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5話 PKLSというゲーム

ジンヤが目を覚まし、最初に目に入ったのは、どこかで見知ったような光景だった。

青い空に、石を敷きつめたような床、中世の町のような町並みが広がっている。

そう、ここはもうPKLSの中なのだ。

なかでも、道具屋や宿屋などの建物の作り込みが細部まで忠実に再現されていることに感心を覚える拓哉だった。

「うわぁ……」

あまりの壮大さに感嘆の声をあげる。

そりゃ、昔やったゲームの町に直接入ったような感覚を味わえば、誰でもこうなってしまうだろう。

(この町を探検したい…けど駄目だ。お姉さんを探すんだろ)

ジンヤはなんとか踏み止まり、お姉さんを探すことを優先する。

ゲームに時間制限は無いのだろうし、後からでも大丈夫だ、そう思っていた。

足を動かす感覚を味わいながら、お姉さんを探しているのだが…居場所が分からない。一応はじまりの町で待ち合わせとはいえ、そこまでせまいわけでもないだろうから、動かなければならない。

そこで、仕方がないから誰かに聞こうと思い、周りを見渡した矢先に、あることに気づいてしまった。

そう、町にいるのは全て"かわいい生き物"の姿をしていた。ピンクのクマ、白いネコなど、色とりどりの生き物の格好をしたものがこの町に溢れかえっていた。

はたから見れば、すごくカオスな状況であろう。

対する拓哉は黒髪に柔らかな目つきという、現実となんら変わらない容姿に、ボロボロの服に安そうな剣をつけた、いかにもファンタジーの初期装備という格好。いや、この世界においては場違いではないと思うのだが…。

…それとも、この世界の常識では、この着ぐるみみたいな格好が普通なのだろうか?


結局のところ、ジンヤは聞きこむことにした。

こんなところでコミュ症を発揮していられないし、オンラインゲームなら、こんなネタ装備の人はわんさかいるはずだ、と自分を納得させることでなんとか踏み出したのだった。

だが…

「あの…こう、女の人…見ませんでした?」

「…………」

返事がない、まるでただの屍のようだ。

…何回目だろうか。こうしてクマやネコなどの前に立って会話しようと試みるのは。

それも結果は全てガン無視、生き物達はただ一定の方向に歩いていくだけだった。

この状況から、ジンヤは悟った。

(…あれ?…最初から詰んでね?)

拓哉がこのままお姉さんを探すことができなければ、ゲームについての説明を聞くことができないだろうし、ゲームを終わることもできない。これでは、砂漠にミイラになりに行ったようなものではないか。

唯一の頼みの綱のあの生き物(?)への対話はというと…もう無理に等しいものだ。

まず、会話が続かないのだ。

ジンヤのコミュ力のせいもあるだろうが、あのお姉さんの特徴といっても、このゲームではどんな姿をしているか分からないこと。

そして、このもふもふしたクマ達も話そうとしないこと。

…せめて首を振るかなんかして答えてくれよ。…なに?この格好が気に食わないの?

まあ、そんな皮肉めいたことを言ってもどうせ反応しないだろうが。

ジンヤは自分の圧倒的コミュ力の無さに絶望していた時…、

「やっほ〜」

と、ジンヤに軽い挨拶をした人が現れた。

誰かと思い顔を見ると、

「あれ、君…現実と変わんないね?」

その人は現実となんら変わらない顔をした女性であり、僕が探していた人物。

そう、お姉さんが来てくれたのだった。


そうして、ジンヤらは酒場にやってきていた。

まあ特に何かをすることもなく、話し合うだけだ。

「…………」

少しの沈黙に耐えかねてか、お姉さんが口を開いた。

「えっと…自己紹介、してなかったよね?私は、高橋美結、っていうんだ。高校2年。君は?」

こうも淡々と自己紹介を済ませてしまうお姉さんはやはりすごい。

呼び方は、美結さん…、美結先輩…、この場合何と呼ぶのが正解なんだ?!

そんな嘆きを声に出す間も無く、ジンヤは答える。

「その…仁野拓哉です。中学3年…あの、美結…さん、よろしくおねがいします」

そんなジンヤの様子を見てか、お姉さんは笑って、

「アハハ、そんなにかしこまらなくていいって。敬語も使わなくていいし、名前もアバター名の呼び捨てで構わないよ」

そう言われて美結さんのアバター名を見てみると、Miyu、と表記されてあった。

…いや、それって、普通の呼び捨てじゃん。

年上の人にそれって…良いのかな…?

若干の不安を抱きつつ、緊張気味に言ってみる。

「あの…じゃあ、ミユ。よろしく…」

「うん!よろしくね、ジンヤくん」

すると、ミユは嬉しそうに笑った。

そんなミユの顔を見ていると、こっちまで嬉しくなりそうだ。

…思えば、家族以外で僕なんかと話して笑ってくれたのは、ミユさんが久しぶりだな……。

そんなジンヤの考えなどいざ知らず、ミユが悪戯っぽく話してくる。

「そうそう、君さっき、あのクマと話してたでしょ〜?」

「あ、はい。ミユを探してて…」

「うーん…そう言われると嬉しいんだけど〜、あれ、NPCだし、話せないんだよ?」

「え?」

ジンヤは、驚いて声をあげてしまう。

NPCとは、簡単に言うと、機械が動かすキャラのこと。要するに僕は、現実で電柱と話していたようなものなのだ。

なんと恥ずかしい……。

「君、本当にこの世界について知らないんだね〜。初めてにしては、妙に落ち着いてるし」

「落ち着く?なにかあるんですか?」

そう聞くと、ミユは目を見開いて驚いていた。

「えぇ?!君、最初のルール読んだんでしょ?!」

ルールと言われても、さっぱりピンとこない。

最初の画面の時だろうか?それなら…

「えと…多分それ、ミユを待たせちゃいけないし、後から確認できるらしいので、見てませんよ?」

平然と言うジンヤにミユは、呆れていた。

「はぁ〜。呑気だねぇ〜、君は。何?ゲームでは、そういうキャラでいこうとしてるの?」

ミユが冗談混じりに言ってくる。

「いや、そんなこと言ったらミユだって、明るいお姉さん、って感じじゃないですか。現実じゃあ、あんなに綺麗だったのに」

やや辛辣にジンヤがそう言うと、ミユは頬を膨らませて、

「なによ〜それ。まるで今の私が綺麗じゃないみたいじゃない。……まあ、いいや。それより、メニュー開いて、ヘルプからルール見なさいな」

「メニュー?……」

知らない言葉の連続に困惑していると、またしてもミユがそれを察したようで、

「ああ、初めてだったね。えと、メニューを出すには、頭の中で、出ろ、って念じて腕を振る。そしたら、いろんなのが出てくるから、タッチして選ぶ。それだけ」

「それだけ?!」

あまりの簡単さに耳を疑うが、ミユが言うのだから本当なのだろう。半信半疑ながらもやってみる。メニュー出ろ…メニュー出ろ…メニュー出ろ……。

そして頭の中でイメージしたまま、ジンヤは腕を振った。すると、効果音と共にたくさんの項目が出現する。

アイテム、装備、目的、仲間、スキル、ステータス、ヘルプ…と様々な項目からヘルプを選択する。

そして、その中のルールをタッチ。

その瞬間、ジンヤの前に文字が表示された。


ルール

・この世界は、敵を5回倒すまでログアウトできません。

・名前は、相手の承諾を得るか、特定の親密度、もしくはアイテムで、確認できます。

・このゲームのプレイ中は、現実の時間は止まっている扱いになります。

・このゲームは、レベルあり、スキルありです。

・最終プレイから24時間以内にログインしない、もしくは、その時間以内に敵を5回倒さなければ、


"現実のあなたが死にます"。


そこで、ルールの説明は終わっていた。

…どういうことだ?…死ぬ?…ゲームで?

頭が追いつかない。これはいったいどういうことなんだよ…。

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