」

「大丈夫だよね?」

「あら、心配してくれてるの? ありがと! 大丈夫よ、あたしは無敵のレベルレッドなんだから。カメリアにはレッドの悪魔はいないからあたしが助けてあげないと。バルサロッサ本人がいる情報はないから心配しないで」

「無事に帰ってきてくれよ」

「もち……ん……国外……たから……ね」


 電波が悪いのか、はっきり聞き取れない。

「……プツ、ツーツーツー」電話が切れた……。


 僕はベッドに寝転がった。いつも側で見守ってくれていたミランが、近くにいないと思うだけで、とてつもない不安に狩られた。それと同時にミランにもしものことがあったらと、悪いイメージばかり浮かんできてしまう。

 いや、ミランはエイジア最強の魔導戦士なんだから、彼女の言葉を信じよう。

 ミランが無事に帰ってくることを願いつつ、眠りにつこうとしたが、結局この日はあまり眠れなかった。


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