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第9話 逃げ出して生まれた命

 そのときだった。


「な、なんだ……」


 そう発したローマンの身体がビクンと脈打つように跳ねた。


「ローマンくん!?」


 先生がいつもののんびりモードではなく、驚いたようにローマンの異変に呼びかける。


「グガガガガガガガアァァァ!!!」 


 苦しみの極限のような声を上げるローマ

ン。

なんだ!? 何が起こってるんだ!? 

 僕はミランたちがいる観客席に駆け寄った。


「ミラン! あれはどうなってるんだよ!」


「魔力の暴走!? いや、違う……様子がおかしすぎる」


 ミランも険しい表情を浮かべた。

 ローマンは禍々しい黄色のオーラを放つ。凄まじい圧力だ。


「ローマンくん!?」


 先生がもう一度、呼びかけた。


「グガア!」


 ローマンは少し離れた所にいる先生に向けて、炎の矢を放った。


氷守盾アイシングシールド!」


 先生の右腕に氷の盾が生まれ、炎の矢を弾いた。先生の尾は青色に光っている。


「ミランちゃん! みんなを避難させて! ローマンくんは正気じゃないーーーがっ」


 先生はローマンにお腹を突かれ、首を掴まれ吊るし上げられた。


「先生! ノーファ、あんたがみんなを避難させて。あたしはローマンを止める!」

「御意」

「まず、結界を解かなくちゃ! 運営の生徒、モニター見てるでしょ! 早く解いて! あたしがローマンを気絶させるわ!」


 武舞台を包む結界は消えず、青から赤になった。


「そうはいかないのよねえ、ミランちゃん」


 闘魔館に設置されているスピーカーを通して、聞いたことのある声がした。

 この声は……ベルリッタ!? しかし、いつもと口調が違うような……!?


「どういうつもり!? ベルリッタ! 早くしないと先生が」

「先生なんてどうでもいいのよぉ。そこでその元人間を殺してもらわないと困るのよねぇ。あなたとノーファちゃんがいつもそのコに張り付いていたせいで、一年も待ったんだからぁ。この機会は逃せないのよねぇ~」


 おかま口調でとんでもないことを言いだしたベルリッタ。なんで僕が狙われているんだよ!? それにベルリッタってローマンのただの腰巾着じゃなかったのか!?


「あんた何者なの!」


 ミランは魔力で浮遊するカメラに鋭い眼光を向けて言った。


「わたしぃ~わたしはねぇ、あなたなら大体、察しがつくでしょ~レベルレッドさん」


 人を馬鹿にしたような口ぶりだ。


「それより、早くしないと先生死んじゃうわよ~そこの腰抜けクズ人間、キャハ!」


 先生は足をバタつかせて、必死に抵抗している。


「まさかあなたがあそこまで腰抜けだとは思わなかったわぁ。そのおかげで、そこのクズハゲは戦いをやめようとするしぃ~事故って形で殺してあげようと思ってたのにぃ~。せっかく、ハゲを薬でテイルチェンジしてあげたのにぃ~。使えないハゲなんだからぁ~」

「アレル! 先生を助けてあげて!」


 ミランは結界の外から叫ぶ。


「そんな無理だよ! ミランがやってよ!」


 情けないが足が竦んで、この場から動けそうにない。


「結界が解かれないと無理よ!」

「なんでだよ!」

「おそらく赤い結界はなんらかの仕掛けが施されているわ!」

「ご名答! ここに来てわたしを倒しても簡単には結界は解かれませ~ん。まあ、そんな時間ないわよねぇ~」

「ミランなら結界をこじ開けられるんじゃないの?」

「闘魔館の結界は厳重で、あたしの魔力を全部注ぎ込んでも破れるかどうか……それに破れたとしてもその後……」

「そうよねぇ~、魔力が枯渇したらいくらミランちゃんでも、ハゲは止められないわよねぇ」


 くそっ! 八方塞がりかよ! 僕がやるしかないのか。だけど、足がいうことをききそうにない。やっぱりムリだ! 僕は戦いのない平和な世界で暮らしてきた人間なんだよ。しかも、その中でもいじめにあって、恐怖に支配されてしまった元ダメ人間なんだよ!

先生の抵抗が弱くなり、尾の色がクリアになった。

 ミランが精一杯叫ぶ。


「アレル! あんた一度、自ら死のうとしたんでしょ! その時の絶望に比べたら全然ましなはずよ! いま、先生を助けられるのはあんたしかいないのよ! 先生はあんたにローマンが行かないように身を呈してあんたを守ってくれてるのよ!」


 わかってるよ……そんなことはわかってる。僕は自分の情けなさに唇を噛み締めた。

 その刹那、先生と目が合った。逃げてと言わんばかりの優しい目だった。

 だけど、僕は知っている。人は最後の最後まで、詰んでいる状況でも助けを求めていることを。

 この時、僕の中で何かが弾けた。そうだ……どうせ拾った命だ……生きる事から逃げ出して生まれた命だ。


 僕は気づくと、魔力全開でローマンにショルダータックルをぶちかましていた。


「ぐあっ」


 先生が地面にどさりと倒れこむ。僕は駆け寄る。


「先生!」


 意識はないが息をしている。どうやら間に合ったようだ。

 ローマンが起き上がり、

「グガガガガァ!」と物凄い奇声を放ち、こちらに迫ってきた。恐怖から全身の毛が逆立つ。


「アレル! 授業やノーファとの訓練を思い出して!」


 ミランが僕を鼓舞する。

 そうだ、戦えるだけの準備はしてきたんだ! 自信を持て! 昔の僕じゃないんだ。悪魔になったんだ僕は! 

 左肩が血で滲んでいる。こんなものあの時のクラスでのいじめに比べたら屁でもない!

この身はどうなっても、先生だけは助けてみせる!

 僕も暴走したローマンへ走りだし、パンチを繰り出した。的確に顔面を捉えた。


「ガア!」


 それでも怯まない。ローマンは腕を振り上げる。大丈夫、見える。振り下ろしてきた腕をバックステップで回避する。地面が爆発したかのように砕ける。

 土煙が舞い、武舞台の破片が飛び散る中、前に跳んで左回し蹴りを放った。


「ガァァ!」 


 ヒットして、ローマンはよろめいた。

 ここだ!


「ハアアァー、雷轟拳ライゴウケン!」


 雷を拳にまとわせた一撃がローマンの腹に突き刺さる。


「ゴアアアァァァー!」


 ローマンは吹き飛び、結界に衝突して倒れた。


「ハアハア……やった……」


 なんとか勝てた……そう思ったところで僕の視界は暗転した。

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