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6話 PKLSの真実

「…え…」

拓哉は呆然と立ち尽くしていた。

その原因はこのゲームの理不尽すぎるルール。ただの仕様にしては、リアルで妙に現実味を帯びていたあのルールがジンヤの頭から離れないのだ。

(嘘だろ…?たかがゲームで…死ぬ?!そんなバカなことがあるわけないだろ…?)

ジンヤの顔色が変化していくのを見たミユが、

「ま、当然の反応だね」

と言った。ジンヤは半分自棄になりながらミユに問う。

「これって…冗談ですよね?ゲームで…死ぬなんて。こんなこと、あるわけ…」

ないですよね?と、言おうとした時、

「本当だよ、これは」

と拓哉の言葉をさえぎった。さらに続けて、

「まったく、製作者もアホだよねぇ。ロールプレイの類いかと思えば、本当に人殺そうとしてんだから」

呆れ気味にミユは言う。

「ログイン勢対策に、適度な難易度。さらには、GM付きときた。まったくどういう…」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

何を言ってるんだ?話についていけない。ミユが何を言っているか分からない。難易度?ログイン勢?何を言ってるんだ?

…これは"ゲーム"なんだぞ?!

人殺しに来てるって…なんの話なんだよ?!

「死ぬってどういうことなんです?…試したことも無いのに、決めつけちゃ……」

「もう何回も試した」

狼狽えるジンヤに、ミユは静かに答える。

「いや、試そうとした。かな?」

ミユが平然としていても、その表情に微かな諦めが混じっているのが分かる。

「最終ログイン時間から1時間を切ると、ここだろうが、現実だろうが、頭に警告音が鳴り響いてものすごい痛みが腹にくるのさ。その度に、腹に穴空きそうになったけどね」

「それで…どうしたんですか?」

そう聞くと、ミユは笑って、

「そりゃあ、急いでログインして敵を狩ったさ。そんなことで死んじまうのはごめんだからね〜」

そう、ミユは分かっているのだ。このゲームに従うしかないことを。何者かも分からない人間の手のひらの上で踊らされることを。

「そうそう、おどろくのはまだはやいよ。…実は、ルールはまだあるんだ」

「え?ルールはあれで全部じゃ…」

「いや、あれが全てじゃないよ。…裏ルール、って私は呼んでるかな。ルールの抜け道を塞ぐようなもんだから、無数にあると考えていいだろうね」

ミユは続ける、ジンヤにこのゲームの真実を伝えるために。

「そのひとつが…このゲームでHPが0になると…現実の自分も死ぬ、ってこと」

「……へ?」

…なんなんだよ、それ。…そんなの…。

ジンヤはあまりの衝撃に声も出なくなっていた。

こんなものゲームじゃない。…こんなの、ただプレイヤーを殺すためのようなものじゃないか…。嫌だ…。やめたい、すぐにこんなゲームをやめてしまいたい。はやく渚や母さんと話して楽になりたい…。

「嘘だろ…こんなの…」

今のジンヤは、気が動転していた。

次から次に分かってくるゲームの真実。それが、ジンヤの精神を蝕んで来ていたのだ。

いつもなら、ここで笑い飛ばしていたはずなのに。設定迫真すぎ、とか馬鹿にしていたかもしれないのに。

それでも、PKLSの言葉は、ミユの言葉は、ジンヤにそれ以上の実感を湧かせた。

もしかすると、自分は死ぬのではないか。あの生き物達もこの事を悟られない布石ではないのか。自分は散々踊らされて殺されるのではないか。

確信のない想像がジンヤを追い詰める。考えれば考えるほど、悪い考えが浮かんでくる。

いつのまにか、全身は得体の知れない恐怖感で満たされ、足は震えていた。こんな姿を見れば、無様だと笑う人間も少なくはないだろう。

「い、いや!でも……」

出てくるのは否定の言葉ばかり。でも、だが、それでも、しかし……

そんなどうしようもない言葉では、自分の不安を取り除くことはできないのに。

「いい加減、現実を受け止めなよ、ジンヤ」

ミユは、さっきから顔色ひとつ変えていなかった。

だが、ジンヤにはそのことが不思議でならない。

こんなにも怖いことなのに…なぜ平気でいられるのか。ジンヤにはそれが不思議だった。

ジンヤは気を緩めれば、今にでも動けなくなりそうなのに。

「なんで…ミユはそう平然としてられるんですか?…もっとこう…怖いとか思わないんですか?」

だが、ジンヤの疑問に対する答えは思わぬものだった。

「そりゃ怖いさ」

「へ…?」

「そりゃ怖い、私だって死ぬのは怖いよ。最初知ったときは、もうどうなるかと…。…でもさ、このゲームやってると、私って生きてるんだなあ、って実感が湧くんだよね。不思議でしょ?…死がすぐ横にあるからなのかな?」

自分の好きな物の説明をしているように話をするミユ。

この表情から、ジンヤはミユが顔色を変えていなかった理由を察する。そう、この人は怖いと思っている、でもそれ以上にこのゲームを楽しんでいるのだと。

だから、死をものともせず自分に語ることができたのだと。

「それにさ、いつまでもクヨクヨしててもゲームクリアにはならないでしょ?…ならいっそのこと全部受け止めて、その上で悩むのさ」

「その上で…悩む…」

「そう。そうすれば何か策が見つかるかもしれないし、ある日突然、ゲームがクリアされるかもしれないよ?」

「…さすがにそこまでは無いと思うんですが…」

「いや、あるかもよ?…逆にそうなったら最高じゃね?」

無邪気そうな笑顔でジンヤに笑いかけるミユ。

(ミユの言っていることは分かる…でも…)

正直、ジンヤにはまだ分からないことだらけだし、怖いと思う気持ちは変わらない。

…でも、それでも。

(悩んでちゃ…始まらないんだ…)

「…分かりましたよ。やれるだけ…やってみますよ」 今のジンヤはまだ気持ちの整理がついているとは言い難い状態だ。

ミユがあれだけ平気でいられるのは、何年と時間をかけたて気持ちに折り合いをつけたのかもしれないし、ミユの周りにはもっと沢山の支えとなるものがあるからなのかもしれない。

自分の心の中で、本当は逃げてもいいんじゃないか、と思っているところもある。もう少し時間を置いてからこのゲームを始めたっていいのかもしれない。

でもやっぱり、それじゃ駄目なんだ。ミユが自分のために色んなことを話してくれたんだ。

それなら、自分自身もやれるだけやってみたい。…そうだ、思い出せ拓哉。これが"退屈な日常"を終わらせるかもしれないきっかけなんだから。

なにより、こんなに頼りになる人もいる。

ミユの言葉に納得して、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をしたジンヤは、体が軽くなったような不思議な感覚を覚える。

これが、安心…というものなのだろう。

「ハハハハハ…なんだか、さっきまでがバカらしくなってきましたよ…」

「いや、それが普通だよ。むしろ君は切り替えが早いほうじゃない?」

そう言って笑顔でジンヤに語りかけるミユの姿は、弟と話す姉のように見えたのだろう。


「じゃあ、改めて。さっきの話どうりなら、一体どうするんです?悩む、って言ってもなんかいきなり無理ゲー臭が…」

早速諦めかけているジンヤにミユが即答する。

「いや、簡単だよ。このゲームを…クリアするんだ」

「クリア?!…いつまで続くかわからないゲームを…クリアって正気ですか…?」

驚くジンヤにコクンと頷くミユ。

「いや、これが妥当な考えなんだよ」

そう言ったミユの顔には、確かな決意があった。僕には到底持つことのできない、強い意志がそこから感じられる。

「さっきも言ったけど、このゲームにはGMがいる。そいつをぶっとばして、システムをいじる。そうすれば、このゲームを止められるはず」

GM、つまりゲームマスターを倒しに行く。ミユはそう言うのだ。

それがどれだけ無謀な事かは、ミユも分かっているだろう。

分かっていながらも、そう言うのだ。

「でも…GMがいる、ってなんで分かるんですか?ルールには明記されていないのに…」

「そりゃ、私が一度あいつに殺されかけたからさ」

ジンヤはそれを聞いて鳥肌が立っていた。

殺されかけた、それは文字どうりに命を奪われかけた。そういうことだろう。

つまり、GMは自分たちの冒険を邪魔しにくるかもしれないということ。

「私が始めたての頃、一週間くらいザコ敵を狩ってたら、突然現れたんだよ、死神が」

「し、死神?!」

「うん、死神。明らかに場違いで、こんなところに現れる方がおかしいクラスの。まあ、命からがらこの町に逃げられたから良かったけどね」

場違いなモンスター、GM…この2つのワードから導きだされる答えはひとつ。

「なかなか進まないミユに、痺れを切らした…から?」

ミユは頷いて、

「ご名答。そう考えるのが普通さ」

と言った。

「要するに、毎日ゲームを進めていくだけ。レベルとストーリーを同時進行。ね?やることは簡単でしょ?」

毎日ゲームを進めていき、なおかつGMの魔の手から逃げ延びる。

確かに、やることは明白だ。でも、実行にどれだけ骨が折れるか分かったもんじゃない。

そして、なにより…

「でも僕…VRMMOでの戦い方なんて分からないですよ?」

そう呟くとミユは、少し考えて、

「あー、そか。えと、まあ、その何だ。…こんな事に巻き込んだのは、私の勧誘のせいだし、罪滅ぼしといってはなんだけど…私とチーム組まない?」

そう言うと、ミユはメニューを操作し、ジンヤにチーム申請を送った。

《ミユ から、チーム申請が届いています。承諾しますか?》

つまり、自分はこれからミユと共に行動していくということだ。嬉しい反面、あまり気は進まなかった。

自分が足を引っ張るんじゃないか、そう思ってしまったからだ。

伏し目がちなジンヤを見てか、ミユはこう言った。

「ああ…罪滅ぼしとかそんなんじゃないよ。単にチームを組んだらいい事がある、ってだけ。戦闘に参加してなくても経験値はもらえるし、ゴールドは同一化。そして、敵を倒す数も」

このことを聞き、ジンヤは考えた。

(敵を倒す数も…ってことは、僕が倒せなくてもミユが倒せば、それは僕たちの倒した数になるってことなのか?僕が、あるいはミユがプレイできない時は、どちらかが敵を倒していれば、死を免れることができる……これだ!)

そんなジンヤの考えを見透かしてか、

「そそ。今君が思った通りだと思うよ。どう?いい提案だと思わない?」

なんて、笑いながら言ってくる。

「…うん、わかったよ、ミユ」

そして、ジンヤはメニューの はいのボタンに触れる。

すると、コミカルな効果音と共に、

《ミユ とチームになりました》

と表示される。

「これで…僕たちは」

「うん!チームだよ!」

目を合わせて笑い合う二人。とはいえ、ここから始まるのはラブコメなんぞではなく、正真正銘のデスゲーム。楽しそうに笑っている場合でもないだろう。

すると、ミユは急に立ち上がり、

「よーし!これでゲームを始める前のチュートリアルは終了!旅の目的なGMをぶっとばすこと!」

大きな声を出して、ジンヤを奮い立たせようとしているのか、手のひらをこちらに向けてくる。

「…お、おー?」

と手を控えめに挙げると、

「声が小さーーい!」

と怒鳴られてしまった。…なぜだ。

そんなミユのテンションに乗せられてか、すかさず手をピンと張り、

「おーー!」

と言っていた。

またむせるかと思ったけど、ゲーム内だからか、大丈夫だったようだ。

(…何やってんだろ、僕…)


そうして、ジンヤとミユは酒場を出て、はじまりの町を離れた。

「今からは狩りっていうか、戦闘を行うよ。準備はいいね?」

「準備…ですか」

何をしたらいいか分からないと思っていた矢先、ミユは自身の身長と同じくらい大きな斧を取り出した。

大方、メニューのアイテム欄から取り出したのだろう。金色に光るダイナミックな斧はレアアイテムを彷彿とさせる輝きをもっていた。

「あ、これ…光ってるけどレアアイテムじゃないからね?」

…どうやら違ったらしい。

「いつかね…私のこの斧でGMの頭を一発どついてやるのが目標なんだよね〜。お前はとんでもない馬鹿野郎なのかー!ってね。まあ、いつそこに辿り着けるのかは分からんけどね」

ミユはそう言うと、銀の鎧のような装備を具現化させる。

ミユのほうは、もう臨戦態勢のようだ。

「んじゃ、いこっか。ジンヤ?」

「はい!」

ジンヤはガラにもない返事をし、ミユについていく。

なんだろう、ミユと一緒にいればどんな事が起きても、乗り越えられそうな気がする。

ミユと話しているうちに、いつのまにか恐怖心は消え、この冒険にワクワクしている自分がいる。

狙うはゲームクリア。それを目指して、今はただ進む。ミユと一緒に。

こうして、僕の剣と魔法と後悔の物語はようやく始まったのだった。

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